この話はつづきです。はじめから読まれる方は「愛し乙女は奴隷する(01)」へ
変な話である。鍵の掛かった他人の家にどうやってそいつは入って来れたのか。
「槙雄、部屋の窓が開けっ放しだったよ。不用心だなぁ、もう」
なるほど、然り。こうやって不審者は現れるのだ、と槙雄は思った。
「あ、僕の為か…あはは」
そう言ってそいつは笑う。
ドン引きである。
何がお前の為の物かと槙雄は思った。
とりあえず、帰れ。
速攻で口から出た言葉をそいつに投げて槙雄は二階の自室へと行くことにした。
まずは、着替えたい。
「え、何で?」
しかし、そいつは心底解らないといった感じで槙雄を見返してきた。
何で?って何がだ、と槙雄は返そうと思った。
だが、そいつの顔がえらい事になっていたので槙雄は返せない。
「ねぇ、何で?僕の事、嫌い?嫌い?…そういえば今日の部活。御手洗さんと二人で来てた…何で?御手洗さんと何してたの?二人で何してたの?僕は?何で?…何で?」
怖いってば。
槙雄はそいつの勢いに後退りを始める。
隣の家の美島さん所の晶ちゃん。
そいつは幼い頃、男が欲しかった父親に男として育てられていた。
母親も父親にあまり逆らわない人だったのでそいつは疑う事なく男だと思って生きてきていた。
でも、周りがやっぱりそれを許さず。
母親が娘が男ではなく女の子だという事にようやく気が付いて、馬鹿な父親が大反省して、そいつは遅く女の子となった。そんな隣の家の美島晶は、槙雄の数少ない友人であった。
しかも、産まれた時から知っている親友とも呼べたであろう相手であった。
晶が本当に男であったならの話である。
斯くして、男だと思っていた幼馴染みが女である事を打ち明けられた少年は物の見事に混乱した。
しかも、幼馴染みが自分を女なのだと気が付かされたきっかけがその少年に対しての恋心だというのだから、もう、何が何だかさっぱり分からん!なのだ。
あれから数年の時が流れてお互いの関係は変わった。
まず、槙雄は別の男友達と遊ぶ事にした。
晶は美形のルックスだったので他の女の子たちとは元々仲が良く普通に女の子として打ち解けていった。
こうして、二人は別々の道を行く事となる…筈だったのだが、そういう風にいつも一緒にいたのが性別の違いでお互いに別々の行動をするという出来事が段々と目立ってきた頃、晶が槙雄へ異様な執着心を見せてくる様になったのだ。
それは恋する乙女の心理なのか、または、別の何かなのか。
どちらにせよ、晶にとって槙雄は無くてはならない存在だったらしく。
「槙雄は僕と居るの…」
との事だ。
つづき「愛し乙女は奴隷する(03)」へ
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