狂女21_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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狂女21

15-06-14 09:12

この話はつづきです。はじめから読まれる方は「狂女」へ

僕は軽く苦笑いをし、賑やかく華やかな雰囲気のある境内を仲良く歩いて行ったが、もうすぐ神社を出ようとした時、人混みの中を加奈さんと勝叔父が神社に近付いて来るのに気付いて思わず立ち止まった。
「どうしたの?」
僕は彼らに気付かれないようにと友里恵さんの手を引いて境内の端へ向かった。

「何よお」
友里恵さんは怪訝な顔で聞いたが、小声で、「知っている人がいるんだ」と答えた。
「いたっていいじゃない」
しかし僕は黙っていた。
やがて加奈さんたちが境内に入ってきた。
二人は改まった服装ではなく、叔父は灰色のオーバー、加奈さんの方は紺色のオーバーに長めの黄色いスカートで、首にマフラーを巻いている。
「ねえ」と友里恵さんがじれったそうに言った。
僕は加奈さんたちが人混みの中を通り過ぎるまで待つつもりでいたが、友里恵さんの方は僕のどんな知人なのか知ろうと前をきょろきょろ見ている。
それでも、幸い気付かれる事もなくほっとして神社から出た。
「知られてはまずい人?」
「まあね」
しばらく黙って歩いていた後、友里恵さんが、「もしかして女の人じゃない?」ときつい口調で聞いた。
僕はぎくっとし、顔に厳しい視線を感じた。
「そうでしょう?」
「いや」
否定したものの、見破られて内心動揺した。
「ふん。隠したってわかるんだから」

気まずいまま雑踏の中を並んで歩いていた。
その間も、通り過ぎる男たちが友里恵さんの方に目をやっている。
人並み以上に美しく魅力的な振り袖姿の友里恵さんと一緒なのが誇らしくもあったが、そうしている内に、加奈さんたちとばったり会ってしまうのではないかと少し不安になってきた。
友里恵さんの機嫌もようやく直り、僕たちは新名古屋駅前へ行って遊ぶ事にして神宮前駅に向かった。
混み合う電車内、隣に友里恵さんがいるのも構わず僕は吊革につかまって加奈さんたちの事ばかりを考えていた。
加奈さんが今なお兄と一緒に外出するのは仕方が無いとわかっていても面白くなく、胸には嫉妬と不満がくすぶっていた。
愛していながら自由に出来ず、ほとんどの日々をやはり勝叔父に任せざるを得ない・・・。
神社で見た加奈さんの黄色いスカートがやけに鮮やかに感じられ、正月の華やいだ雰囲気でのやや陰りのある美貌が僕をたまらなくさせた。
幸福に輝く友里恵さんからは求められない。
その時僕はふっと、加奈さんと友里恵さんの二人を一緒にしたらどうか、と思い付いた。
加奈さんはもう三十代半ばになっているが、精神状態は十七歳の時に破壊されて以来ほとんど停滞したままで、そんな人を、今幸福な十六歳の友里恵さんと直接比較したり、お互いによく知ってもらいたい気がした。
ただ、それは一つ間違えば取り返しのつかない事になってしまう・・・。
電車から降り、普段より落ち着いた気のする駅前街路を歩く。
「デパートはまだ閉まってるんでしょ?」
「そうだな」
僕たちは特に目的も無く歩いた。
青空は広がっているが、さすがに寒い。
呼吸するたびに白い息を吐くので、ゴジラごっこと称して何度もわざと大きく息を吐いたら友里恵さんがけらけら笑った。
「浜田さんもやったら?」
「嫌よお」
なおも笑っている。
正月らしく、和服姿の女性と時々行き交った。
「やっぱり浜田さんが一番きれいだな」
「ありがとう。何か奢らなくちゃ」
しばらくして、「でも、《浜田さん》というのはもうやめてほしいな」
「じゃあ、何て言うんだい?」
「《友里恵さん》とか」
僕は思わず噴き出した。
「何よお」
膨れた彼女に耳を捻られた。
「いててて・・・」
憎めない友里恵さんと一緒に、元来た道を引き返して今度はJR名古屋駅方向に向かった。
駅に近付くに連れて人が多くなり、構内に入ると、旅行ケースを引いている女性たちや、友達同士数人で喋っている女性、あるいは人を待っている男女など実に賑やかい。
「旅行か。いいなあ」
羨ましそうに言う友里恵さん。
僕も大勢の人々を見ていて同じ気持ちになった。
加奈さんや友里恵さんと旅行出来たらいいな・・・。
お年玉を貰ったので思い切って・・・。しかし決心はつかない。

つづき「狂女22」へ


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