この話はつづきです。はじめから読まれる方は「愛し乙女は奴隷する(01)」へ
「ご飯にする?お風呂にする?僕にする?」
部屋着に着替えた槙雄を待ち構えて晶はそう言った。
結構、無理して言った。
言ったのはその言葉が男のロマンなのだとテレビか何かで知ったからだ。
ならば、槙雄も例外ではない筈だと晶は思った。
「いや、着替えたばっかだし。てか、帰れよ」
なのに返ってきた言葉は晶の想像もしない言葉であった。
せめて、ご飯かな?くらい言ってくれても罰は当たらないのに槙雄はそんなことも言わずにリビングのソファーに座ってテレビを見始めてしまう。
まるで、晶に関心がないとばかりにだ。
「何で?ご飯は?食べないと。僕、作るよ?槙雄の好きなの全部、作れるし」
しかし、晶はめげない。
ここで引いたら槙雄はそれで良しと考えてしまう。
晶は槙雄がそんな男であることを知っている。
だから、押す。
押して押して押しまくる。
昔から大抵はこうやって晶は槙雄に自分の主張を押し付けてきた。
そして、その主張のほとんど全てが晶の思い通りになっていた。
最近は上手くいかないが、それでも槙雄が押しに弱いことには変わりない。
なので、晶はめげない。
「うん、ハンバーグだね。冷蔵庫の状況から見るに。槙雄の大好きなハンバーグにしよう」
勝手にキッチンに入り込み、冷蔵庫を開けて料理を始める。
勝手知ったる何とやらだ。
槙雄がコンビニで挽き肉などを買ってきていたのを知っているので容易に何が食べたいのかも考えがつく。
男の胃袋を捕まえろ。
それが、晶の母のアドバイス。
なので、こうして事あるごとに晶は押し掛け女房をしているのだ。
「…」
リビングの槙雄を見ながら晶はハンバーグを料理していく。
それはまるで夫婦の様な時間。
晶の中で何とも言えない快感がお腹の下辺りから走ってくる。
「んっ…やだ。僕ったら…」
覚えのある感覚に晶は顔を赤らめる。
槙雄を見て、気付かれたら恥ずかしいなと晶は思った。
でも、本当は知って欲しいとも思ってしまう。
槙雄に料理を作ってあげる。
たったそれだけで晶の女の部分がこうも反応してしまうという事を。
気付いた時からずっと槙雄だけを想ってきた。
自分が女である事を理解した頃、他の女の子が格好いいという男子を見ても晶には吐き気しか沸かない事を知った。
自分にとって男という存在が気持ち悪い物だと思い始めたのもその頃からだった。
ただ、槙雄だけは違った。
槙雄だけは気持ち悪いなんて思わなかった。
ずっと見ていたい。
ずっと一緒にいたい。
だから、晶は槙雄の全てが欲しくなってしまう。
つづき「愛し乙女は奴隷する(05)」へ
コメント