路面に、大きな水たまりが出来ている。大きな大きな水たまりだ。少しでも踏んだら、水しぶきが、どこまでもとんでいきそうな。
いっときやんでいた雨が、舞い戻ってきたかのようにまた降りだした。今日は、ニュースで曇りと予報されていたにも関わらず、あいにくの大雨。強い風も吹いていて、オーバーにいえば、いわば台風のようなものだ。最近の天気予報は当たる確率が増えてきたと思っていたが、残念だ。
しかし、外に出ているものはまったくおらず、害はなかったが、暗い外を見ると、心まで暗くなりそうな。そんな暗さだ。
車も通らず、街は、ひっそりと静まり返っていた。まあ、それもそうであろう。
「うわあ、最悪。あたし、車の免許ももってないし、どうやって行けばいいのよ。」
大塚はるかは、窓の外の景色を見て、思わず声を漏らした。今日は、親友である高杉あやのの就職祝いのパーティーが、あやのの家で行われる日だ。どうしても出席したいイベントであり、何があっても出席する、と心に決めていたが、この天気では、行けそうにない。車で行けばいいのだが、残念なことに、はるかは車の免許をもっておらず、絶望的だった。諦めるしかない。という思いが、はるかの心に宿る。
パーティーが始まるまでは、あと10分をきっていた。
「はるか、おそいね。」
あやのの家では、すでに、他の面々がそろっていて、あとははるかだけになっていた。外はあいにくの雨であり、諦めざるを得ないのだが、はるかが居ないと、このパーティーは、はじめれない。確かに、あやのの就職も決まったが、別に、はるかの誕生パーティーでもあるのだ。今日は、はるかの21歳の誕生日である。あやのの就職パーティーと偽って、はるかが来たところを、サプライズで驚かそう、という企みだったのだが、当の本人が来なければ、パーティーが始まらないわけで、盛り上がらない。
「ちょっと、あやの。はるかに電話してみてよ。」
佐々木りおが、小さな貧乏ゆすりをしながら、言う。若干、苛立ちをおぼえているようだった。
まあ、仕方がない。せっかくはるかのために準備したくせに、ドタキャンされてしまったら、たまったもんじゃない。
「うん。」
あやのは頷くと、カウンターに置いてあったスマートフォンに手をかけると、電話帳から慣れた手つきではるかの名前を探し出し、電話をかけた。
心配そうな顔で、あやのは、はるかが電話に出るのを待っていた。決して、苛立っているのではない。
“何かあったのでは?”という心配の気持ちだ。あやのはいつもそうだった。お人好しで、少し抜けてるところもあるけど優しい。それが、あやのをだんだんと人気者へと育てていっていた。
『もしもし。はるかちゃん?今どこに居るの?大丈夫?』
あやのがそう聞いて、数秒たってから、はるかは答えた。
『あ…やの…?』
その声は少し震えていて、今にも消えてしまいそうな、そんな声だった。
そして、その声と、電話越しに、ザア…という雨音もしていた。
『傘がね…外でてすぐ壊れちゃって、合羽もなかったから…。』
その話と雨音、そしてはるかの震えた声は、あやのの中ですぐに一直線につながった。
『もしかしてはるかちゃん、傘も差さずにこっちに向かってるの?』
そのあやのの声にあやのの家に居た皆が、「ええ!?」と声をあげた。
この、雨脚と風が強い中、ただでさえ寒く風邪をひきそうな天気なのに、傘も差さずにいたら、ひどい場合、凍え死んでしまうくらいだ。
『やめてよ!そんな無茶するの!』
あやのは涙目で言った。しかし、はるかは、薄く笑みを浮かべながら、
『親友の就職祝いにドタキャンなんて、失礼でしょ?』
もう震えを通り越して、死ぬ直前の人間のような声であった。
『今どこ?迎えに行くから!』
あやのは、コートをきる準備をして、はるかに聞いた。このままでは、はるかが死んでしまう。そう思ったのだろう。
『良いよ。せっかくの主役に、迷惑、かけたくない…し…。」
はるかは、そう答えた。本当の主役は、はかなのに…。
____何で、そんなに無茶するの?
あやのの頬を涙が伝う。『何でそんなに、意地張るの?』
あやのの声も、震えてきていた。泣いているからだ。
『もしかして、泣いてるの?やめてよ、ホントに。』
薄く微笑んでいるはるかの声を聞き、あやのは、決心をした。
『ごめんね、はるかちゃん。あたし、はるかちゃん、迎えに行くから。』
そう言うと、はるかの言葉も聞かずに、電話をきった。
「はるかちゃん、迎えに行ってくる。」
あやのはそう言ってコートを羽織った。
「それで、少しでも体調悪かったら、あたし、はるかちゃんの看病するからね。」
そう言って、あやのは家を出た。その家で、あんな事が起こっているとも知らずに____。
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