堕ち彼様(01)_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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堕ち彼様(01)

15-06-14 09:24

出会った頃、私は彼を好きでは無かったと思う。むしろ、悪い感情を向けていた。私は彼に対して傲慢な態度を取っていた。彼が私に好意を向けてくれている事を知っていたから。

暫くして、きっかけは何であったか。私は彼を好きになっていた。いや、きっかけは分かっている。ほんの些細な事。それが時を重ねる毎に私の心を大きく占めていったのだ。ほんの些細な事をきっかけにして、彼をずっと見る様になり、彼と同じ時間を過ごす様になり、どんどん彼に惹かれていったのだ。
だけど、その間も素直でない私は彼に対して傲慢な態度を取り続けていた。それが私と彼の付き合い方だったから。それが私と彼の距離だったから。出会った頃からの。
でも、彼はまだ私を好きでいてくれている。
好きでいてくれている。
好きでいてくれている。
好きでいてくれている。
好きでいてくれている。
「明間くん、今日は何処に行こうか?」
「うーん、裕実は何処がいい?」
「えっ、私は別に明間くんと一緒に居られたら…」
「ん?なに?何処がいいって?」
「やっ…あの、うにゅうにゅ…」
私は彼の隣には居ない。代わりに居るのは昔から彼を慕っていた裕実という可愛い女の子。最近になって彼は彼女とよく何処かに出掛けている。楽しそうに。優しい笑顔を彼女に向けて。
「あ、七瀬ちゃん!いまから遊びに行くんだけど、一緒に行かない?」
不意に彼が私を見付けて声をかけてきた。
「ね、ね、行こうよ」
「…」
「悪いけど、明間。私、別の予定がある」
それに対して私は嘘をつく。予定など無い。
「そっか…じゃ、また次の時にでも」
「…」
「そうね、考えとく。暇だったらね…」
心にもない言葉。傲慢な態度。彼と私の距離。
「んじゃ、裕実、行こうぜ」
「…あ、うん」
彼が行ってしまう。私を残して行ってしまう。私の好きな背中。それを追うのは私ではなく裕実。彼女は私と彼の会話の間、終始無言だった。彼女の瞳は何を語っていたのだろう。
きっと、裕実は私を快く思っていない。私が彼に対して、どこまでも偉そうで傲慢だから。まったく、何様のつもりなのか。私が彼の何だというのか。
「…うーん、切ないなぁ」
口にした言葉に痛みが走る。
「うん…切ない」
鋭い刃先が胸を突く。
私は彼と一緒に居てはいけない。そう思う。私は馬鹿だから。いつも彼を馬鹿にしていた私こそが大馬鹿者だから。

でも、彼は私を好きでいてくれている。

「…切ない…よ、明間…」

つづき「堕ち彼様(02)」へ


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