樹里<視る目>1_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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樹里<視る目>1

15-06-14 10:43

この話はつづきです。はじめから読まれる方は「樹里の悲劇」へ

初めは、気のせいかと思いました。

でも私は母親である前に、あの人の妻であり、女です。
娘を盗み見するように、すれ違いざまに垣間見た、あの人の、あの視線…。

夫は娘の樹里がこの世に生まれたその日から、娘を溺愛しました。
娘のためならどんな仕事も後回しにし、時間を作ってはそれはそれは大切に父親として、娘との関係を築きあげたのです。
おかげで家族はつねに平和で安定し、3人で幸せすぎるほど素敵な毎日を送ってきました。
娘の性格は曲がることもなく、成績も優秀で、思春期に入っても反抗するどころか親の言うことに逆らったこともありません。
世間様からの評判もよく、なにより、その容貌が母親のひいき目なしにしても、文句のつけようのない美しさなのです。
夫はよく、娘に
「樹里は本当に昔のママによく似てきたね」
と言います。
確かに目も髪も、立ち姿まで私自身が感じるほどよく似ています。
いえ、それどころか私が夫に出会った頃より、今の娘の方がはるかに美しいのです。
一緒に温泉に出かけて見る娘の裸体は、母親の私が見ても息を飲むほどです。
特に高校を卒業する頃には、娘の体は女としての色香を放つほどでした。
娘の周りには男の影はなく、世話をしてあげている夫の親友の息子を兄と呼んで親しむぐらいです。
いつしか夫は、娘に悪い虫がつくと大変なことになると言って、娘に黙ってボディガードをつけるまでになりました。
はじめのうちは心配性な父親のやりすぎた行動だと思っていました。
でも、あの日。

その日は娘の19歳の誕生日でした。
初夏とはいえ、蒸し暑く、庭仕事をしていたので夕方近くになってもいっこうに汗が引きません。
「ママ、そろそろお出かけの準備をしようか」
先に娘がねをあげました。
夫が誕生日祝いに、有名レストランを予約していたのです。
早くエアコンの効いたリビングへ飛び込みたかったのでしょう。
一緒に庭先を片付けていると、ふと、娘のブラジャーがずれているようで、べったりと汗をかいた白のTシャツの上に乳首の形が浮き上がっていたのです。
…あら!いやだ!
私があわてて注意しようとしたその時。
片付けに気付いた夫がデッキに続く窓をさっとあけて、娘を呼びました。
「樹里、前にいってた番組、今やってるよ」
「ほんとうに?!」
娘はそう答えながら、デッキに飛び乗って夫のもとへ駆け寄りました。
家の中に入らないうちから、リビングの画面に見入る娘の胸元に、夫が気付いたのはその瞬間でした。
娘が横を通るその瞬間、夫の目はあきらかに男の視線でその胸元を追ったのです。
妻である私が見てもドキリとする目つきでした。
「もう、樹里ちゃん仕方ないわね」
私ははげしく打つ心臓の音をごまかすかのように、娘の後を追って家に入りました。
窓をしめる夫から娘を隠すように、
「さ、早くシャワーして準備していらっしゃい」
と娘をリビングから追い出しました。
「そうね、服も選ばないと間に合わなくなっちゃうね」
娘が逆らわずにすぐにリビングを出てくれて、私がどれだけほっとしたか…。
その日から、私は夫を注意深く見るようになりました。

つづき「樹里の悲劇 2」へ


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