「おそらく殺ったのはこいつ」
全裸のまま夏菜はおもむろに立ち上がり、丸テ
ーブルにあったメモ用紙に何か走り書きをし、
敦子に渡した。
そこには柏木良平と書かれた文字が記されてあ
った。
「関東弘総会の幹部。鴨川って政治家と繋がっ
てるわ。まあ早い話、先生の裏金作り。その証
拠隠滅に婚約者は利用されたのね」
虚ろな目をしていた敦子もようやく目を見開い
て重い体を起こした。
「信じられない!それが本当ならとんだ大事件
よ。あなたいったいどこでこんな情報・・・」
事の大きさに声を張り上げて敦子は驚いた。
その勢いに夏菜も少したじろぐ。
「それは・・・企業秘密ってことで。そんなこ
とより絶対に私の名前は出さないで。もしこれ
が・・・」
「わかってる。これほどのヤマですもの。こっ
ちも慎重に運ばなければ直ぐに上からストップ
がかかってしまう。任せて。ここからは私の戦
場よ」
刑事としての血が騒ぎ出すのか、敦子は思わず
興奮気味で声を震わせた。
夏菜は続けてもう一枚メモ用紙にペンを走らせ
る。
「私の携帯番号。契約には普通アフターフォロ
ーが必要でしょ」
ニコリと笑顔を見せる夏菜だが、彼女の言葉の意味を計りかねる敦子は、不安そうにそのメモ
を受け取った。
ーーーーーーー
夏菜の情報を元に捜査本部は慎重に外堀から証
拠を積み重ねていき、遂に本丸へと踏み入っ
た。
今世間では前代未聞のスキャンダルに国会から
マスコミから大騒ぎだ。
武智雄介が釈放されたのはその真犯人が捕まっ
て間もなくのことであった。
「あ~っ!」
解放された喜びとも鬱積された怒りともわから
ない心の叫びが自然と口から出ていた。
ーーーーーー
(情報は確かだった。でもこれだけの情報、何
故あの子が握っていたのか・・・?)
(「あああぁっ、ぎもぢイイィ~、もうムリ
っ、ああっ、ああっ、ああっ、ああっ」
「ダ~メっ、まだ許してやんない。もっとスゴ
いことしてあげる」
「あああああぁぁ~~」)
「菊原、おい、菊原」
「はっ?!はいっ!」
「どうした、お前?大きなヤマ落としてすっか
り気が抜けてしまったか?」
先輩にキツい言葉を投げかけられ敦子は気を引
き締めた。
仕事中だというのに違うことに想いを巡らせて
いたことを戒めた。
「ああっ、いえ、すいません。ちょっと・・・
つい」
「おいおい、しっかりしてくれよ。お前はうち
のエースなんだからな」
「違いますよ、山さん。菊ちゃんは彼の疑いが
晴れて結婚のことで頭が一杯なんすよ」
ゲンキンなものである。
散々雄介のことを犯罪者扱いして捜査情報も一
切明かしてくれなかった同僚に敦子は少しムッ
とした。
だが、刑事とはそういうものである。
疑うことが仕事。
わからないでもない。
それよりも彼の言ったことは半分当たってい
る。
確かに最近敦子を悩ませていることの一つにそ
の雄介とのことがあった。
ギクシャクしている。
一言で表すならそういう表現になるであろう。
後ろめたさから二人の関係に微妙に狂いが出始
めていた。
負い目を感じる敦子は雄介と距離を置くように
なり、彼もまた以前とは違う婚約者の態度に不
信感を抱き始めていた。
最近ではちょっとした言葉のアヤでもつまらな
い喧嘩をしてしまう。
そんな時敦子の脳裏に浮かぶのは夏菜との目眩
くあの夜の出来事なのだ。
その指を、その舌を身体中あらゆる所が憶えて
いる。
デート中でも仕事中でもパンティーの中を湿ら
せたのは1度や2度ではなかった。
昨晩も彼の家で二人は愛し合った。
彼もそれまでの敦子に不満を抱いていたのだろ
う。
獣のように敦子を求めた。
怒張する己のイチモツで激しく敦子を貫いた。
だが昨晩、いや昨晩も、敦子の体が燃え上がる
ことはなかったのである。
(彼を愛する自信が今の私にはない。こんなに
好きなのに、っぱり何かが違う・・・一度の
過ちといえ彼を裏切ってしまった私のこの体は
もう彼に愛される資格がないのだろうか)
ついついペン先をこっそりとパンツの上から股
間に押し当てて、微妙な感触を夏菜の指に思い
重ねていた。
ーーーーーー
新聞記者の雄介は自身の体験もあってこの前代
未聞のスキャンダルの取材で連日大わらわであ
る。
(くそっ、ハメやがって。この件は絶対に俺が
洗いざらい暴いてやる)
「武智、お前の無実を証明してくれたのってや
っぱり彼女だって話だぞ」
「えっ?違いますよ、先輩。本人それは違うっ
て言ってましたよ。僕もそうじゃないのかと思
って何度も聞いてみたんですから」
「それはあっちゃん、単に照れくさかったんだ
ろ。警察幹部からの確かな情報だ。連中、事が
事だけに内心穏やかじゃないらしいからな」
「はあ、そうッスか」
(んん~、何だ?この違和感。あいつ、あんな
に否定してたんだけど・・・何か隠してる?)
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