この話はつづきです。はじめから読まれる方は「我が姉」へ
我が儘は息を吸うが如く。
残念な事にこれが、我が姉なのだ。パンが無ければ、ケーキを食べればいいじゃなぁ~い…を地で行く人。そして、それは事に弟である俺に対して顕著に現れる。
「雪斗くんが、1万円を持ってました♪お姉ちゃんは0円です♪でわ、雪斗くんがお姉ちゃんにいくらあげるとお姉ちゃんは幸せでしょ~♪」
誰かコイツ、止めて。
無心こそ我が安寧の…なんて、甘かった。それは、もうバニラアイスにチョコソースで練乳で蜂蜜で黒砂糖で…甘かった。
「答えは、1万円でぇ~す♪」
机の引き出しから俺の財布を取り出すと、千円札でバラの1万円相当の金を姉は俺の許可も無く全額引き出していく。その顔はほくほくと満面の笑顔である。
「お姉ちゃん幸せ~♪わーい、雪斗くんがお姉ちゃんに幸せをくれましたぁ」
あげてません。くれてやってません。
安寧の為と黙って静観していればこのバカ姉、これではいつもと変わらない。とりあえず、姉が握り締める俺の金を取り戻すべく、俺は立ち上がろうとする。
「…で、わぁ、雪斗くんに幸せにして貰ったお姉ちゃんは次に何をするべきでしょ~?」
「えっ?」
だが、先程までのほくほくとした満面の笑顔と打って変わって、ゆったりと妖艶な姉の笑みに俺は立ち止まる。姉の細く綺麗な指先がぽってりとした姉の唇にぷにゅと触れた。ドキッという処では無い。ドキドキと忙しなく心臓が波打つ。ゆっくりと一歩、前進する姉。下着姿の為に白くスラリとした艶かしい姉の足が隠れる事無く俺の目に入ってくる。
「…答え、お姉ちゃんわぁ…」
俺はごくりと喉に絡む唾を飲み込む。
「買い物にいきまぁ~す!さらばだ、お猿さんな弟よっ!」
ダダダッと世界陸上、駆け足で弟の部屋から出て行く姉。それはもう、脱兎の様に。そして、バタバタと自分の部屋で着替えを済ませると、更にスピードを上げて、玄関から外へ走り去って行った。
「……」
1人、誰も居ない家という檻の中に取り残されたお猿な弟、俺。
「って、誰が猿だ!?」
くそっ、わざとか。あの艶かしい笑みは罠だったのかっ!?がっくしと床に手をついて、俺は項垂れる。
猿。
お猿。
そう、俺は姉に対して抱いてはいけない感情を抱くお猿さんだったのだ。
「う、鬱苦しい…ん?」
と、鬱に項垂れる俺の目の前にヒラヒラと一枚の紙切れが舞い落ちる。そして、そこには癖のあるあの姉の手書きで…
「お姉ちゃん、好き好きして宜しい券?」
と書かれていた。
つづき「我が姉 3」へ
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