とある理由でウチで引き取る事になった少年がいる。名前は、風間宏志くん。娘と同じクラスの同級生だ。
彼の両親は早くに離婚をしており、彼の母親は夫の度重なる暴力に耐え兼ねて彼を置いて出ていってしまったらしい。だから、残された彼は母親の代わりに父親の暴力の標的となり、毎日、新しい傷を作っては学校に来ていた。
しかし、そんなある日のこと、父親の度重なる暴力にとうとう我慢出来なくなった彼は逆に父親を殴り飛ばし、年端もない少年ながらに大人である父親に勝ってしまうのだ。
そうなってくると、父親は彼を怖がり、彼を家から締め出してしまった。何日も何週間も彼は家に入れて貰えず、とうとう病気になり、病院へと運ばれてしまう。
そして、その運ばれた病院というのが、私と夫が経営する個人病院だったのである。
日頃から思う所のあった私たち夫婦はそれを機に彼を保護する事に決め、警察や児童相談所などの協力も得て非道な父親から合法的に彼を引き取ったのである。
宏志くんを私たちが引き取ると言った時の父親であるあの男の晴れ晴れした顔は気に食わなかったが、でも、その後、遠慮深そうに私の服をちょこっと摘まんで嬉しそうに宏志くんが微笑ながら笑っていたので良しとしよう。
こういった経緯で私たちに新しい家族が出来た。
宏志くんはこれまでの酷すぎる生活の為に普段からはあまり感情を出さない子ではあるものの、私たちと暮らす様になって以前よりも笑顔をよく見せる様になっていく。学校でも前とは比べ物にならないくらいに元気で勉強しているらしい、というのが娘の談だ。
どうやら、前は先生以外では他の人と誰とも話さない程の本当に暗い印象の子だったらしい。だが、今はそれも昔。今では休み時間には男の子の友達とドッジボールなどで遊んでいるらしく、適度に人付き合いが出来ているらしい。
それを聞いて私は、とても嬉しく思った。私たち家族の一員となって彼も変わってきたのだと。
彼が心の壁を越えて私たちと1つの家族となり、毎日を幸せに暮らしているのだと。
ただ、そんなある日の事だった。私はとんでもない過ちを犯してしまうのである。
思春期に入ってきて彼がそういう事に興味が出てくるのは至極当前の事だった。体がそういう風に成長しているのだから、仕方がない事なのだ。
なのに、そこで私はやり方を間違えてしまう。
私の無意識の拒絶。
彼の切なそうな瞳。
その時、私は罪悪感と共に彼があまりにも愛し過ぎてしまい…
つづき「いけない仔(2)」へ
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