Once upon a summer time - ある夏の出来事3_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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Once upon a summer time - ある夏の出来事3

15-06-14 09:20

この話はつづきです。はじめから読まれる方は「Once upon a summer time - ある夏の出来事」へ

『第3楽章 - 幻想交響曲』

  
  聖子の伝言板に書き込まれるコメントは少しずつインターバルが延び、数も少なくなっていった。聖子が小道具を用いたひとり遊びの画像をアップロードしたのを最後にサイトを離れたと、ようやく理解された結果だった。

  それでも聖子の伝言板には、断続的にコメントが残されていた。

『今、気付きました。明日もお願いします』

『オナニーの見せ合いをしたみたいにすぐ射精してしまいました』

『動画で見せてください』

  現在進行形のリアルタイムに居合わせなかった男たちが、前に残されているコメントから目ざとく察した結果だった。

  小道具のスイッチを入れたままのメールを受信してから数分を置いて返信をした。

『女王様、スイス人役員が教えてくれたのはカメラワークですか?それとも、ローターを入れたまま写真を撮ることですか?

それにしても器用だね、オナニーとメールを同時進行出来るなんて。

おれの指示に従わされてしまった?それは違うよ、きみの魅力を引き出すためのヒントを与えただけで、実行の決断は自分自身で下したんだよ。ヒント以上のことや、おれが考えもしなかったこともあったよ。勘がいいと言うか、頭の回転が速いと言うか、さすが秘書殿だ』

  写真を撮ることも、コメントを残すこともしなくていいせいかメールへのリプライは早かった。

『セクシーと褒められのも嬉しいけど、頭の回転が速いと言われるのは、わたしにとって最高の褒め言葉なの。でも、あなたも頭の回転が速いんじゃない?

ひとつお訊きしていいかしら?このサイトでは、もっとエッチな画像を見せてる女性もいるし、若くて素敵な女性がいるのに、なぜわたしに興味を持ってくれたのかしら?

コピペのメールを何人にも送ってる訳では無さそうだし、最初のメールは英語だったから、一瞬驚いたわ、うち役員だったらどうしようって』

『タイトスカートとハイヒールにも惹かれたけど、楽譜だよ。単純に、何の楽曲か知りたかったんだ。

それは冗談だけど、「外資系の役員秘書がこっそり会議室で小道具を使ってひとり遊び」なんて興味を持たない男はいないだろ?女王様キャラは感じなかったけど、Mかなとは感じたよ。上品で気取った秘書殿の隠された顔を暴きたいと言うのが答かな?』

『聖子です。あなたのメールが、いいえ言葉は待ち遠しいの。ウェブチャットでお話し出来ないかしら?』

  言葉の端々にM性を感じ、自らの言葉ではっきりとM女であることを宣言させたいと思った。そんな中での、聖子からのチャットの提案はむしろ歓迎だった。IDをメールで伝えると、すぐさまチャットの受信音が鳴った。

『身体中が痺れる位感じてしまったわ』

『それはクリトリスに当てたローターのお陰かな?それとも何十人もの男たちに見られたこと?』

『そのどちらもYESでありNOなの』

『えっ?予想外の答だったよ。どういうこと?』

『ローターはクリじゃなくてアナルに当ててたの。実は、今もそのまま』

『今も?でも男たちに画像を曝して、あれだけの感想をもらって感じてしまっただろ?』

『そうなんだけど、NOと言ったのは見られたと言うより、あなたの命令で曝されてしまったという感覚よ』

『そうか、恥ずかしい命令をされた喜びと命令に従えた喜びだね?男たちに見られ称賛の言葉はオマケみたいなものだね』

『そうね、あなたのメールを読んでスイッチを入れられた感じよ。言葉のトーンが少しずつ変わっていったでしょ?』

『命令口調じゃなかっただろ?』

『ええ。でも何か引き込まれてしまう感覚や断れない感覚に酔ってしまったの。写真を撮る度に感情が昂ったわ』

『それにしてもアナルは予想外だったよ』

『実際には経験したことはないの。でも会議室で文房具を入れちゃうこともあるの』

『会議室で?本当にやってるんだ?男たちの妄想を掻き立てるために書いているだけだと思ったよ』

『そうね、あなたは気付いてないみたいだけど、わたしをネカマと思っている人がいたの』

『どう見ても男には見えないけど』

『あなたがプロフに来てくれたのはずいぶん後なの。最初は写真を貼ってなかったから仕方ないだけど』

『そうだったんだ』

『外資系役員秘書がこんなサイトに来るわけないしネカマの妄想が生んだ人物像って言って、コメントしてる他の男性をバカ扱い』

『偏見の塊だな。あるいはネカマを見抜けず騙されたトラウマがあるのか?』

『そうね、ある意味可哀想な人よね。写真を何枚か貼った途端にIDを削除してたわ』

  ウェブチャットを使っての聖子との会話はリズミカルでストレスを感じずに、まるで普通に言葉を交わしているようだった。ローマ字変換で文章を組み立てるにしろタイプが速いのだろう、普段から英語のメールや資料を作成していることを伺わせた。

『せっかくこうやって話をしてるんだから、ネカマの話より本物の外資系役員秘書殿の話を聞かせてくれないか?』

『そうよね、ごめんなさい。実はあなたの存在は少し前から知ってたの』

『それは光栄だけど、なぜ今日になっ?あまりに変態で躊躇した?』

『いいえ。変態なのは織り込み済みよ。官能小説を紹介していたでしょ?』

『読んでくれたんだ?何作かあるけど』

『ビヨンセのこと、あまり好きじゃ無かったけど、小説を読みながら聴いたら好きになったわ』

『コンフェッションか?』

『ええ。1日だけM女になりたいと願った女性の話が新鮮に感じたの』

『それは嬉しいね。読みながら蜜を溢れさせたなら光栄だけど』

『それは想像に任せるわ。場面場面で素敵な曲を然り気無く紹介して』

『いい曲だっただろ?』

『最初はなんて気障なヤツって思ったわ。でも読み返すうちに自然と引き込まれてしまったの』

『それで役員会議室でオナニーしたんだろ、読みながら?』

『お見通しね。主人公のかおりに置き換えたわ』

『かおりへの命令は忠実に再現してくれたんだろうね?』

『全部は無理よ。わたしには絶対出来ないこと、やりたくないこともあったわね』

『さすがだ。役員秘書殿はYESとNOがはっきりしているな』

『茶化さないで、仕事は関係ないわ。かおりは、あなたの妄想?それとも実在するの?』

『名前は変えたけどノンフィクションだよ』

『とてもチャーミングな女性ね、同性から見ても。そう感じたわ』

『そうだね。1日だけの約束が勿体無かったかな?最初に決めたんだよ、お互いにタイプじゃなかったとしても、逆にどんなに惹かれたとしても1日だけは真剣になることを』

『気障なこと言ってあなたらしいわ。そんなこと言わなければ良かった?』

『それを言ったのは、おれじゃなく彼女なんだ。それより随分突っ込んでくるな。気になる?』

『気にならないと言えば嘘になるわね』

『なんだ、秘書殿らしくない回りくどい表現だな』

  聖子のウェブチャットのリプライに時間が掛かるようになっていた。何かを考えながら、言葉を選びながらタイプしているのは明らかだ。次の言葉が楽しみに思えた。小説の世界に幻想を描いているのだろうか?

  言葉の催促をするより、じっくりと待ってやろうと考えYouTubeを立ち上げた。小説のモチーフとして用いたビヨンセにすることも考えたが、エクトル・ベルリオーズの『幻想交響曲』にした。1人の女の幻影につきまわれるストーリー仕立てで5つの楽章を持つ交響曲に。

つづき「Once upon a summer time - ある夏の出来事4」へ


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