着物姿で神妙な面もちリビングのソファーに座り対峙する男の顔を見据える女がいた、女の名は長谷川聡美(48歳)そしてその前に対峙する男の名は村住勲(58歳)村住勲はソファーに深々と座り下品な笑顔を浮かばせ長谷川聡美を見据え似合いもしない洋モク葉巻をキザっぽく指に摘んでした
「まあ、僕と長谷川君とは袂を分けたとはいえ大学時代は一緒にラグビーで汗を流した訳だし、彼を助けたいのはやまやまですよ」
村住勲はしたり顔で長谷川聡美の顔をチラチラと見ながら指に摘んだ葉巻をテーブルに置かれたガタいの大きい硝子製の灰皿に置いた
「しかしね、まあ何と言いますか、長谷川君が遣った事は立派な犯罪ですから、何と申しますか、まあ、あれですね、仕方ないかと僕は思いますよ」
村住勲は身体を起こし再びソファーに深々と身体を沈めた
「あの、ですが、弁護士さんも今回の横領事件は極めて冤罪に近いと仰ってくれているんです!でも証拠が無いんです!でも、あの領収書の発行は村住さんの会社ですし、社長の村住さんの方から何とか再度お調べ頂ければ」
長谷川聡美が言った途端、今まで笑顔であった村住勲が顔色を変えた
「何ですか奥さん、内の経理部の者が不正をしているとでも言いたいのですか?こっちはきちんと警察にも其方の弁護士さんにも協力をしているんですよ!それをまるで此方が悪い様な言い草ですなあ!」
急に激昂した村住勲に長谷川聡美は慌て直ぐに謝罪を何度もした
「申し訳有りません、言葉が過ぎたのも謝ります、ですが其方の領収書の金額が異なる事は明白でも有りますし、村住さんの方から今一度お調べ願いませんか?、この通りお願いします」
聡美はソファーから降りると床に正座をし土下座をした、額が床に付き深く頭を下げる聡美のうなじが艶っぽく見えその姿に村住はほくそ笑んだ
「まあ奥さん、頭を上げて下さい、私も大人気なかったですね、分かりました、今一度、私の方から部下の者に指示しましょう、ですがね、これで何も出なければ貴女に其れ相応の謝罪をして貰わなければ成りませんよ!」
ギョロとした目で睨む村住は微かに笑っているようでもあった
そしてこの日から一週間後、聡美に連絡が入った
それは村住勲の会社からであった、聡美は指示されたシティーホテルの部屋へと向かった
この間と同じ着物姿、しかしこの日から聡美の地獄の様な日々が始まるのであった
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