狂女28_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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狂女28

15-06-14 09:12

この話はつづきです。はじめから読まれる方は「狂女」へ

もうどうなっても構わない。
僕は加奈さんを連れて公園へ戻って行った。
途中、見世物小屋の客寄せの声が風に乗ってはっきり聞こえており、さらに、これから夜桜を楽しもうとする人たちが公園に向かっていた。

そんな夜の花見の誘惑に僕の気持ちは一層高ぶっていき、付きまとっていた不安を搔き消してしまうのだった。
公園は尚も人で活気があり、桜の木に掛けられた無数の電球が灯って夜桜の感を呈している。
「きれい、きれい!」と加奈さんが手を叩いて喜んだ。
石橋から川岸を見下ろすと、花見客たちが桜の下で酒を飲んだり踊ったりしている。
加奈さんは欄干に手をやり、彼らを愉快そうに眺めた。
毎日を兄と二人だけで暮らしている加奈さんは大勢の友達と遊び戯れる彼らが羨ましいのかもしれない。
僕もしばらく一緒に見ていた後、石橋を渡って桜に近付いて行った。
夕闇を背景にした人工下の桜は幻想的な美しさに満ち、心が浮き立つ。
加奈さんは一本の桜の木の下に立ち、「ああ・・・」と口を開け、うっとりしたような、あるいは呆けたような表情で桜の花を眺めていた。
その間、髪が風でなびいており、花弁が時々ひらひらと散っている。
僕は人の目が気になりながらも彼女と手を繋いだままじっと立っていた。

つづき「狂女29」へ


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