上品な薄いベージュのロングコートと膝下までのブーツ‥年の頃は30代に見えるが,連れ立って歩く高校生位の年頃の娘がいる事を考えると40はいってるのかも知れない。
休日で賑わうショッピングモールを歩く二人に目を惹かれた。
隆史は今年の夏に3年続いた慶子との結婚生活に終止符を打ち,故郷へも帰る訳でもなく一人寂しくアパートにいると惨めな気分になり足を向けてみたのだった。
特に欲しい物があるでもなくぶらついていると惨めさに拍車がかかった。
あんな女を嫁さんにもらって,可愛く理知的な娘がいて‥絵に描いた様なしあわせに女の亭主に嫉妬を覚えるのだった。
赤字経営だとかの理由でボーナスはカットされ,その割りに重役連中は高級車を乗り回し接待だの何だのでゴルフだ何だのと遊び歩く会社に不満が鬱積していた。
くそ!‥
ついつい毒づいてしまう自分がさらに惨めになるのだった。
帰ろう‥
隆史の居場所はこの年の瀬を迎えた慌ただしい場所にもなかった‥
エレベーターに乗り込み階上のパーキングへのボタンを押した。
ガラスの自動ドアが開いた時,
ドン!
と大きな音が鳴り響いてけたたましくクラクションが鳴り続けた。
どっかのバカが車でもぶつけたのだろうか‥
まさか俺の‥?
クラクションの鳴り響く方向も音も隆史が止めた辺りだった。
マジ?‥
ついつい早足になり車の方へと向かいながら来る時と違う離れた所のエレベーターに乗ってしまったのだとその時初めて気付いたのだった。
ブルーメタリックの5ナンバーのBMWと車に向かいながらすれ違った時運転する女の顔を見て,あの母子だと気付いた。
振り返ると左のテールランプが割れ,バンパーも歪んでいた。
防犯システムのクラクションはけたたましくまだ鳴り続け,ハザードも点滅していた。
俺の‥
まだ買って一年も経たないエスティマの運転席側のドアが醜くひしゃげていた‥
隆史にとってゆういつの財産と言って良い愛車が無惨な姿を晒しているのを見た時には泣きたい気持ちになった。
パールホワイトのボディーにはぶつけた相手方のブルーメタリックの塗料が張り付いており,飛散したテールランプのプラスチック片も散らばっていた。
あの女‥
当て逃げをされた怒りと同時に報復してやろうと言う閃きに久々に気分が高揚してくるのだった。
どうしてやろうか‥
警察に届けるだけでは面白くない‥
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