(なんて奇麗な男の子!……)
簗瀬真由子は心で声を上げ、猪俣健吾の涼やかな目に思わず見入ってしまった。家庭教師の派遣先を会社から指定されて、名前の印象から勝手に汗臭い高校生を想像していたものだから不意をつかれたようで余計に気持ちが揺れたのだった。
奇麗…といっても女のようになよなよしているわけではない。
(すっきりしている…)
ひと言で言うとそんな感じだ。16歳の高校一年生。色は白く、鼻筋が通っていて、やや面長。歌舞伎役者のようでもあるが、芯の強そうな毅然とした男らしさも感じる。青々とした坊主頭はいまどき珍しい。学校の方針なんだそうだ。
「一年間は丸刈りです」
はきはきした物言いに知性を感じ、微笑む口元にエリートの自信が窺えた。中高一貫のエリート校で、東大進学率は全国トップテンに入る。
勉学ばかりではないようで、中学まではサッカー部でキャプテンまで務めたらしい。
「高校でも誘われたでしょう?」
「はい。でも、目標を決めていますから」
医学部志望である。
身長は170くらいあるだろうか。スリムである。伸びやかな肢体を見ていると贅肉のないばねのような肉体が想像されて、
(見てみたい…)
真由子はかすかなときめきを覚えて体を熱くした。
(何を考えているんだろう…)
高校生に心を揺らめかせるなんて……。(子供ではないか…)
「健吾くん、もてるでしょう。彼女はいるの?」
「いえ、いません」
健吾が前を向いたままそれだけ言って黙ったので真由子はちょっと慌てた。
(いけない…)
無駄話をしてクレームがついたら大変だ。さっそく授業に入った。
真由子は24歳、私大の農学部を出たあと、大学院で生物学の研究室にいる。専門は植物学で、なかでも樹木と気候、環境の関係について勉強している。樹木医の資格もあり、できればそれを活かした職に就きたいと思っているのだが、なかなかうまくいかない。取りあえず大学院に進んで、いずれ教師の道にと方向転換を考えているところだった。
子供を教えることに慣れておこう。勉強のためにとこの春から家庭教師のアルバイトを始めた。いま担当しているのは中学生の女子と小学生ばかりで思春期の男子は初めてである。不安がなかったかといえば嘘になる。
「教えるのは一緒。むしろやりやすいですよ」
先輩から言われてほっとしたものだ。レベルが高くて理解力のある子は自分から先へ進んでいくから楽だという。
「その代わり、こっちも予習していかないとなめられるからね」
東大を目指す子だと聞いて心してきたのである。
真剣に問題を解く健吾の横顔を改めてじっと見つめる。実に端正な顔立ちである。イケメン、と軽い言葉でひとくくりにしたくない魅力があると思った。落ち着きがあって、知性を漂わせて、品もある。(子供だ…)と思いながら、心の奥が騒いでいた。
(この子も勃起するのだろう…もう精通はあったのかしら…)男子なのに、こんなに色白。
(ペニスはどんな色をしているのか…)
いつのまにか秘部がじわっと濡れてきていた。
つづき「メタルスティック(2)」へ
コメント