斉木和夫は妻の陽子と結婚して25年を迎えた。祝うべき銀婚式なのだが、和夫は一人、浮かない顔をしている。
一人娘の美咲が怪訝な顔をして、和夫に問いかけた。「パパ、どうしたの?」
はっと我に帰った和夫。「いやぁ、ごめん。最近疲れが抜けなくてね」苦しい言い訳だ。
本当のところ、陽子とのセックスがうまくいっていない。相性がどうのという間柄ではないし、陽子は40半ばを越えたばかり。
性的に円熟味を帯びて、和夫からの誘いを断ることはなかった。
問題は和夫の方にあった。勃起不全。つまりはインポになってしまったのだ。泌尿器科で勃起薬を処方してもらい、いくつかを試したがだめだった。
いいところまではいくが、いざ、挿入となると役に立たなかった。
実は昨晩も、和夫は陽子に挑もうとした。すると陽子は「いやよ、、もう、やめて!」乳房に伸びた和夫の手を振り払って言った。
「え?」唖然とする和夫に陽子は続けざまに言う。
「私だって生身の人間よ。私の身体に火をつけて燃やすだけ燃やしておいて、放り出されるのはもう嫌なの。耐えられないのよ」
昨夜の出来事が尾を引いていて、頭から離れない…というのが、娘・美咲への偽らざる返答であった。
世の中には「便利屋」とか「なんでも屋」といった商売がある。表向きはまっとうなうたい文句で商売をしているが、中にはとんでもない輩もいる。
陽子とのことを念頭に、何か手立てはないかとネットの世界を彷徨った。そのうち和夫は「ベルフィン」というサイトに行きついた。
「よろず相談承ります」とあった。
匿名性も手伝って、和夫は恥ずかしげもなく、夫婦の夜の生活の不満を相談していた。
「お医者様でも治せない、あなたの悩みを解決できる方法が1つあります」と回答のメールが届いた。
ただし、此処から先の具体的なお話は、直接会って話したいという。
和夫は週末、ベルフィンの指定する場所へ足を運んだ。
雑居ビルの角部屋のドアを開けると、雑然とした事務机の手前に古びたソファがあった。奥から中年太りの男が出てきた。ニコニコと愛相の良い感じの禿げたおっさんだった。
男は仲本と名乗った。「その年で勃起不全とは、お気の毒ですね」仲本は茶を出しながら、和夫に同情してみせた。
「はぁ。で、ほんとにこの状態が改善できるんでしょうか」和夫はいぶかしげに尋ねた。
「あの。世の中にはNTRという性癖をお持ちの方が結構おられるんですがね」仲本は禿げ頭をさすり、お茶を下品にすすった。
「エヌティーアール?ですか?」アルファベットと性癖とが全く結びつかなかった。
「ああ。寝取られですわ。ね・と・られ…ね。ダイゴが言いだしそうな、最近の言い方ですな」ダイゴを例にとるとは、変なおっさんだと和夫は噴き出しそうになった。
「で、わかりやすく言うと、自分の奥さんや彼女が他人に抱かれるのを見て興奮するんですね。そういう…」
「ちょ、ちょっと待って下さい。私がそんな性癖の持ち主だと?!」仲本の言葉の途中で、和夫が口を挟んだ。
「それはわかりません。わかりませんが、この話をすると大抵の方は、否定されるんですよ。でもね、これは特効薬なのも間違いない。インポならなおさら効くでしょうね」
「あなたの愛する奥さんが、他人に蹂躙されたとしましょう。あなたはどうすると思う?」
「そ、そりゃあ、まずは家内の心の傷をいやすべく抱きしめてあげると思いますよ」和夫はそう言い切った。
「あのね。そんな冷静ではおれんのよ。そう言う時にまず湧きおこってくるのが「嫉妬」。それっきり抱けなくなったちゅう人もおるけど、普通はね、犯された女房に挑みかかって男としての本懐をね」
仲本の柔和な表情が険しく語りかけていた。 和夫は生唾を飲んだ。
「で、ここからがビジネスなんだけどさ。あんたの奥さんを最初はヤっちゃうわけでね。これ、犯罪でしょ。へたするとさ。でも最初はちょっと強引にいかないとダメだからね。あんたの協力がいるんよ」
「あのぉ、それって仲本さんが?」
「いやいや、わしだけじゃないから。若いのもおるしね」
仲本のいう成功報酬は安いものではなかったが、和夫は契約書にサインした。
それから数日、陽子が他人に犯される姿や快感に身悶える様子を想像する和夫だった。身持ちの硬い、真面目なおんながどんな変貌ぶりを見せるのか…いつしか結構の日を心待ちにするようになった。
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