Incomplete Beginnings - 未完の始まり7_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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Incomplete Beginnings - 未完の始まり7

15-06-14 09:28

この話はつづきです。はじめから読まれる方は「Incomplete Beginnings - 未完の始まり」へ

第7話『ホワイト・バレンタイン - エスキモー&バタフライ』

  横殴りの雪のせいか大高の車のウィンドシールドやバックウィンドウには思った以上に雪が積もっていた。

「寒いからふたりは車に乗ってなさい。エンジンを掛けてデフロスターをマックスにすれば早く暖まるし曇りも取れるから」

  大高はまるで仕事の時のように明確な指示を出すと、左側の後部座席のドアを開き実可子にも乗るように促した。

「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」

  実可子は大高に会釈をすると後部座席に潜り込んだ。大高がドアを閉めた勢いでルーフに積もった雪の塊が落ちるところを目で追った。

「素敵な上司で仕事が楽しいでしょう?」

  運転席に座る由紀に向かって実可子が声を掛けた。

「はいとても。大高さんの、いや大高のプロジェクトチームに呼んでいただいてから勉強にもなるし。。。。でも、紅一点だからと言って甘えは許されない雰囲気はプレッシャーです。仕事になると自分にも厳しい方なんで」

「今日は楽しんでいらしたでしょ?由紀さんも弾けてたけど」

「あんな姿初めて見ました。大高って、うちの社風からはずれてるから軋轢も相当あると思いますよ。あっ、これはオフレコで」

「大丈夫です。業務上知り得た情報には守秘義務がありますから」

「大高さん、笠野辺さんと気が合うみたいで一緒にいると生き生きしてますよ。お互い阿吽の呼吸で。お二人ともアメリカにいらしたから。。。同じワシントンでもアメリカの端と端ですが。。。どちらがどちらのワシントンか解ります?」

「大高さんが州で、笠野辺さんがDCでしょ?」

「解る人には解るんですね」

  由紀が感心したところで助手席のドアと後部座席のドアが開いた。

「何が解る人には解るって?」

  濡れた手袋を外しかじかんだ指先にはぁっと息を吹き掛けながら大高が訊いた。

「東と西のワシントンですよ。実可子さんに質問してみたんです」

「へぇ、よく解りましたね?」

  玲が驚いたような声を上げた。

「勘ですよ。お二人の好きな音楽の話とか好みのファッションとかで想像」

「ぼくの方が田舎臭いからかな?」

  ちょっと残念だけど仕方がないと思いつつ大高が質問した。

「わたしはアーカンソーのリトルロックですよ。それに較べたらシアトルは都会ですよ」

  実可子の話に納得したのか、大高は由紀に向かって仕事のときのような口調で言った。

「曇りも取れたし、そろそろ行こうか?」

「じゃあ、駅のロータリー経由でホテルのロビーに行きますね」

「この雪だからホテルのスロープは止めた方がいいじゃないかな?ぼくも駅まで行ってもらえれば有り難いよ。コンコースを通って濡れずに行けるから」

「笠野辺さんがそうおっしゃるから、それでいいだろ?それに、おれの予想ではロータリーすら走れない車で溢れてるよ」

「わかりました。出発します」

  雪で出来た轍を越えようと由紀が少し強めにアクセルを踏んだのだろう、玲はシート越しに一瞬のホイールスピンを感じた。そして、その余ったトルクが前輪に伝達されると車は何事もなかったようにスムーズに走り出した。

「大高さん、今掛かってる曲素敵ですね。どなたですか?」

「マリオン・メドウスと言うサックスプレイヤーですよ。笠野辺さんが教えてくれたんですけどね」

「綺麗なメロディが素敵ですね」

「バレンタインの夜にぴったりでしょ?」
 
  せっかくの大高の言葉を由紀が遮ってしまった。

「大高さん、でも後十五分でバレンタインが終わってしまいますよ」
 
「アーカンソーのタイムゾーンは?」

「セントラルです。シカゴと同じ。。。」

  玲の思わぬ質問に実可子が答えた。大高は玲の質問の意図を理解したのか軽く頷いた。

「じゃあ、バレンタインは後、十五時間と十五分続くんじゃないかな?それに、ホープという街もアーカンソーだったよね?」

「レイ様ったら気障ぁ」

「まいったな、大高さんまでからかわないでください」

  由紀の真似をした大高のユーモアに車内が笑いに包まれた。

「今日は本当に楽しかったです。大高さんの意外な一面が見れたし、実可子さんと美鈴ちゃんとも知り合えたし。今度、お友達を連れて行って絶対女子会やります」

「お洒落な店だから雰囲気を壊すような大騒ぎはするなよ。きみの同期で騒がしいのがいるだろう?」

「ひどぉい、由美子は大高さんのファンなんですよ」

「大高さんは個人名を言わなかったよ」

  玲に指摘され、由紀は舌を出して肩をすくめた。

「あっ、絶対内緒ですからね」

  由紀の少しおっちょこちょいな発言に笑いが零れた。

「実可子さんも女子会来てくださいね。私達、実可子さんみたいに女を磨かなきゃいけないので」

「由紀さんは、その明るさと可愛らしさが持ち味なのだし無理に背伸びしないでありのままが一番。大高さん、そうですよね?」

「そうだな、明るさと可愛らしさは認めよう。実可子さんみたいに、少し淑やかになってくれれば」

「お淑やかですか?でもわたし、美鈴ゃんに『せっかち』って言われてますよ。ご存知ですよねRKさん?」

「そう聞いてはいたけど、そんな印象は受けなかったよ、『せっかちMIさん』」

  実可子は玲になら本当の自分を素直な気持ちで見せられるかも知れないと感じた。

「大高さん、あれ事故ですかね?」

駅のロータリー付近に赤色灯を発見した由紀が言った。

「救急車かな?雪で滑って転んだ人でもいるのかな」

  更に接近すると白と黒に塗り分けられた車両だった。

「あっパトカーです。交通規制か車の事故か。。。。ロータリーは入れなさそうですね」

  由紀が困ったような声を出した。

「由紀ちゃん、この辺で大丈夫だよ。この先で渋滞にはまるより、手前の信号を曲がった方がいいんじゃないかな。大高さん、今日はありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそありがとうございました。うちの娘がはしゃぎ過ぎてすみませんでした」

「可愛いお嬢さんのお陰で楽しかったですよ。大高さんも結構はしゃいでましたね」

「わたしまでお仲間に入れていただいてありがとうございました」

「実可子さん、今度うちの会社に来るときは知らせてくださいね。ランチご一緒しまょ」

「はい、連絡します。じゃあ、おやすみなさい」

  信号の手前で車を停めると大高も由紀も降りて玲と実可子を見送った。由紀が何か訴えるような表情で玲を見た。

「どうしたの?遅くなると寝坊してスノーボード行けなくなっちゃうよ」

「じゃあ、寝坊しないおまじないでいい子いい子してください」

「こら、またそんなこと言って。お二人が帰れなくなるだろう?いい子いい子ならおれが後でしてやるから」

「玲さん、エスキモー&バタフライをしてあげたらいかがですか?」

  いい子いい子をせがまれて少し照れた様子の玲に実可子が言った。

「なんですか、エスキモーなんとかって?」

  初めて聞く言葉に由紀が質問した。

「次会った時に教えてあげるよ。じゃあ、寝坊しないように」  

  そう言いながら、玲は由紀の髪の毛から雪を振り払うと優しく頭を撫でた。

「わぁーい、ありがとうございました」

  まるで幼児のように無邪気な声を出し車に乗り込むと、今度はホイールスピンをさせることもなく発信し信号を左折していった。

「さあ行こうか?ちょっとだけ雪で濡れてしまうけど」

  そう言うと玲は首に巻いていたマフラーを外し折り目を広げると実可子の頭から被せた。

「由紀ちゃんが見てたら、『レイ様気障ぁ』って言われちゃいますね。アフガニスタンの女性みたいに見えませんか?」
 
  然り気無く気を使ってくれた玲の突然の行為に実可子は少し照れながらも嬉しそうに言った。

「ゲリラと言われなくて良かったよ。でも彼らのスカーフの巻き方はお洒落に見えるよね」

「玲さんて、色んなことを良くご存知ですよね」

「広く浅くだけどね。何にでも好奇心を持っているのは確かかな」

「きみもエスキモー&バタフライなんて言い出して、さすが帰国子女だと思ったよ。でも、あの場で出来る訳ないだろ?」

「そうですね。意味も知らずいきなりだと、驚いて頬を叩かれてしまったかな、例え由紀ちゃんでも」

「確かケビン・コスナーの映画だったと思うけど見た覚えがあるんだよな。父親が子どもを寝かしつけるシーンで、子どもにせがまれて」

「ケビン・コスナーですか?何本か観たことありますけど、『ボディーガード』ではないですよね?」

「『アンタッチャブル』か『フィールド・オブ・ドリームス』だったと思うけど」 

  玲の言葉に答えることもなく実可子が立ち止まった。

「ここを左に行けば、ホテルのロビーに行くエレベーターです。じゃあ、改札口はこのまま真っ直ぐなので」

「今日は楽しかったよ、ありがとう。会えて良かった」

「こちらこそ、お会いできて嬉しかったです。あっマフラー忘れるとこでした『うっかりRKさん』」

  雪が降る中、マフラーをアフガニスタンスカーフのように巻いてもらったことを思い出した。

「寒いし、傘を持って無いんだからそのまま。。。。次に会うまで三本目のコレクションとして使ってくれればいいよ」

「レイ様、気障なんだからぁ。じゃあ、お言葉に甘えます。もうひとつ甘えていいですか?」

「いい子いい子?」

「いえ、エスキモー&バタフライ」

  返事をすることもなく少し身を屈めると玲は自らの鼻先を実可子の鼻先に押し当てたまま首を左右に三度振った。そして、自らの睫毛を実可子の睫毛に合わせようとした時に実可子が唇を突きだし玲の唇に重ねてきた。  

  まったく予想していなかった玲にとっては驚きの実可子の行動だった。

「驚いたなぁ。どうした?」

「ごめんなさい、今日のお礼です」

  実可子は、頭で考えることなく衝動的に起こした自分の行動に驚きながら慌てて言い訳じみた答をしてしまった。

「驚いたからバタフライ出来なかったよ。やり直しね」

  そう言うと玲は身を屈めると自らの睫毛を実可子の睫毛に合わせながら、実可子にキスをした。実可子がした一瞬のキスではなく、驚いた実可子の呼吸が止まってしまいそうなほどの長いキスだった。

「三十三歳とは言え、誕生日を迎えた瞬間にしたことがキスだなんてロマンティックですよね?」

  実可子の言葉に駅のコンコースの時計を見ると長い針と短い針が真っ直ぐに重なり合っていた。

「誕生日おめでとう。三十三歳に問題ないだろ?大人の女と名乗り始めるにはちょうどいい年齢だと思うよ。きみにはアラサーなんて言葉は使って欲しくないな」

「はい、使いません。良く考えると、なんか個性も人格もなく、ひとくくりにされた差別用語みたいですもんね」

「あっ電車は何時?」

「確か零時七分だったか、十二分だったと思います」

「じゃあ、そろそろ行こう。改札まで行くよ」

「玲さん、ここで。。。帰りたくなくなっちゃうから」

「じゃあ、ここで」

  実可子と玲がそれぞれ別の方向に歩き出そうとしたところで実可子のスマートフォンがメールの着信を知らせた。

「由紀ちゃんです」

「由紀ちゃん?運転中に?」

「渋滞中にお誕生日おめでとうメールを送ってくれたんです」

「渋滞か。寝坊じゃなくて渋滞回避のおまじないが必要だったかな?」

「大高さん、助手席で爆睡してるみたいですよ。多分、玲さんにもメールが来ますよ。ほら」

  実可子の予想通り玲のブラックベリーがメールを着信を知らせた。

「本当に来たね、大高さんが爆睡してるって」

「由紀頑張れって返信してあげてくださいね。わたしも返信しておきます」

「じゃあ、気を付けて。家に着いたらメールして、心配だから」

「はい、おやすみなさい」

 
  名残惜しさを感じながらもお互いの目的地に向かった。ロビーまでのエレベーターの中で、タクシーで送るべきだったかと思ったが、駅前のタクシー待ちの行列から何時間掛かるか想像も出来ないし、実可子は間違いなく断っただろうと考えた。

  改札口に向かった実可子は思いもよらぬアナウンスを聞いた。降雪によるポイント故障で実可子が乗車予定の路線は運行再開の目処が立っていないというものだった。運行再開の案内があるまで電車内で待つよりも、最悪の場合はインターネットカフェでも、二十四時間営業のファミレスでも朝まで過ごせるよう改札には入らないことを決めた。

  駅のコンコースとは言え、じっとしていると寒かった。自動販売機でタリーズの缶コーヒーを買って指先を暖めながら、こんなとき由紀だったら玲の部屋に押し掛けるのだろうかと考えてしまった。

  ロビーでチェックインをすると部屋が三十三階だったことに笑ってしまった。

「笠野辺様、どうかなさいました?」

  確か先週チェックアウトを担当してくれたスタッフだ。

「あっ失礼。五分前まで三十三歳になったばかりの女性と一緒だったから偶然だなって思ったんですよ」

「そうでしたか、偶然でございますね。おやすみなさいませ」

「おやすみなさい」

ロビーから客室フロアへのエレベーターに乗ると由紀のメールを改めて開いた。

『レイ様、今日はとても楽しかったです。でも由紀は今渋滞の中です、しかも大高さん爆睡中です』

  エレベーターを降り、カードキーで部屋の扉を開けると玲はダウンジャケットだけクローゼットのハンガーに掛けベッドに横たわった。寝転がって由紀が待ち望んでいるであろう返信を打ち始めた。

『由紀、渋滞の中で睡魔が襲って来ないよう電話しようか?大高さんの車は Bluetooth で繋げるはずだよ』

  送信するとテレビをCNNのチャンネルに合わせると日本列島の雪のニュースが映されていた。夕方の渋谷駅の様子ではこちらより積雪量が多いようだった。

  ほどなく由紀が二通目のメールを送信して来た。

『レイ様、お気遣いありがとうございます。レイ様と実可子さんのメールの着信音で大高さんが起きてくれました。渋滞も抜けもうすぐ大高さんのお宅です。おやすみなさい。由紀

P.S. メールの着信音をマックスに変更したのは内緒です』

  由紀のメールの追伸を読んで笑ってしまったと共に、改めて由紀の頭の良さと機転に感心した。

『大高さんのお宅からは近いって言ってたよね?気を付けて。おやすみ由紀』

  由紀に二通目のメールを送信するとメールの着信音が鳴った。実可子からのメールだった。

『玲さん、お電話差し上げて大丈夫ですか?わたしの誕生日とアーカンソーのバレンタインに免じて』

  家に着いたらメールをするように言ったが、まだ家に着く時間じゃないのは明らかだった。カフェで登録したばかりの実可子の名前をアドレスから呼び出しコールボタンを押した。

「はい、実可子です」

「もしかして電車止まってる?」

「ポイント故障で復旧の見込みが立ってないそうで」

「そうか、今から改札口まで行くから。ホテルのバーで時間を潰そう」

「玲さん、わがまま言っていいですか?お部屋にお邪魔しちゃだめですか?」

「とにかく、すぐ行くから」

「実は、今ホテルに向かって歩いてます」

「そうか、じゃあロビーで待ってる」

「お部屋を教えてくだされば」

「じゃあ、三十三階まで上がってきてくれるか?エレベーターホールで待ってるから」

「三十三階?わかりました」

  部屋を出ると直ぐにエレベーターが停まった。出て来たのはジムから戻って来たらしいアメリカ人だった。ジムで身体を動かすとは言え、雪の日に季節感のない半袖のワシントン・レッド・スキンズのマークが入ったTシャツとショーツ姿だった。

「How are you doing?」

  真夜中過ぎのエレベーターホールで佇んでいた玲に一瞬驚きの表情を見せたが、愛想の良い笑顔を見せると挨拶をしてきた。

「Not bad having a snowy Valentine’s day, is it?」

  アメリカ人に向かい雪のバレンタインも悪くないと玲が答えると同時に向かっ側のエレベーターが開き実可子が降りて来た。その姿を見て、男は玲が意味したことを理解した。羨望からか真夜中を過ぎバレンタインは終わったと笑った。

「Now I understood what you meant. But, it’s already past midnight, man!」

「Right, but still on Valentine’s day in Eastern Standard Time 」

  玲は、アメリカの東部標準時間ではまだバレンタインだと答えると男は納得した。

「Got it! Good night!」

「Good night, have a good weakend!」

「Thanks, you too. Happy Valentine’s day to you, young lady!」

  男は実可子に向かい紳士的な言葉で素敵なバレンタインを過ごすように声を掛けてくれた。

「Yes, I will. Good night!」
 
 立ち去るアメリカ人の男に礼を言うと実可子が玲に尋ねた。

「お知り合いですか?」

「まさか、きみを待ってる間にエレベーターから降りて来た人だよ」

「そうでしたか。てっきり顔見知りの人とお話されてるのかと」

  玲は実可子が手に持っていたタリーズの缶に触れた。冷たい程ではないがだいぶ冷めてしまっていた。実可子の冷えきった指先を暖めるために熱を奪われたのだった。

「寒かっただろ?シングルの部屋だけど」

  エレベーターホールを左に曲がり正面の扉にカードキーを差し込み扉を開くと実可子を先に部屋に入れた。

「お邪魔します。わぁシングルでもこんなに広いんですね。あっ、ブーツどうしたらいいですか?」

「履いたままでもいいし、窮屈だったら脱いでクローゼットの前にでも置いて」

「じゃあ脱がせてもらいます」

  そう言いながらバッグをドロワーの上に置くとダウンジャケットを脱いでクローゼットのハンガーに掛けた。既に掛けられていた玲のフード付のダウンジャケットと向かい合うようにだった。

  身軽になった実可子は部屋の奥のシングルソファの前に置かれたオットマンに腰掛けブーツを脱いだ。

「そのコーヒー飲んでいいかな?」

「それじゃなくても玲さんの分も買って来ました。まだ温かいと思います」

「温かいのはきみが飲みなよ。喉が渇いてるから冷たい方がいいんだ。アイスディスペンサーから氷を持ってくる」

「わたしが取ってきます」

「大丈夫だよ、またブーツ履くの面倒くさいだろ」 

  バーカウンターのアイスバケットを取ると玲は部屋を出た。

  実可子は玲を待つ間、窓際に立った。チェックインしたばかりでカーテンは開かれたままなのだろう窓ガラスを通じて伝わってくる冷気を感じた。エアコンのダクトから吹き出される暖かい風は冷えた身体を暖め、ガラスからの冷気は緊張から紅潮した顔に心地よく感じていた。

  三十三階からの夜景は降り続く雪のせいでネオンサインや街灯、部屋の正面や車のヘッドラインをぼんやり滲み、まるで白い靄の中に居るようだった。それは実可子の心の中を映し出しているようでもあった。

つづき「Incomplete Beginnings - 未完の始まり8」へ


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