この話はつづきです。はじめから読まれる方は「ピアノコンチェルト第1楽章『モデラート』」へ
『夢も見ず熟睡したのはもしかしら。。。』
昨晩バスタブの中でした行為を一睡だけ思い出すと、あやはアラームクロックに手を伸ばすとデジタル表示は6:27AMと読み取れた。
いつもなら6:30AMにけたたましいビープ音を鳴らすアラームクロックを鳴る前に止めることにクスッと笑ってしまった、3分毎に繰り返すスヌーズ機能をフルに活用する朝もあるのに。爽やかな目覚めで気持ちの良い朝だった。
ベッドを抜け出すと、水玉模様のままキッチンに行き、小さなケトルに水を入れコンロに掛ける。お湯が沸くまでの間にトイレに行く。パジャマのボトムとパンティを脱ぐと生理現象を済ます前にそっとクレバスに触れてみる。思いがけず熱い蜜の感触が指先に伝わった。
『夢を見た記憶がないのに。。。なぜ?』
パンティを見ると、クレバスに食い込んだ跡に沿って染みが残っている。
深くは考えずに用を足し、キッチンに向かうとケトルはお湯が沸いたことを知らせていた。大きめのマグカップにアールグレイのティーバックを入れてお湯を注ぐ。アールグレイの茶葉がお湯に色をつける間に、冷蔵庫からグレープフルーツとヨーグルトを取りだし手際よくグレープフルーツを半分に切り分ける。片割れにラップをし、もう一方を皿に乗せる。その間にアールグレイは飲み頃になっているはずだ。
ヨーグルト、グレープフルーツ、そしてアールグレイを順番に口に運びながらスマートフォンでニュースに目を通す。なぜかニュースに興味が湧かない、スマートフォンを傍らに押しやると朝の予定を思い浮かべる。駅前のコンビニに寄ってファッション誌を買おうと考えた。いつものビジネススタイルに少し女性らしさを加えるために参考にしたかった。自分がオフィスでファッション誌を開いていたら、みんなはどんな反応を示すのだろうか?そんなことを考えると、クスッと笑ってしまった。
簡単な朝食を済ますと手際よくカップや皿を洗い洗面所に向かい歯磨きをする。歯を磨きながら鏡の中の自分自身を眺める。
『今日は髪の毛を束ねるのは止めてみようかしら』
オフィスにいる時は髪の毛を束ねていることが多い。パンツルックと束ねた髪がトレードマークになっているかも知れない、そしてそれがキャリアウーマンとしてのイメージを高めていることも感じている。でも今日は、昨晩考えたコーディネートでオフィスに行くと決めていた。そして、そのスタイルには髪を束ねるよりも軽くウェーブさせたヘアスタイルを考えていた。
歯磨きと洗顔を終えるとベッドルームに向かいパジャマを脱ぐ。寝るときにはブラをしていないため姿見はパンティだけの裸身を映し出している。ドロワーから上下がセットのブラとショーツを取り出す。あやの下着の中では、一番派手なものではあるが、柄もないパステルカラーの単色のものだった。いわゆる勝負下着と呼ぶには程遠いだろうとあや自身も感じていた。
上下の下着を身に付けドロワーからオフホワイトの薄手のニットセーターを選んだ。昨晩のコーディネートでは白のブラウスだったが、アウターに着るニットの上下にはブラウスは合わないと判断したからだ。ファウンデーションはいつもと同じだが、いつもより少しピンクの濃い口紅を引きチークにも色を添えてみる。アイラインは少し気恥ずかしいから薄く引く。眉は濃いほうなので何も手を加えない。髪に軽くスプレーをすると手櫛で軽くウェーブさせた。
家を出ると駅前にあるコンビニに立ち寄りファッション誌を購入する。直ぐにでも開きたい衝動に駆られたが地下鉄の改札に向かう。ホームに降りると程無く地下鉄が滑り込む。上りであるがラッシュアワーの始まる少し前の時間であるため、さほど混んでいない車両であった。
ラッシュアワーを迎える前の地下鉄がスムーズにオフィスの最寄り駅に到着した。改札を抜け地上に出るとお気に入りのカフェがある。今朝は天気もよく風もないためカウンターでキャラメルマキアートを購入するとテラス席に座る。ファッション誌を見るとともに通りを往き来する女性たちのコーディネートを眺めたいと思ったからだ。春の声が聞こえだしたもののブーツを履いている女性がことの他多い。そして、パンツルックにトレンチコートの組み合わせの女性の大半がタブレットか日本経済新聞を小脇に抱えていることにクスッと笑ってしまった。そして、その大半が束ねた髪を揺らしながら足早に歩いていた、まるで自らがキャリアウーマンであることを誇示するかのように。
『やっぱり可愛さは感じないはね』
思わず自分自身に問い掛けてしまった。
ファッション誌をめくると春のコーディネートを特集していた。今日の自分と似ているスタイルを見つけて嬉しく感じた。ただ、誌面のモデルが持っているバッグはかなりカジュアルなものだった。何しろ、それは土曜日のランチ女子会をイメージしたものだったのだから。
キャラメルマキアートを飲み干すとマグカップをカウンターに戻しオフィスに向かう。雑居ビルに構えた7階のオフィスに向かうエレベーターはロビー階で停まっていた。エレーター内部の鏡面で自身の姿をチェックする間に7階に到着した。
「あれっ、今日は別人だな?」
あやの到着に気付いた専務がおはようの挨拶もなく声を掛ける。決して嫌味のない柔らかな口調にあやが答える。
「わたしなりの冒険ですよ専務。どうですか殻を破っているように見えますか?」
「その雑誌を参考にコーディネートしたのか?」
「違いますよ、これはさっきコンビニで買ったばかりです。証拠のレシートをお見せしましょうか?自分自身のコーディネートなんですが、似ているのがありました」
あやは、自分自身のコーディネートが間違いではなかったことを専務に伝えたかった。
「これです。わたしに似ていますでしょ専務?」
そう言うとページを開いた。
「なるほど、女子会スタイルね。自分だけが突出しない配慮が感じられるね。その意味では殻を破り切れていないな」
あやは、専務の頭の回転の速さとユーモアのセンスが好きだった。
「それはそうと、来週の月曜日にはプロジェクトがキックオフするからきみが服を買い漁る時間は今日と明日だけだ。戦い前の二日間を有効に使ってくれプロジェクトリーダー」
「はい、専務。来週からはたっぷりと働かさせられる訳ですね」
軽くお辞儀をし自分の席に向かった。専務が言った『洋服を買う』という行為、見抜かれていると感じた。そして、土曜日か日曜日にする積もりでいた、それが専務のお墨付きが貰えた。それなら、今日は銀座に足を伸ばしデパートやブティックを回ってみようと思った。
『明日の金曜日は店も混雑するだろうから行くなら今日がいいかな?』
あやは、心の中で呟くと回るルートを考え始めた。
来週キックオフを迎えるプロジェクトの大まかなシナリオを考えるだけで、あっという間に夕方を迎えた。パソコンのシャットダウンを待つ間、今日のあやの別人のようなコーディネートへの後輩女子社員たちの反応を思い返していた。
『あやさん、どうしたんですか?とても可愛いです』
『髪の毛を下ろすと女子力アップですね』
昨日の社長や専務との会話は知るよしもなかった、自分の殻を破ってみろと言われたことなど。。。
買い物はいつでも楽しいものだった。クレジットカードの来月の引き落としを思うと憂鬱ではあるが。。。
買い物の途中、BLTのサンドイッチと冷たいカフェラテで夕食を済ませ最後の店で花柄のブラを買い終えた時には8時半になろうとしていた。地下鉄の駅に向かう道の途中に映画館がある。何を上映しているかも知らぬまま映画でも観てみようと思った。
映画館の前は人の往来も少なく静まり返っていた。あやは、チケットカウンターで尋ねる。
「すみません、今からでも最初から観れる映画はありますか?」
「今からですと『私の奴隷になりなさい』が最初から観れます」
タイトルは聞いたことがあったが、女ひとりで観るには躊躇のあるタイトルだった。
「ありがとうございます」
あやは、礼を言うとチケットカウンターから立ち去り地下鉄の駅に向きかけた。しかし、すれ違いざま女性の二人連れがカウンターに向かいあやが躊躇した映画のチケットを購入した。
『女性も観るのね。。。。それなら』
まるで自らの行為を正当化するように自分自身に促した。意を決したあやは、再びチケットカウンターに向かう。
「チケット一枚お願いします」
「はい『私の奴隷になりなさい』でよろしいですね?」
マイク越しの声はことの他静かな通路に響き、あやはキョロキョロと周りを見渡してしまった。
「入口は右手になります。白いカバーの掛かった席がレディースシートになりますのでご利用ください」
料金を払いお釣りとチケットを受け取り館内に入る。入口ではチケットカウンターの女性と異なり男性社員が半券をもいでいた。視線を合わせるのが恥ずかしく、伏し目がちに半券を受け取る。
「あと数分で予告が始まりますので館内でお待ちください」
少し重い扉を開き館内を見回すと定員数の半分にも満たない観客数のようだった。レディースデイの水曜日と週末が始まる金曜日に挟まれた木曜日だからの客足なのだろう。それでも、後部の二列に配されたレディースシートは複数の女性客やカップルによって閉められていた。空席が無い訳ではないが、何人もの人の前を通って着席するのが憚れた。
館内を見回すとスーツ姿の男が多いように見受けられた。通路の前方に進むと列の中程にカジュアルな格好の男がいた。そして、男の横に空席があり、こも男ひとりを越えれば着席できることがわかった。
「すみません、そちらの席空いてますか?」
メールを打っているのか、ネットで何かを調べていたのか、両手でスマートフォンをいじっていた男が顔を上げる。眩しそうにあやを見上げると、声に出して返事をすることなく軽く頷いて両足を持ち上げ歩くスペースを作ってくれた。男の前を過ぎるときに、男の薄いグレーのセーターに赤いポロの刺繍が目に入った。
男の席からひとつ席を開けシートに腰掛けたあやは、男に向かって会釈をした。男もあやを見て微笑みを返してきたときには館内の照明が消え予告編が始まった。
本編が始まると、程なくセックスシーンがスクリーンに映し出される。スポーツバーのトイレで着衣のまま。あやは、自らの心臓の鼓動が速まる感覚を覚えた。物語は出版社が舞台で、大阪支社に単身赴任する夫を持つ女子編集者と中途採用の若い男を主人公とするものだった。人妻であることを知りながら必死に口説く中途採用の若い男を避けていたはずなのに、女子編集者はいつしか男を受け入れ始める。しかも、そのシーンをビデオカメラで撮影させる。
何度か肉体関係を結ぶ中で、女子編集者は自らが奴隷として調教されることを示すDVDを男の誕生日プレゼントとして送る。DVDに映る映像は目隠しされバイブを押し当てられる姿、スクリーンに映し出される奴隷の淫らな姿に釘付けになり、大音響で館内に響く喘ぎ声を恥ずかしく感じていたあやの肘が叩かれる。
『こちらに来て一緒に観ませんか?』
肘に当てられていたスマートフォンのディスプレイには、その一文が映し出されていた。
咄嗟に首を振るあやに、男が囁く。
「それなら、隣に行っていいかな?」
あやは、自然と首を縦に振ってしまった。
男は隣の席に移ると同時に甘えたようにあやの肩に寄りかかり、自らの左手を膝の上に乗せたあやの右手に重ねてきた。やがて、中指であやの人差し指と中指の間をなぞり始めた、それはまるであやクレバスを探りクリトリスを愛撫することを想像させる動きだ。
あやは指先から、そしてクリトリスに見立てられた指の付け根から微電流を流されている感覚を覚えた。やがて男は、あやの右足を自らの左足にのせることで、極自然にあやの足を開かせる。右足の内腿を撫でる男の左手は少しずつ奥へと向かい、開いている右手はあやの右手を取り自らの胯間へ導く。
チノパンの生地の感触越しに男の固く熱くなったものを感じ、あやは男の誘導を解かれた後も自然にものを撫で続けてしまった。。。。まるで形そのものを確かめるように。
「誰のせいで、こうなってしまったかわかる?」
耳許で囁かれたあやは、男の熱い吐息を感じ、ゆっくりと頷いてしまう。
男の左手はスカートを軽く捲りながらも更に奥に突き進んだ。ストッキングの上からあやの秘密の花園を撫で始めたと思ったら、クリトリスの位置を探り当ててしまった。ストッキング越しにも蜜を溢れさせてしまっているのはわかっていることだろう。
男の右手は、男の固く熱く変貌したものを撫でるあやの右手を掴むとそのままニットのセーターをたくしあげ、あやの右手を乳房に預ける。自らの意思で乳房を愛撫するように仕向けられてしまった。スクリーンでは、自ら奴隷として調教されていることを男に知らせた女性編集者のソファに横たわってのオナニーシーンが映し出されている。主人公が激しく乳房を玩ぶのと同じリズムで自らも同じ行為をするあや。頭の中が真っ白になり声が漏れそうになる。前後に観客がいて、更に男の反対側にも一席空けてスーツ姿のサラリーマンがいることを忘れてしまいそうになる。
左手でクリトリスに強弱つけた振動を加えながらも、右手によって器用にブラから乳房を引き出されてしまった。自己主張するかのように固く突起した乳首を指先で転がされる。クリトリスへの刺激にシンクロするかのように円を描きながら。。。。
花園から溢れた蜜がパンティのみならずストッキングまで湿らせてしまうころにはひとつの波が来てしまった。あやは、直接触れて欲しくなり自ら男の手をストッキングの縁に導いてしまった。男の手により下ろされるストッキングとパンティ、その行為を助けるかのように自ら腰を浮かせてしまった。
男の手の動きはより激しくなり、クリトリスにはより高い電流が流されたかのように、全身をブルッと震わせてしまうあや。
「こうなることを待っていたんだよね?」
男の問いかけに頷くと同時に、あやには二つ目の波が押し寄せた。男の指先がクレバスを押し広げ深く沈み込んでくるのが感じられた。たっぷりの蜜をたたえた花園は、なんの抵抗もなく第二関節までを呑み込んでしまった。喘ぎ声を抑えるのに必死なあやは、自らの指で口を塞ぐ。それでも漏れそうな喘ぎ声を抑えるため指先に歯を立てる。。。。その痛みすら快感に覚えてしまうほど敏感になってしまったあやには三つ目の波が押し寄せていた。
スクリーンでは自らのオナニーを撮影するビデオカメラに向かって奴隷が告白する。
『ご主人様のおしっこを飲ませていただいて、お尻を犯していただいて。。。。』
その告白を知っていたかのように男はあやの蜜をたっぷりと絡めた指先であやの唇をなぞり、そして口の中に押し入れてきた。あやに、指先をフェラチオをさせるかのように。
男の一連の動き、それはまるで、『アダージョ・ソステヌート』、ゆっくりと静かに、そしてひとつひとつの音を確実に繋ぐようなものだった。
第2楽章『アダージョ・ソステヌート』完
つづき「ピアノコンチェルト第3楽章『アレグロ・スケルツァンド』」へ
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