トライアングルラブ 25(美佐子)_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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トライアングルラブ 25(美佐子)

15-06-14 11:08

この話はつづきです。はじめから読まれる方は「トライアングルラブ」へ

 ホテルのツインベッドの1つに横たわり、子供のように泣きじゃくる。どうして泣いているのか分からない。
でも悲しい。すごく悲しいの。
そんな私に
「泣かないで」
と女性がキスをしてくれた。灯りが眩し過ぎて逆光で顔が見えない。

(誰?慰めてくれるの?)
優しいくちづけ。柔らかな唇。悲しみに包まれた私の心を癒してくれる。
彼女の優しさが唇を通して伝わってくる。
(ずっとこうしていたい。裂かれたハートをキスで埋めてほしい。でもきっとこれは夢。目を覚ませば貴女はきっと私の前から消えてしまう。そう、夢)
 そう思った瞬間、私は目覚めた。そこは病院のベッドだった。
(ここはどこ?私いったい?)
ちょっとした錯乱状態の中、不思議と夢の中の柔らかな唇の感触だけはまだ残っていた。
「あっ、美佐子先輩!意識が戻ったんですね。キャ-よかったあ。すごく心配したんですよ。今看護士さん呼んできますね」
そう言って病室を慌てて出て行ったのは、あの結花だった。
(どうして結花が?・・・そうだ。私部屋で倒れたんだ)
少しずつ記憶が戻ってきた。悲しみとショックであの日以来、まったく何も口にせず、風邪も患い、誰も来るはずのない部屋で倒れたのだ。その瞬間の記憶が一部戻ってきた。
(このまま、死んじゃうんだ。それもいいか。サチがいないなら、生きていても仕方がない)
倒れた時そう思ったのに、生き残ってしまった。もう全てがどうでもよかった。
暫くすると先生と看護士さんが駆けつけてきた。
「もう大丈夫でしょう。肺炎になりかけてましたが、峠は越えたようです。暫く安静にしておけば2~3日で退院できると思いますよ」
「先生ありがとうございました。先輩、4日も意識が戻らなかったんですよ。本当によかった」
結花が先生に深々と頭を下げてお礼を言っているのが不思議に思えた。
「結花、貴女。貴女がどうしてここにいるの?」

「私がたまたま救急車を呼んで病院に連れてきたんですよ。あと私、暇だし。じゃあ今日はこれで帰ります。明日皆には報告しておきます。それじゃあお大事に」
「あっ結花、貴女さっき私に・・・。ううん、やっぱり何でもない」
「あっ、そういえば連絡事項忘れてた。今度先輩と私でダブルスのペア組むことになったんです。よろしくお願いします。それじゃあ、おやすみなさい」
結花は帰っていった。もしかしたら夢の中のキスは実際に結花が私にキスをしたのかと
チラッと考えたが、それはないと口に出さなかった。
「いい後輩ですね」
一人残った看護士さんが私に言った。
「あの子が?」
「ええ、だって入院してからずっと彼女が飯田さんに付き添っていたんですよ。着替えやら手続きやらも全部。普通なかなかそこまで出来ませんよ」
「そうだったんですか」
結花が何を考えているのかさっぱり解らないが、そんな事どうでもよかった。
 結花は毎日見舞いに来た。
「結花、もう来なくていいよ。て言うか来てほしくないの。一人になりたいの」
「ダメです。新しいパートナーなんですから、面倒みるのは私の役目です。コーチにも言われてますし」
「・・・」
私達はどちらからともなくあの日の話題は避けていた。私はまだ恐かったから。でも今日は思いきって切り出してみた。
「貴女、私のサチへの想い、知ってたんでしょ。知っててあんな事したんでしょ」
結花はドキリとした顔をした。何故か結花もその話題には触れたくないようだった。
「はい、知ってました。だから3Pを企画したんです。先輩の弱みにつけこんで」
「・・・ひどい事するのね。その上まだ私の落ち込んだ姿を見て楽しみたいの?」
「そんな・・・私はそんなつもりじゃ・・・」

結花は困ったような顔になった。彼女の真意は解らないが側にいてほしくなかった。
「貴女、人を死ぬほど好きになったことはある?」
「・・・」
「サチは私の全てだった。ずっと片思いだったけど、彼女が側にいてくれるだけで幸せだった。それを突然、貴女が全て奪った。私の側にもう彼女はいない。もう私は死にたいの。だからこれ以上私に構わないで」
「・・っ!」
(どうしてそんな泣きそうな顔をするの。目を真っ赤にして。貴女の思惑通りになったんでしょ。だから私のことはもう放っといて)
コンコン!
先生が回診に来た。
「飯田さん、体調はどうですか。良くなりましたか?」
意識が戻ってから1週間がたっていたが体調は思わしくなかった。
「う~ん、あまり良くありませんねえ。もうとっくに良くなってもいいはずなのに。なんと言いますか、見ていて感じるんですが、飯田さんに今必要なのは生きる力というか、生きようとする意志みたいなものが足りないんじゃないですかねえ。だから体が病気に負けてしまう。病は気からというのは本当なんですよ」
先生の言うことはおそらくその通りなんだと思う。さっき結花と話していたように
私は今や抜け殻のようになっていた。
「ということよ。私はもう生きたいとも思わないの。だから貴女達の邪魔もしないからもう来ないで」
しかし結花は急に背筋をピンと伸ばし真っ赤な目を手で拭いながら言った。
「うそです。先輩は生きたいと思わないなんて言ってますがそんなのうそです。その事を明日証明してみせます。だからまた明日来ます。私が先輩を死なせません」
「何訳のわからないことを言ってるの。貴女に私の何がわかるって言うの」
「わかりますよ。私、美佐子先輩のパ-トナ-ですから」
そう言って結花は帰っていった。

つづく「トライアングルラブ 26」へ


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