この話はつづきです。はじめから読まれる方は「堕ち彼様(01)」へ
「七瀬ちゃん、大丈夫?」
どうして。
そんな言葉が浮かぶ。どうして、私にそんな風に接するの?
彼のいつもと違う距離に私は困惑している。
結局、彼は強引に私を学校から私の家にまで連れて帰ってきてしまった。本気で私の具合が悪いと心配している。
いや、いつも彼は私の事を本気で心配してくれていた。だけど、それを積極的に出して私をどうにかしようなんて事はしない。私が大丈夫と言えば、そうかと引き下がるのだ、いつもは。
だけど、今回は。
「お粥、食べる?キツくない?」
距離が近い。
何に置いても彼の私に対する距離が近い。おかしい。どう考えてもおかしい。
リビングのソファーに寝かされる私は自室の机の引き出しに仕舞ってあるあの真っ白な紙の事を思い出す。
もしかして、と。
「ん?七瀬ちゃん、何か他の欲しい物がある?」
馬鹿だ。
私は本当に、馬鹿だ。
「俺、何か買って来るよ、七瀬ちゃんが欲しい物」
「まって!?」
「うわっ?な、なに?」
「待って…明間、待って…」
私は、後悔、してる。ずっと、だ。ずっと、後悔、してる。
「アンタ、私のこと好き?」
聞いてはいけない。本当だったら、私は彼にこんな事を聞いてはいけない。
だけど、だけど…。
「七瀬ちゃん?」
教えて?
偽りの時間の中でも、貴方の気持ち。貴方の言葉。貴方の声。
「…好き?」
「えっと……うん、好きだよ」
あぁ、どうしたらいい。
私は、どうしたらいい。
私は、この気持ちをどうしたらいいの?
嬉しい。
嬉しい。
嬉しい。
嬉しい。
嬉しい。
「えぇっ!?七瀬ちゃん?うわっ!」
「好き…私も、好き…ずっと、好き…ちゅっ…」
「んっ…ちょっと、なな…んっ…」
私は彼の唇にキスをする。躊躇わず彼に抱き着きソファーに押し倒す。
「んっ…ん、七瀬ちゃん、具合が悪いなら…大人しく、んんっ」
「ちゅっ…する。大人しくするから、明間、私にキス…して?」
甘ったれた声。
我ながら、馬鹿馬鹿しいに尽きる態度。自分でもびっくりしてる。でも、やめられない。
いま、素直にならないと。きっと、後悔する。いままでと比べられない程に後悔する。だから、私は馬鹿馬鹿しい事をする。例え、これが夢であろうと。
「する?明間、私にキス、する?」
「ちょ、なんか、怖い…なんか、七瀬ちゃん、怖いってば」
「あすまぁ…ん~っ!」
距離が近い。
私と彼の距離がとても近い。
「えーと、ちゅっ…」
だから、今だけはこの想いを…。
つづき「堕ち彼様(04)」へ
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