ストックホルム・シンドローム〜侵入〜_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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ストックホルム・シンドローム〜侵入〜

15-06-14 11:04

この話は続きです。初めから読まれる方は「ストックホルム・シンドローム〜プロローグ〜」 へ

ゴゥゥン..ゴゥゥン..
最近優也にねだって買ってもらった最新のドラム式洗濯機が静かに回っている。
「ったく…仕事とかいってどうせキャバクラとか行くクセに…」
依然として腹持ちならない美沙の口からは自然と愚痴がこぼれる。

美沙の自宅は郊外の振興住宅地にある。
駅から若干離れているのがネックだが、一戸建てを持つ事が夢だった美沙は、値段と間取りを見て一も二もなく飛びついた。実際は立地とインフラ整備がまだ行き届いていない事もあり、土地はきれいに造成されているものの、建っている家は少ない。専業主婦の美沙にとってはそれほど不便を感じないが、電車通勤の優也にとっては堪らない。「もう少し探せばよかったのに…」と最近優也は半ば口癖のようになっている。
美沙はそんな優也の不満などどこ吹く風で、今日もお気に入りの洗濯機を回しているのだ。

洗濯機から脱水完了を知らせるアラームが鳴った。美沙がリビングから洗濯機へ向かうその時…

「ピンポ〜ン…」

美沙は不意を突かれたかのようにビクッとなった。引っ越してきて間もないとはいえ、こんな早い時間に訪問者が来たことなどないからだ。届け物にしても早過ぎる。
「誰…?こんな早い時間に…」
廊下の時計は間もなく9時をさそうとしている。美沙は怪訝そうにインターフォンの画像を見ると、そこにはスーツを着た男性二人組が映っていた。

何かの勧誘か、もしくはセールスか。いずれにしてもこんな時間から飛び込みなんて非常識だ、一言言ってやらなきゃ。そんな勢いで美沙は玄関の扉を開けた。
「はい…どちらさまですか…!?」

「朝早くから申し訳ありません。こちら△□県警の者ですが…」
二人のうち若い男性がジャケットの内ポケットから手帳を取り出し美沙に見せた。
「えっ…!?警察…ですか…!?」
戸惑う美沙の反応などお構いなしに、もう1人の初老の男性が口を開いた。
「昨日、△□刑務所から受刑者が脱獄したのはご存知ですか?実はこの近辺で目撃情報があったもので。奥さん、今日は外出はしないでください。あと戸締りも厳重にお願いします。」
「えっ…脱獄…!?えっ…あの…」
淡々とした口調がかえって深刻さを煽る。美沙は未だ事態が飲み込めないまま玄関の扉を締めた。

「脱獄…って…ウソでしょ…そんなの日本で起こるわけ…」
自らに言い聞かせるように美沙は呟く。優也が毎日のようにくり返す口癖を思い出し、今更ながらその通りだと感じていた。
いずれにしても、早く戸締りだけはしなくては。そう思い美沙は足早にリビングへ戻った。

けして観ているわけではないがなんとなく点けているテレビ、今朝優也が読んで無造作に畳んである新聞、今まさにかけようとしていた掃除機。数分前と何も変わらない、見慣れたリビングのはずだった。
しかし…
何かがおかしい。
美沙は言い知れぬ違和感を感じていた。
違和感というか、美沙が知っている誰の物でも無い気配、言うなれば異物感。そんな得体の知れない気持ち悪さを感じていた。
「まさか…気のせいよね…」
そんな恐怖心を振り払うかのように、美沙はリビングの戸締りを始めた。それがこれから起こる悲劇の幕開けとなることなど知るよしもなく。

つづき「ストックホルム・シンドローム〜欲望〜」へ


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