この話はつづきです。はじめから読まれる方は「狂女」へ
学校が休みの日には、満たされないまま神社へ行ってはあの夜の事を思い出していた。
それほど広くない境内には他に人はおらず、カラオケ大会が行われていた建物はしっかり閉められ、露店が並んでいた所には木の葉が落ち、闇夜に赤々と燃え盛っていたかがり火はまるで幻想だったかのように、平凡な石柱が二本立っているばかりだ。
祭りはすっかり過去の事、いつもの寂しい風景に戻っていた。
僕は両手をズボンのポケットに入れて社殿の裏へ行き、加奈さんを犯した所に立った。
あの夜、興奮のあまり夢中で腰を上下に動かして勝手に果てた・・・。
目の前の白壁と石垣を背に、闇夜を通しての加奈さんの幻の像が映し出され、何とも言えない気分になった。
叔父さんは今も妹を抱いているのだろうか?
ブラジャーを外し、パンティを脱がして・・・そう思っているとたまらなくなった。
落ち着き無く辺りを歩き回り、叔父から加奈さんを取り上げる良い方法は無いかとあれこれ考えたが全く浮かばない。
このままずっとこんな気持ちでいなくてはいけないのかと溜め息が洩れ、やるせない思いで神社を後にした。
毎日が中々進んで行かないながらも一月、二月と経って行く間に、同じクラスの浜田友里恵という女生徒と親しくなり、僕の加奈さんへの思いは淡いものになっていった。
街中ではクリスマスの音楽が流れ、時には年末の話題が上る頃、僕は名古屋駅近くの大時計で、人待ちをしている他の人たちに混じって友里恵さんを待っていた。
約束の一時を十五分近く過ぎても来ず、苛々して周囲を見回していると、目の前のデパートから勝叔父と加奈さんがそれぞれに大きな買い物袋を提げて出てくるところを見た。
加奈さんは白いセーターにグレーのパンツという格好で、その二人の姿を目で追っていると「遅れてごめんなさい」と友里恵さんの声がした。
「ああ」
僕は彼女と一緒にデパートへ向かったが加奈さんの事が気になり、出入口のすぐ傍まで行くと「ちょっとここで待ってて」と友里恵さんに断り、人混みの中を加奈さんたちの方へ歩いていった。
「叔父さん」
後ろから呼ぶと二人が振り返った。
「おお、雄一君。久し振りだな」
「ああ!」
加奈さんは目を輝かせている。
「今日は買い物だったんですか?」
「そうだ」
「もう帰るんですか?」
「おお」
僕は加奈さんに思わず見惚れた。
白粉が薄く塗られ、頬には紅がうっすらと差し、唇には濃いピンク色の口紅が塗ってある。
正に色香が匂い立つようで、その美貌と相俟ってくらくらしそうだった。
「今日は一人かい?」
「いえ、友達と一緒です」
「そうか」
「あの、叔父さんたちの住所を・・・」
「家に来るのか?」
「出来れば・・・」
叔父は苦笑した。
「今は携帯の番号でいいかい?」
「はい」
僕たちはデパートのすぐ傍へ行き、自分の携帯電話に叔父さんの番号を登録していった。
そこへ「雄君、いつまで待たせるのよお」と友里恵さんが膨れて近付いて来た。
「ああ、ごめん」
「彼女かい?」
叔父さんがにやついて聞いた。
「いえ、違います」
友里恵さんは黙っていたが、自分に注がれる加奈さんの視線に敵意を感じて彼女を睨み返した。
やがて僕と友里恵さんは一緒にデパート内の喫茶店へ行き、しばらく待った後、向かい合って共にコーヒーを頼んだ。
「あのおばさん誰?感じ悪い」
「どうって?」
「私を変な目で見て」
「まあ、そう言うな。あの人はかわいそうなんだから」
「何で?」
僕は加奈さんの過去を言っていいものかどうか迷ったが、結局話す事にした。
「あの人は俺の母さんの妹、つまり叔母なんだけど、高校時代に強姦されて気が変になっちまったんだ。そのせいで結婚も出来ず、今もずっと兄の世話になってる」
「ふうん・・・」
友里恵さんはしんみりしている。
僕は自分や叔父さんに都合の悪い事は勿論話さなかった。
「気の毒ね・・・。でも女優みたいにきれいね」
友里恵さんは気分を直し、それ以上は突っ込まなかった。
その後僕たちはCD売り場や書籍売り場などで遊び、さらに或るファッション・ビルへ行って十代向けの洋服店などで楽しい時間を過ごした。
再び外に出た時にはすでに暗くなっており、ビルの明かりや、行き交う車のヘッドライトなどで感傷的な気分になった。
「夜もずっと一緒にいる?」
友里恵さんは恋人のように僕の腕に手を回して笑顔で聞いた。
「ばーか」
僕も笑って答えた。
「ふふふ」
お似合いのカップルのようだ。
しかしそうしていても僕の胸には加奈さんへの熱い感情が湧いており、友里恵さんではどうにも満たされなかった。
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