堕ちた天使 24_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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堕ちた天使 24

15-06-14 10:13

この話はつづきです。はじめから読まれる方は「堕ちた天使 1」へ

間もなく6限目も終わろうとしていた。
保健室から戻ってきた久美子は、こっそり廊下から扶美達の教室を窺っていた。

そこへ久美子に気付いた郁恵が声をかけてきた。
「吉沢さん、大丈夫?」
「ええ、すっかり。本当ご迷惑をおかけしました」
「迷惑だなんて、ぜんぜん、ぜんぜん。
扶美ちゃん、ちゃ~んと真面目に授業うけてましたよ。
発言なんかもして」
キーンコーンカーンコーン
「起立、礼!」
二人が話し込んでる内に授業が終わったようだ。
「あら、いけない。
おしゃべりしてたら終わっちゃったみたい。
扶美ちゃんはこれから部活?」
「たぶん」
「そう。うちの子は帰宅部だから一緒に帰ろうかしら」
郁恵は廊下から教室中聞こえる大きな声で、
帰り支度をしている娘に声をかけた。
「真由ちゃ~ん、帰る準備出来たらママと一緒に帰りましょう」
和やかな笑いがそこら中から沸き起こった。
恥ずかしいのか真由は顔を真っ赤にし、
無視するかのように鞄の中身をいじっている。
「真由ちゃ~ん」
「もう、恥ずかしいなあ」
恥ずかしげもなく呼ぶ声に真由も根負けしたのか、
大股歩きで急いで母親の待つ廊下に出た。
途端に久美子と目が合った。
「・・・」
「・・・」
お互い何も言い出せぬまま数秒が経過しただろうか。
「それじゃあ私達はこれで。
ほら、真由ちゃんも挨拶して。
帰りママ行きたい所があるの」
マイペースな郁恵に割って入られ、
いろいろ複雑な思いの二人は我に返った。
「・・・さようなら」
「さようなら」
一刻も早く久美子から母を引き離したいこともあってか、
無愛想に挨拶を告げると真由は母の手を引っ張った。
「まあ、この子ったら、無愛想で。
すみません、本当に。
じゃあ、これでお先に失礼します」
にこやかに郁恵が去ろうとすると、
久美子はしどろもどろになりながら、
緊張したように改まって挨拶をしたのだ。
「あっ、西尾さん、あのう、何と言ったらいいのか。
今日はいろいろありがとうございました。
そして、あの、本当に、本当にご迷惑をおかけしまして
申し訳ありませんでした」
そして深々と頭を下げた。
それには郁恵も少し驚いたように、慌てて久美子の肩に
手を添え困ったような顔をした。
「そんな、頭を上げてください。
私そんな大層なことしてませんから」
久美子は同じ年頃の娘を持つ母親として、
本当に申し訳ない気持ちで一杯だった。
全く何も知らないこの、人の良い母親を
既に裏切ってしまっていることが堪らなく苦しかった。
(娘さんと、真由さんとイケナイ関係になってしまって
本当申し訳ございません)
「ママ、早く」
そんな久美子の姿を見ていた真由は強く母の手を引いた。
「本当に気にしないでください。それじゃあ、私達はこれで」
娘の催促に急かされ、頭を下げ続ける久美子に苦笑いをしながら
郁恵はその場を立ち去った。
最後、久美子の姿が見えなくなる曲がり角で真由が振り返る。
そこにはまだ一歩も動かず頭を下げ続ける久美子の姿があった。

久美子が帰ろうと校門を出ると、
そこに一人の少女が立っていた。
「おばさん、私のこと憶えてます?」
今井幸子だった。
「ああ!確か今井さんよね。こんにちは」
幸子は何度か扶美の家に遊びに来たことがあった。
「・・・」
憶えているか訊いておきながら、
幸子は黙っている。
「今井さん、さっき保健室にいたでしょう。
私も気分が悪くなってあそこにいたの。
もう大丈夫なの?」
「・・・」
幸子はそれにも答えず視線を逸らすように横を向いた。
(あれ?聞こえなかったのかしら?
と言うかこの子、こんなに無愛想な感じの子だったかしら?)
久美子は首をかしげた。
と、突然彼女が話し始めた。
「真由をもうこれ以上掻き回すのは止めてください」
「えっ?」
心臓が止まりそうだった。
「なっ、何の事かしら?真由?
言っている意味がわからないわ」
「恍けなくてもいいですよ。
私、全部知ってます。
おばさんが真由とどんなことをしているか」
(そう言えばこの子・・・真由と・・・)
以前、真由と幸子の関係を不思議に思ったことはあった。
だが、最近はそういったことも忘れ、真由のことを信じ切っていた。
いや、真由のことで頭が一杯だったという方が正しいかもしれない。
「どういうつもりなんですか?
結婚して旦那さんも扶美ちゃんもいるのに。
まさか、愛してるなんて言わないでくださいね。
どうせ暇な主婦が欲求不満を真由で穴埋めしてるんでしょ?
ノーマルの人が私達の間に軽い気持ちで割り込まないでください」
「そんな言い方・・・ひどい」
あまりに一方的な言い分に腹立たしさよりも
悲しくなってきた。
「とっ、兎に角、真由を悲しませるようなことは
許さないんだから。
もう会わないで!」
幸子もつい言い過ぎたと思ったのか、
その場から逃げるように走り去ってしまった。
(ひどい。私がどれだけ苦しんでいるか。でも、本当はどうなの?)
考えれば考えるほどわからない自分の気持ちに涙が出てきた。
そして『私達』と言った幸子の言葉が、
悲鳴を上げる胸にしこりを残すように引っかかっていた。


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