壁(改)1〜悪夢〜_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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壁(改)1〜悪夢〜

15-06-14 10:51

「嘘。何で?あんなに愛し合ったじゃない」
「愛?私達は親友じゃない。それにそもそも女同士よ。私、結婚するの。
美香も祝福してくれるでしょ。紹介するわ。この人が私の愛する旦那様」
ウェディングドレスを着た一美が腕を組んで寄り添うその男は、まるで
勝ち誇ったように私を見て微笑んだ。
「誰?それ。私そんな人知らない。一美、お願い、行かないで。私これからどうすればいいの?ねえ、嫌だよ。捨てないで。いやああああああ~」

悲しみと共に目が覚めた。
「はあ~、夢か」
夢だったことにひとまず安堵する。しかし私の心臓は暴れ回り、ドキドキと
耳の中で鳴り響いていた。全裸になっているのにうっすらと汗ばんでいる。
(夢で良かっ・・た?私にとって本当に悪夢なのはどっち?)
私の横で寝息を立てている一美を見つめた。美形の上にスタイルもよく、彼女の
周りにはいつも男達が群らがっていた。私もそこそこモテるほうだと思うのだが、
彼女は私なんかの比じゃなかった。でも逆に派手な容姿からか、軽い女に
見られがちで、男を泣かせたことよりも泣かされたことのほうが多かった。
そんな彼女をずっと間近で見てきたから、今天使の様なあどけない顔で幸せそうに
寝ている彼女を見ると、胸がキュンと締め付けられそうになった。
(はああ、私もう一生結婚なんて出来ないのかなあ)

私は27歳のOL、高瀬美香。子供の頃から男勝りで勝気な性格。女ということに
常にプレッシャーを感じていた。女だから出来ないとか、女のくせにとか、
そういった差別が大嫌いだったし、どんなことに対しても男に負けたくなかった。
そんな性格が災いしてか、思春期の頃は恋愛に憧れるものの、すごく奥手だった。
周りが次々と彼氏を作っていくのに、19になるまで男の子と手を繋いだこと
すらなかった。だが何故か同性からはよく慕われ、後輩の女の子からラブレターを
もらうなんてことは一度や二度ではなかった。私自身は当時、同性に恋愛感情を
抱くなんて考えられなかったので全て『ごめんなさい』だったが。そんな私にも
ようやく春がやってきたのは大学に入ってからだった。思春期の尖がったところが
消え、性格が円くなったせいだろうか、急に男にモテだした。男性に対して対等で
ありたいという考えは変わっていなかったが、そんな私を理解してくれる男性にも
めぐり合い、私の視野も広がっていった。幾度かの恋愛の中で私も女になり、
そして女としての悦びも知った。今でも過去の男達には感謝しているし、
死ぬまで忘れないと思う。そんなごく普通の人生を歩んできた私の現在の恋人が、
先程までこのベッドで激しく愛し合っていた佐藤一美、彼女である。
会社の同期で知り合ってもう5年。私が一番心許せる親友だ。彼女はこれまで
私とは全く正反対な恋愛を重ねてきた。相手への依存度が強過ぎるせいか、
ほとんど男と長続きしない。なのに惚れっぽい。付き合った男は両手両足じゃ
足りないだろう。恋人に捨てられる度に、愚痴を聞きながら慰めるのは私の
役目だった。部屋で二人して一晩中飲みながら泣き明かすなんてこと、何度
あったことか。だが同じ事を繰り返す彼女を私は責めなかった。それは一美が
いつも真剣だったから。2週間前のあの日も男に振られた一美を私の部屋で
慰めていた。まさかその時は親友とこんな関係になるとは思ってもみなかったが。
あんな夢を見たせいか、置き去りにしている問題を見つめ直さなければと
考えてる時だった。
・・・はあん・・・
微かな女性の喘ぎ声が耳に飛び込んできた。
(またあ?)
溜息をついて枕元に置いてあった耳栓をした。元はと言えば、この声が
私達二人をレズビアンの世界へと導いたと言ってもよかった。

つづき「壁(改)2~誘う声~」へ


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