狂女23_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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狂女23

15-06-14 09:12

この話はつづきです。はじめから読まれる方は「狂女」へ

加奈さんは池のガチョウを眺めているのか、橋の中程から動こうとしない。
「どうしたの?」と、立ち止まって反り橋の方を眺めている僕に向かい、友里恵さんが怪訝な顔をして聞いたので、「いや別に」と答えて又歩き出した。
桜の木々が続く中を進むうちに橋のたもとまで来て渡る事にした。

他に数人の観光客が橋を渡っている中、僕は斜め後ろから加奈さんをちらちら見た。
それでも彼女は池の方を見下ろしている。
友里恵さんと一緒の為、加奈さんを呼ぶ事も出来ずに短い反り橋を渡り終えた。
名残惜しい僕はこのまま加奈さんから遠く離れてしまうのが嫌で、彼女の姿を見られる橋の近くのベンチに腰を下ろした。
友里恵さんは、「もっと向こうへ行こうよ」と立ったまませがんだが、無視した。
青空に暖かい日差しの行楽日和。
満開まで待ちきれない人々で賑わっている。
しばらく園内の桜を楽しんでいた後、橋の方に目をやると、加奈さんが一人でまだ橋から池を見下ろしている。
叔父はどこへ行ったんだろう?と辺りを目で探したら、橋から少し離れた所のベンチに掛けて彼女を見張っている。
ちょうど僕たちとは反対側だ。
僕はしばらく迷っていた後、「ちょっとここで待ってて」と友里恵さんに言って立ち上がり、橋に向かった。
その時、二人連れの女性が加奈さんに写真のシャッターを頼んだ。
加奈さんは二人を見ても痴呆の表情で黙っており、そんな彼女を女性たちは変な顔で見ていたが、一人が、「もしかして、あなた、加奈?」と確かめるように聞いた。
加奈さんは頷いた。
「わあ、久し振りー!」
「ええ?加奈だってえ?」
二人はあまりの偶然にはしゃいだ。「あれからどうしてたのお?」
しかし加奈さんが尚も呆けている為二人は、「加奈・・・」「・・・」と沈むのだった。
僕は目の前の光景を信じられない思いで見ていた。
偶然に撮影を頼んだ二人の女性は見た目が加奈さんと同じ年恰好だ。
顔と姿こそ違えど十八年前の様子を目の当たりにして深い感慨にとらわれ、しばらく立ち尽くしていた。

つづき「狂女24」へ


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