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「小田原物語」 第1話 アッ・・・失礼しました。 ご両親がお孫さんにお会いしたいのね・・。 おかげさまで元気になりました。 しばらく話していた。奥さんがいい季節になりましたから、またおいでください、息子さんもご一緒にという。はい、お邪魔させていただきます、と別れた。 ちょっとぼんやりしていた、最近健吾とうまくないし、気が滅入ることばかりだ、何とかしなければと考えながら買い物を済ませて帰った。 須貝源二50才。妻の広子は43歳。須貝は大学の建築科を出たが祖父の代からの家業である不動産会社を継ぎ、10年前に建設部門を開設した。 典子さん、元気がなかったみたい・・。 坂上さんとは話せるでしょう。 うん、あんなミスをするのは・・。 須貝不動産の建築部門のトップを任されている坂上健吾は顧客の要望を取り違えた。すぐ作り直した計画で納得してもらい仕事は順調に進みだしたところだった。取り違えた内容が日ごろの坂上らしくないと須貝は思っていた。 〈社長と飲む〉 近くに事務所がよく使う飲み屋があり、奥に小あがりあって便利なところである。暖簾をくぐりいつものようにそのまま奥に進んだ。女将が顔を見せて、お帰りなさいませ・・と席を整え、いい季節になりましたと挨拶する。 ビールがうまい季節になったな・・女将。 社長が女将の方を見ると・・いいカツオが入っていますという。うん、それだ・・と頼んで、さっそく健吾に向かって話し始めた。健吾は客の依頼したものと少し違う設計をしていた。設計図が出来て説明に行った時に問題が見つかった。社長から声をかけられたのは、そのことだと思っていた。 君らしくないミスだったな。 いいのだ。ただ、ミスが君らしくないな。家で何かあったのか。 妻と少し・・・。 料理が運ばれてきた。まあ飲め・・そう言って健吾に注いだ。カツオはやはり初夏の味だなと言う。健吾もビールを飲んでカツオに箸をつけた。この店独特のタレがおいしいと思う。 俺たちに手助けできることはないか。 はあ・・、実は妻が子供も手がかからなくなったから働きたいと・・・。 子供が生まれてしばらくして、この町に引っ越してきたのです。前のところでは息子の体調がすぐれなかったので。 病弱の息子を持っての勤務ではトラブルが多く、職場でいろいろあって退職してしまったのですよ。でも息子も元気になって、それにこちらには妻の両親も住んでいて手助けが頼めるからこちらで復帰したいというのです。 会社に関係のあることか? 最近事務所の仕事も立て込んだものが多く、話は少し待ってくれと先延ばしにして・・・。話をする時間が取れなかったのですよ。 弱ったなぁ・・・。 お客さんに応えようとすると・・・・。 はぁ、何とか挽回しようと事務所に遅くまで居る日が続きましたが、その時私が浮気をしているのではないかと妻が口を滑らせたことがあって、それで喧嘩になったのです。自分の落ち度だとは分かっていましたが、イライラしてつい怒鳴りつけてしまったのです。 その時の行き違いで、妻とはもうレスの状態です。 そのあとは取り留めもないはない話をして終わった。カツオはうまかったが社長とはどこか食い違った話になったと思っていた。健吾が家に帰ると典子が食事の支度をして待っていた。ごめん、社長とちょっと飲みながら話をしていたのだというと、メール位はしてねという。まずかったと思いながら風呂に入り寝た。アルコールが入っていたので何とか眠ったが、これではいかんなという思いが続く。 〈おどろいた話〉 社長、いやですよ。 社長はそういって話題を変えた。しかし健吾は困った。飲みながらの話はうわの空だった。やっとのことで健吾は典子にメールを入れ、遅くはならないが食事はいらないと伝えた。社長の話を典子に話すべきかどうかも判断できなかった。 それはスワップの話だった。社長が典子と、健吾が社長の妻の広子さんと数日過ごす提案だった。奥さんは健吾より六つ上で、事務所の仕事はきちんとこなすし、全体を見渡しながら仕事の指示も出来る。健吾とは何を話しても意見が合う。頭の回転が速い人だなと前から健吾は感心していた。 そんな話にかかわる雰囲気を持たない人だった。そんな人と何が出来るか想像もできない。突然でびっくりする話だろうが広子と話し合ったことだ、考えておいてくれといってそれ以上は言わなかった。 帰ると典子はパジャマ姿で台所の片づけをしていた。表情を変えずにお帰りという。ただいまといいながら言い訳がましいと思ったが、社長との話し合いだからというと、ええ・・メールもらったから・・という。流しに向いたまま手を休め何か考えているみたいな雰囲気だった。 雰囲気がさびしそうで、そんな姿が前から気になっていた。その原因が夫婦生活の途切れに起因することは分かっている。典子が謝ったあの時、俺が黙ってしまったのがこんなにこじらせるもとになったのかもしれない。そんなことが心に浮かんだ。 遅くなってすまんなというと、ううんといって体の向きを変えて健吾を見た。視線がいつもと違っていてドキリとした。風呂に入ると言って健吾は眼を逸らせた。 風呂から上がって寝室に行くと典子は敷布団の上に座っていた。ごめんな、というと、またううんといって健吾を見つめ、何か決心したように、健吾・・・という。何か言ってくれたら展開もあると思いながら、視線を合わせた。 健吾・・とまたいった。典子の眼はまっすぐ健吾を見つめていた。いままで妻とこんな形で見つめ合ったことはなかった。目がうるんだような感じで戸惑った。急にいとおしい感じがして近づいて抱きしめたら、典子はそのまま抱かれた。キスすると受けた。典子も抱き付いてきた。抱き合ってキスを続け、左手で典子のパジャマのボタンをはずそうとすると、ちょっとと言ってはにかんだような顔をして自分からはずした。 久しぶりに見る妻の乳房だった。自分の妻でありながら一瞬ドキリとした。こんな形だった・・。気後れを感じがしたが思い切って押し倒し、乳首を口に含むと健吾の頭を抱えてハァと声を出した。しばらくそんな風に抱き合ってからパジャマの上を取り、ズボンを脱がそうとすると腰を浮かした。ショーツも一緒に脱がして健吾も裸になった。 何を話しかけてよいか迷いながら抱き合ってキスした。典子も何も言わず健吾に抱き付いている。挿入する姿勢を取ると、腰を動かして受け入れる形をとった。入っていくとき典子は小さな声を出した。久し振りの妻の体だった。典子が小さな声で健吾・・・といい、それからごめんねと言った。いや・・俺こそといいしばらく抽送に没頭した。典子の息が少し荒く額がじっと湿り気を帯び、小さく喘いでいた。 頑張っていると今日は安全日だから中にしてもいいという。挿入しようとした時何も言わなかったのでそうだろうと健吾は思っていた。やがて典子が登って行った感じがしたので健吾は気を遣った。典子はしがみついてきた。 息がおさまってきたときに、健吾がなんだか下手くそだったというと、典子はううんと言う。抱いてキスすると舌を絡めてきた。しばらくそうしてキスし合った。典子がまたごめんなさいねという。いや・・俺の方こそと同じ言葉を繰り返したら抱き付いてきて健吾の顎の下に頭をつけてうれしいと言う。 だまってしばらくそうやって抱き合っていたが、ちょっとと言って起き上がり浴室の方にいき、しばらくしてパジャマを着て現れ、また健吾に抱き付いていた。突然だったが妻と抱き合えたことはいいことだと思った。それは普通の夫婦のすることだし、これまでのレス状態がこれを機会に終わればいいと思った。 自分の布団に移って典子を見ると何かいいたそうな眼をして健吾を見ていた。なんだと聞いたら、ううんと目をつぶった。典子は俺といま抱き合って何を思ったのだろう。台所での眼は何をいいたかったのだろうか。離婚を考えていたなら俺に抱かれるはずはない・・・。仲直りしようとでも俺にいうつもりだったのだろう、俺もそうしたいと思っていた。俺の方が言い出すべきだったのだろう・・しかし何も話らしい話をしないままに抱き合ってしまった。 朝目を覚ますと典子は明るい顔だった。ご飯できているよ、と言う。顔を洗って食卓に着き、息子の健一も一緒に食べて、健吾は事務所に出た。そのあと典子は息子を幼稚園に送りだすことになっている。 事務所では相変わらず忙しい時間を過ごして、7時過ぎに退社した。その日広子さんは営業の仕事で事務所に現れなかった。でも明日は顔を合わすだろう。どんな顔をしていればよいかと思う。 帰宅して典子と一緒の夕食をとり、風呂に入り、寝室に行く。典子が横になっている蒲団に移るとびっくりしたようだった。二日続けて抱くのは何年振りかと思う。典子は何もいわずに健吾に抱き付いた。 典子は昨夜よりはっきり反応を示し、気持ちよさそうにしていたので健吾は自分のものに元気さを感じた。言葉が見つからないので黙って行為に集中した。前日より時間をかけて典子と交わった。典子も気持ちよさそうに腰を動かして健吾の動きに合わせていた。たかまって来たのでイキそうだというと強く抱きつき、ラストの抽送から気を遣るまで典子は健吾に両脚で絡みついて喘いでいた。最後はあっと小さな声を出して健吾の胸に顔をうずめて震えた。 気分がおさまってきたときに、以前に戻ってきたみたいねと典子はいう。抱きあってキスをしているとまた健吾のものが復活してきた。それを腹のあたりに感じた典子が元気ねと笑う。久しぶりに典子の笑い顔を見た気がした。 この時健吾は社長の話が浮かんだが伝えることはしなかった。二日続けて典子を抱いたのは社長の話が影響しているのだろう。話が現実になった時は典子が社長に抱かれると思うと妙な気分になった。まだ抱かれたわけではないが、もしそうなったらどんな気持ちになるのだろうと思う。 〈社長の昔の話〉 君が会社に来てくれた頃のことだったが、広子がしばらく家を空けたことがあったろう。 夫婦仲がうまくなくて妻が実家に帰っていた。恥ずかしいから親が調子を崩して手伝いに行ったという話にしていた・・・。 妻が帰ってきたのは俺たちが不仲になったことを知った大学の先輩が動いたおかげだった。君にもいつか話したあの人・・・成瀬さんだ。東京の建築会社に勤めていて、大学山岳部の先輩だ。その当時彼はしばらく外国出張があって・・帰国しても俺でさえあまり会っていなかったのだ。 広子のことは誤魔化してそれから時々外で飲んだ。しかしすぐ別々にいることがばれた。それはいかんと先輩の説教を受けた。 妻が実家に帰った時、広子の父親が来て話をしたことがあった。事情を話して、時間が少しほしいと頼んでいたのだ。先輩の話でこれが潮時だと思い、広子と話をして、両親にご迷惑をかけたと謝り、戻ってもらった。それで夫婦仲が円満というまでにはいかなかった・・・。 暫くして、先輩から俺たちの夫婦仲を聞かれた。ぼちぼちですというと具体的にどうだというので話した。話を聞いていた先輩が夫婦交換してみるかという。 それはびっくりしたよ。最初は何を言っているのかわからないから拒否した。君と同じだったよ。だが何回か話をして結局受けた。いきさつの詳しい話をしてもいいが、その後は君の見ての通り、夫婦仲はよい。 でも、その結果だと・・・いえるのですか? 社長はうちの典子を抱きたいだけでそういうのではありませんか? 広子だっていろいろ考えてのことだが・・・。 俺の経験だが、それまでは広子との日常はごく平凡なものだった。夜の生活も。しかしそれからは変わった。妻が先輩と寝たことで、妻と疎遠になったのではなく女として自立したような気がした。広子も自分は変わったと言う。そんな妻の変化が新鮮だった。君たちにも変化が必要な感じがしていると広子がそういう。 奥さんがそういうのですか。 一般論だが坂上は典子さん以外の女性に興味はあるか。 いや、基本は同じだと思う。先輩の話を持ちかけた時・・広子も初めはダメだと言った。 典子が同意すると思っているのですか・・・? 健吾は社長がまだよく分からない。自分の気持ちが動揺していることはわかっていた。広子さんが同意しているというのが原因だった。自分より齢は上だが、町で有名な美人だったといわれ、今でも変わらない魅力を持つ人だ。しかし普段の生活態度からはそうしたことに係る人だとは考えられなかった。仕事の話では気が合った。何をしてもてきぱきとこなす能力には尊敬もしていた。その広子さんと夜を過ごす・・・それは想像したこともないことだった。ちょっと沈黙が続いた。 えらく静かね・・とその時女将が顔を出した。二人が何も言わずに女将に顔を向けた。あら、私の顔を見て不景気な顔をしないでよと笑い、何か注文はあるのと聞く。いやお茶をもらおうかと社長が言うと・・きょうはあまり飲まないのねと引き下がり、お茶を持ってきた。 家に帰ったら典子はまだ待っていた。健吾は社長さんとビールを飲んだでしょう・・わたしも飲みたいと言う。じゃあちょっとお付き合いをしようかと言うとビールを出してきて健吾に注いだ。あとは自分でと典子は一人でビールを飲み、ああおいしい、ビールの季節になったわねという。典子はアルコールには強い。 食事をしながら社長の言ったことを考えていた。典子が社長と寝たら典子に変化が出るのだろうか。その例が広子さんだと社長はいう。確かに広子さんは自分の意見をきちんと持っており、仕事が出来る。スワップの経験から変わったという・・。信じられない・・・。 第一、典子は自分の意見を持ち過ぎるほど持っている・・。こんな話は通用しないだろうと思う。典子は結婚する前に付き合っていた男がいたとは聞いている。詳しい話は聞く必要はなかったのでそのままにしていたが社長のバリアーはそんなに高くないと言ったことが妙に引っ掛かった。 健吾・・・・・。 浮かぬ顔して。 〈典子の拒否〉 ねえ、この前ちょっと待ってくれなんて変な言い方だったけれど・・。 いいにくいのだが・・・。 そういわれて健吾は社長の話を伝えた。 何、それ・・・。 いやそうじゃない、俺らしくないミスだと社長も奇異に思って心配してくれたのだ。それで自分から話したのだ。 本当に俺たちのことを心配してくれているのだ・・。 うん、俺も初めはそう思った。だが・・・・。 迷いはある。でも・・・。 お互いがそのあとお互いの立場を考えるようになるのだって。 私はいやよ。 社長さんだって変よ。話を持ってくることがおかしいよ。今度会った時に、この前は断ってすみませんでしたと言うの? こんな挨拶・・いやよ。 典子は他の男と寝たいと思ったことはないのか? 疑うの? その日はもう話すことはなかった。しかし話を切り出すことが重荷だったが、切り出してしまったから肩が軽くなった。改めて考えたら自分がこの話に惹かれていることに気が付いた。こんなことは初めてだが・・広子さんが同意している・・と思うと心が揺れる。 〈典子の抵抗〉 この前話した通りよ、断ったと思っていたのに・・・? そう言う訳でしょう・・広子さんとしたいの・・? 普通男にはそんな気持ちもあるじゃないの。 そういう質問はいやよ。新婚じゃないから亭主以外の男にまったく興味なしというのはないよ。でも寝るというのはそれと別でしょう。 広子さんとなら。 まあ、一瞬だけだけどなあ・・・。 典子は不機嫌に起き上がり座った。 そう喧嘩腰になるなよ。 ・・・・・ごめん。喧嘩しちゃだめだね。 〈議論〉 興味だけなのね・・・? でも本当にダメか? ダメというより、初めから論理がないの。 それは最低の条件でしょう。 出来ない訳じゃないならなら考えてくれないか。 ・・・・・どうしても? 変にならなければ・・いいのだな。 もうむちゃくちゃだわ・・・。 真面目に言っているの? 〈妥協〉 起き上がっていないでこっちにおいでよ。 しないのか? 〈典子の迷走〉 事務所に出ると社長の奥さんがいた。お早うございます。ああ、健吾さん、おはようと微笑んだ。奥さんは普段と変わらずいつものように顧客からの書類に目を通して、仕事にかかった。一日中忙しかったがふと社長の話を思い出す時があった。仕事に没頭している奥さんの横顔が普段とは別の顔に見えた。この人とすることになるのかなあ・・と思う。 家に帰る典子がまだ浮かぬ顔をしている。お帰りなさいというが、明るい表情はない。黙って食事の用意をして、健一を風呂に入れて、三人で食事をした。世間話にはのってくるが、何か考えているような感じがずっと続いた。9時過ぎに健一を寝かしつけて、10時に寝室に移った。 結論は出たかと聞くと、首を振る。 ダメか? あなたが私に頼んだことでしょう・・。 拒否するにはその論理がいるし、受けるとしても論理と勇気がいる・・・勇気は論理じゃないからもっと難しいのよ。 典子は夫以外の人とセックスを拒否する論理が見つからない。しないのがいまの社会通念だとは言える。戦前までは姦通罪と言うのがあったが、姦通罪は親告制で夫が届け出なければ罪にはならなかったし、夫が認めていれば問題にもならなかった。当然現在は、婚外関係は個人の問題であり、法的に罪になることはないし、直ちに法的な問題が生じることはない。婚外関係が離婚に発展する時にはじめて婚姻解消という社会的問題が発生するだけである。 典子は以前健吾と喧嘩していた時の一人エッチを思い出していた。想像した相手は健吾ではなかった。だとしたら自分が健吾の申し出を拒んでいる理由の一角があやしくなる。実際に行動するかしないかだけが問題か・・。 日本人の婚姻制度を学んだことのある典子は性の考え方や行動が昔は現代より自由だったことを知っている。平安時代の歌垣、中世の雑魚寝、江戸時代の盆踊り・・・そうした機会での性の自由さは現在とは違った。 何を基準に自分は判断しているのだろう・・。拒否するとしても・・受け入れるとしても自分の判断の基準は何だろう。いままで考えたこともない問題だから戸惑っているだけじゃないのかとも思う。 拒否する意味は何だろう? 健吾を愛しているから? だが昔の夫婦間に愛情がなかったわけではない。それが可能だったのは何故? いまは世間にばれたら恥ずかしいから・・・ばれなければいいの? 人間はその時代の考えでしか考えられない。時代の考えから抜け出て自由に考えるなんて出来るわけがないと思う。法的に規制されてもおらず、時代によって変わる婚外関係をどう考える・・・。論理ではなくて勇気だけか・・? いやだなあ・・こんな問題。 〈話の展開〉 わたし、こんな話は考える必要もないと初めは思ったの。 健吾が、他の人としたい気持ちがあると言ったとき、いやねと拒否したけれどそのあと、それを論理的にどう説明するか考えて見たの・・。 健吾とうまくいかなかった時に、自分の気持ちが揺らいだことを思いだして・・。 自由の方がいいよ・・。 この前、拒否ではないと言ったのはそういう意味か・・? 典子はいままで物事をはっきりさせてきた方じゃないか・・? むかしは普通のことだったと前に典子から聞いた記憶がある・・・・ 日本中で・・いろいろの形があったの。村の祭りなどのように特別な日があり、その日は夫婦が別々に相手を選ぶとか・・半ば公然な行事だった。非常にまれだけれどそれが昭和の初めごろまで残っていた地域もあるの・・。いつも厳しい生活をしているから、村で決めた仕事休みの日もあったけれど、その中にもっと非日常的な娯楽・・・が必要だったのかもしれないわ。 盆踊りはそうしたことが行われたのよ。若い未婚の男女の場合が多いけれど、既婚の人たちも加わったの。そのほかお寺には雑魚寝堂とかいうのがあって、そこで多数の男女が一緒に寝るの。日本では性は神聖なものと考えられていたから、宗教的色彩もあったのよ。盆踊りはその起源をたどれば一種の宗教的な行事でしょう。 子供が出来た時・・どうしたのだろう・・? それに狭い範囲で婚姻関係を結んでいるといわゆる血が濃くなるから、子種を他所から移入する意味で推奨された場合もあるの。旅人が村に来たときなどその人はマレビトと呼ばれて歓待され、宿泊した家の女が夜伽をしたの。この習慣は日本だけでなく大陸などにあったことがはっきりしているから大陸文化の日本伝播とも絡めて古い時代の名残だと考えられているの。 江戸時代、婚外関係でトラブルももちろんあった。でも庶民の場合はお金やお酒で解決したの。厳しいと言われた武士階級でも姦通で死罪になったのは例外的なことだったのよ。武士社会でも客人があったら妻に夜伽をさせたのは珍しくないわ。夫が許可すれば問題がなかったの。客人だけでなく出世が絡めば上司などにも妻を与えた・・。なんだか妻が出世の道具に使われているからいやな感じはするけど・・。 外国人が書き残したものには、江戸時代に日本では一般の家庭婦人が数日家を空けることがあると当時オランダから来た宣教師が驚いて書いている。それは当然セックスが絡んでいるから驚いているのよ。朝鮮通信使として来日した朝鮮国の書記官が日本の性の自由さを記録しているものもあるの。近世の日本はヨーロッパから見ても、お隣の国から見てもその点ではずいぶん違う国だったの。だけど、日本の近代の始まりといわれる明治になって変わったわ。 どうして・・・。 日本の近代化に関係があるのか・・? 欧米だって同じようなものだったじゃないか・・? 十日物語だとかカンタベリー物語など面白い本があるじゃないか・・。 結局その時代の大きな流れがあるから、性の倫理については善悪を言っても仕方がないのかもしれない。 典子は迷っていた。健吾に言われて反発したのは今の社会通念に従っただけではないか。その通念はどれほどものだろう・・。非日常の世界を経験したい気持は誰にでもある。自分だってあると思う。 須貝さんとなら可能かもしれない。そうすれば健吾の気持ちにも添える。以前から素敵な人だと感じていた。むかしの社会の話を考えた時に、典子は須貝のことを意識している自分を感じていた。ただ話が突然で考えがまとまらなかった・・・婚外関係を認めるとは言えなかった。 だが二組の夫婦の間だけなら可能かもれない・・。そんな考えが浮かんできた時に典子は自分が流されていると感じていた。いまはその流れに乗っていると自覚していた。 だめではないだろう・・? 念を押されても拒否しなかった。とうとう受け入れてしまった。今晩はそんな方向になる予感はあった。昔の社会のことを考えて自分を納得させていたのかもしれない。 典子が折れたのは健吾にとっては驚きだった。社長がいった言葉を思い出した。いまの女性は結婚する前に数人の男を経験しているのが普通だから、旦那以外の男に抱かれることはそんなにバリアーが高くはない・・その言葉を思い出していた。 典子は受け入れた自分に驚いていた。自分がそんな話は受け入れないと突っぱねても健吾は納得したはずだ。昔の話などを持ち出して受け入れを正当化してしまった。いいな・・と念を押した後、健吾はじっと私の顔を見ていたが、何を考えていたのだろう・・と思う。 〈社長の家へ〉 いやだなあ。 分かっているわ。でも社長さんに私が相手するのよ、広子さんにどんな顔していいのかわからない。 8月に入った。土曜日の12時ごろ二人は須貝の家を訪問した。暑さが本格的になっていたが、部屋の中は快適だった。外は暑いですね。型どおりの挨拶をすると社長がよくいらしてくださった、家内と私が準備したもので、たいしたことは出来ませんでしたが、ゆっくりしてくださいと言う。 典子は緊張した顔で持参したワインを広子に渡した。百貨店のソムリエに事情を話して選んでもらったメドックのマルゴーだった。広子はこんなものを頂いてと喜び、主人はこれに眼がないの、うれしいという。 ご覧のとおり国籍不明の料理になったけれど許してねと微笑んだ。奥さんの笑顔に救われた気がして、典子は意識しているのは自分だけかと思う。でも広子さんはどうして平気でいられるのだろう、一度経験しているからだろうか? 大皿に氷を敷いて簀子を置き、そこに鮭やマグロやハマチの刺身が並べられていた。ローストビーフは私が焼きました、おいしければいいですがという。ライ麦パンも焼かれたのですかと聞くと、昨日焼いておきました、ちょうどおいしくなっている時間だと思います。他にはチーズやソーセージ、いろいろの野菜料理もあり、国籍不明の料理とは上手な表現だと思った。これなら気楽だと典子はほっとした気分になった。 昼食が始まった。広子は典子が社長と並んで座るように指示し、自分は健吾と並んで向かい合う席にした。典子は広子と視線が合うのでちょっと緊張したが素直に指示に従った。車で来られたけれど代行運転を頼めばいいから典子さんもお飲みなさいよと広子がいう。でも帰りに健一をあずかってもらっているところに迎えに行かなければならないからと断った。広子は残念がったが、それ以上は勧めなかった。 典子は料理に心がこもっていると思った。社長さんも料理をするのですかと聞いてみた。結構いい腕をしているのと広子が言う。 話は社長の若いころからの山登りや釣りとあちこちに飛んだ。典子は社長夫妻と比べて自分たちが二人で行動することが少ないと思った。仲の良い夫婦でうらやましいと思う。あの話は全く出なかった。席の取り方が唯一昼食会を開いた内容に合致するものだった。典子は隣の社長の大きな体を感じてなんとなく落ち着きがなかった。 健吾も社長もよく飲んでいた。長が気配りの出来る人だと見て、この人と過ごす夜はどんなだろうと思っている自分にハッとした。社長に勧められていろいろの料理を講釈付で食べ、健吾も最近多くなった古民家の改造などについて話をしていた。健吾と社長の話に熱が入った時は広子が典子に話しかけていた。 三時を回ったところでコーヒーを淹れ、しばらくして昼食会は終わった。社長と健吾が話し、来週の金曜日の夕方から日曜の夕方まで典子は須貝と過ごすことが決まった。そのことを家に帰ってから健吾は典子に告げると、緊張した顔で典子がうなずいた。 夜になって健吾が典子を抱こうとすると、出来ないと言う。次の金曜日の晩から私は社長さんとするのよ、もうどうしていいかわからない時に、どんな顔してあなたと出来るの・・という。金曜日までその態度が続いた。 〈須貝の家に〉 夫とは違う男の家で三日過ごすというのは何とも形容の出来ない気分だった。その期待というよりわけのわからない心のざわめきで脚が震える思いだった。三日分の着替えや下着類、小物、化粧品をバッグに詰めたあと、コンドームはどうしようかと思った。典子の計算ではいまは大丈夫な期間だったが、やっぱり持って行くべきだと思って引き出しを開けた。箱をバッグにしまうときは顔に血が上るのを感じた。 白のブラウスと紺のタイトスカートのシンプルな姿で、必要なものをキャリーバッグに詰めて健吾の車で6時ごろ家を出た。社長の家には30分ほどで着いた。車の中で典子は健吾に何もしゃべらなかった。健吾も緊張したのか何も話さなかった。玄関でブザーを鳴らすと、準備の出来た広子が顔を見せてちょっと中に入りませんかという。 いや、ここでと健吾が言うと、社長も顔を見せて、じゃあよろしくと挨拶した。健吾は典子を残し、広子を乗せて車を出した。別れ際に広子は典子の顔を見て、ごゆっくりと微笑んでいた。典子は健吾と広子が一緒に出たことをどうこう思う余裕は全くなかった。そんなことよりこれから須貝と一緒だということで頭がいっぱいになっていた。 〈須貝と二人になって〉 先日は健吾と二人だったから特別な緊張はなかったが、今日は約束を実行するために来たのだから典子の気持ちは並みではなかった。須貝と過ごすことを健吾に押し切られたが、自分も同意したことだとの自覚はあった。 須貝が急須と湯呑を出し、新茶を冷凍保存していたからまだ新鮮でしょうという。立ててくれたお茶は新茶のすがすがしい香りが残っていた。楽にしてくださいといっても無理でしょう、実は私も緊張していますと微笑みながらいう。その言葉に救われた思いがして須貝を見ることが出来たが、須貝と眼が合ってまた心が揺れた。 広子が用意した夕食があります、いかがですか。 メロンはいかがですかと冷蔵庫から取り出し、切り分けられてラップが掛かっている一皿を典子に勧め、もう一皿を須貝は自分の前に置いた。 須貝は、この話で戸惑ったでしょう、でもあなたが同意されたと聞いてうれしかった、日曜日の午後まで出来るだけ楽しい時間になるようにしたいという。典子はほとんど答えられないままに須貝の話を聞き、メロンを何とか食べ終えた。ご馳走様でしたと典子はいったがやはり言葉が続かない。 須貝も何か言おうとしたが、典子の緊張を察した須貝が言い淀んだ。一瞬会話が途切れた。典子が下を向いた時に須貝が意外なことを言った。 典子さん・・私の膝に座ってくれませんか。 体の関係を結ぶことを前提に来ているから、それを断るのも変だと思ったが、素直に膝にあがるのも抵抗があった。何をするつもりだろうかと一瞬ためらって須貝を見た。 やっぱりいやですか・・とまたいわれた。いえ・・と返事をしたら、どうぞといわれた。典子は須貝の膝に横座りで乗った。座った典子の体に須貝は軽く手をまわした。須貝の顔は典子顔の近くにあり、圧迫感があった。 黙って抱かれ膝に乗っているのは妙な気分だった。典子はキスされるかと思っていたがなにもされなかった。須貝の顔がすぐ近くにあり、体をゆったり抱かれているとはいえ密着しているから圧倒される。そのままじっと抱かれていたが、何もしないでただ膝の上にいることに居心地の悪さを感じる。どうしてよいかわからない。やっと言葉が出た。 私たち変な姿ですね・・・。 でも・・なんだか気詰まりな。 須貝は笑いながら典子を抱いていた。典子も黙って抱かれていたがなんとなく自分たちにしていることがおかしく思えて緊張が解けてきていた。そんな雰囲気を感じたのか、須貝はしばらくして、じゃ二階の居間の方に行きましょうと典子を膝からおろした。典子は須貝に従って二階に上がった。階段を上がった突き当りがオープンの居間になっており、窓から遠くの景色が一望できる。家は起伏のある土地の高台にあり、居間は東西に広い窓があり、大きな欅の枝が窓の上にかぶさるように繁っている。 窓際に近づけば遠くに山とが見える。しばらく二人は霞がかかったようにぼんやりと見える街を見ていた。あなたたちの家はこの方角とは逆ですねと須貝はいう。見えているのは以前住んでいた茅ヶ崎の方角だった。 〈前奏〉 月並みな言葉しか出ないのですが・・夢のようです。 典子は自分が置かれている位置を改めて思った。日曜の夕方までこの人と過ごすのだ・・・健吾に未知の世界だといったその入り口に来たと思う。 須貝は息子の健一の体調は良くなったか、幼稚園で何をしているのかなど、答えやすい話題を選んで話が途切れないように会話を選んでくれた。少しずつ気分がほぐれてきた。 小学校の話に話題が移った時に、最近の子供たちの名前はほとんど読めないと言い、名前はシンプルなほうがよい、健一君なんて誰も間違わないからいという。典子さんは名前で得したことや損したことはないか、と聞く。 典子は小学校で名前に子のつく生徒はほとんどいなかったのでうらやましがられたと話した。須貝も私たちの年代では女の子はたいてい名前には「子」が付いていた、ちょっとしゃれた名前も増えていたが、いまは文字に意味が置かれず音が大事にされるから、漢字からは何の意味か分からない名前もあれば、逆に意味がわかるがそれをどう読んだらいいのか、わからないという。話しやすい話題を選んでくれていると感じていた。 典子は須貝が自分を膝に乗せたのも、答えやすい話題を選んで話してくれるのも自分の緊張を解くための心遣いだとも気が付いていた。膝に乗せられたことを思い出すとおかしくなりつい笑った。 何かおかしいこと言いましたか。 ほっとする笑いだった。魚釣りの話を少し、料理の話をしながら、紅茶をまた淹れて話を続けた。須貝は典子が学校に戻りたい希望があるようだが、ぜひそうしたらよいと言う。ぜひそうしたいなどと話しながら時間が過ぎて行った。 太陽が西に傾くころはよく笑う典子になっていた。須貝は典子の肩に手をまわし、典子は時々頭を須貝の肩にもたれかかることが出来る姿勢だった。須貝が冗談をいうと、体を須貝にぶっつけるようにして笑った。それは須貝に馴染もうとする典子なりの努力だった。緊張は徐々にとけていった。 須貝は典子の右の手を握って膝に置いた。典子はその手を預けたままにして話した。健吾に社長さんはタイプの人だと初めていった時、それは体の関係を持つことを考えていったわけではない。しかし今はそれを前提にここにいる。期待と不安が交錯する状態が続いていた。 長椅子に座って話をすると視線は合わさなくてもよかった。しかし打ち解けてくると話の途中で顔を向け合い視線が合う。見つめれば次の展開になることがわかっていた。その意識があったから、眼を合わせないで話した。しかし典子が笑いながら須貝の方を向いたとき須貝の顔が近くにあった。一瞬典子は眼を閉じた。 須貝の左腕に力が入り、典子は抱きよせられた。心臓がバクバクするような瞬間だった。ああ、いよいよだと思いながら唇を合わせた。結婚してから健吾以外の男とキスするのは初めてだった。頭がくらくらする感じだった。 唇を触れ合わせていると舌が割ってきた。典子は両手を須貝の胸に置いていたがやがて背中に回して須貝に抱き付いた。タイトスカートがずり上がって白い太腿が出たが、もういいと思った。階段を一つ上がった。 〈ベッドまで〉 窓の外には夕闇が迫り、街の明かりが大きくなり始めた。須貝は典子の頭を胸に抱きしめていた。いよいよベッドに行く時が来たと典子は思った。 私たち夕食がまだですが、と言う。予想していない言葉でびっくりした。確かに夕食はまだだった。顔を上げると須貝と視線が合った。今なら食べられるかな・・・と思う。須貝が階下にいきましょうと手を引いて立ち上がった。 一階に下りて須貝は冷蔵庫から野菜サラダ、茹でたアスパラの生ハム巻を出し、白身の魚のチーズグラタンはこれから焼きますとオーブンに入れた。広子はごく軽めのものがいいだろうと、こんなものを準備していたのですが・・・と言う。食べやすいものを作ったのは典子の気持ちを考えてくれていたのだと思う。グラタンが出来るまで、ワインでも飲みましょうかと出してきた。 グラスを典子の前へ押した。いえ結構ですと断ったが、須貝は、少しはいいでしょうと注いできた。典子はアルコールに弱くはない。少し頂きますと飲む。 おいしいというと、いける口ですねと須貝が笑う。酒飲みみたいでと笑うと、流れに任せましょうといい、須貝は相模湾で釣れる魚の話をはじめた。沖に出ればカツオやシイラなどの大物が釣れますが、スズキは夏には岸寄りしてきますから近場で釣ることが出来ます。グラタンはそのスズキを使いましたという。 やがてグラタンが焼けてきた。モッツアレラチーズを使ったものだった。 典子は緊張が解けてきた。ワインも須貝の仕掛けだろうと思いながらもホッとした気分で飲んだ。アスパラの生ハム巻を食べ、グラタンも上品な味に仕上がっていた。 おいしい・・・。 それくらいの話しか出来なかったが・・緊張は解けてきたと思った。 8時をまわり、夏の長い日も暮れた。典子は、十分頂きました、ご馳走様でした、私、片付けますと立ち上がった。片づければベッド行くことになると思いながらテーブルの上のものを流しに運んだ。須貝も流しに立ち、二人で簡単に洗い、洗浄乾燥器に入れた。 終わった・・と須貝を見ると眼が合った。すぐに目を伏せたが、須貝が近づいて流しの前で典子を抱きしめた。典子が須貝の胸に顔をうずめると、須貝はまた典子の頭に手を添えて抱いた。典子はまた眩暈に襲われて崩れそうになった。縋り付くように須貝に抱き付いて平衡を保った。 シャワーを浴びますかと須貝がいう。ええと素直に言葉が出た。浴室に案内された。須貝の顔を見たら、どうぞ・・という顔をしていた。二人なら恥ずかしいと思っていたのでほっとした。ドアを開けるとそこは洗濯機などが置かれた前室でその向こうにバスがあるらしい。部屋には鏡があった。鏡の中の自分が緊張しているのが見えた。もう一人の自分がいるようで奇妙な気がした。 ブラウスを取ってブラジャーをはずす時、こんなことしていいのと問いかけるもう一人の自分がいたが、振り切った。スカートを脱いでショーツを取り裸になってもう一度鏡を見ると困った顔をした自分がいた。一つドアを開けて浴室に入った。シャワーのところにも鏡があり全身が映っていた。この体は1週間以上セックスをしていない体だと思った時にまた眩暈を感じた。 須貝さんのためにしなかった訳ではないと思う。経験したことのない世界に向かうと心が騒ぐが、健吾と合意の上だと押し切った。シャワーを全身にかけて、大きく息をして、気を取り直して入念に体を洗った。 バスタオルを使い、鏡を見るとさっきの困った顔をした女がいたので、もう消えてと心の中で叫んだ。持ってきたかわいいショーツを、どうしようかと思ったが付けた。今から須貝とベッドを共にすることになる・・・どうしてこうなったのと問いかける自分と、いままで経験をしていない世界に行きたいと思う自分がせめぎ合っている。困った顔の女がなかなか消えてくれない。心臓の鼓動が強く、顔に血が上っていることが自分でも感じられた。 パジャマを着て、どこへ行こうか、またダイニングキチンではおかしいと迷っていると、扉が開き案内しますという。浴室を出て階段を登ると先ほどの居間の隣が寝室だった。窓は西向きでここの窓の外にも大きな欅の木があり、枝が幾重にも茂り西日を防ぐ仕掛けになっている。大きいベッドが一台、シングルが一台あった。須貝は私もシャワーを浴びて来ると降りて行った。 改めて室内を見ると、上手にベッドメイクがされており、脇机にはオレンジ色のバラの花が飾られていた。10分ほどして須貝もパジャマ姿であがってきた。 社長さんはこちらにと言って私の手を取って大きなベッドの縁に座らせ、これから日曜日の午後までよろしくお願いしますというので、こちらこそよろしくというしかないと思い、そう言ったけれど、よろしくなんて変だとあわてたわ。 〈第一夜〉 須貝さんはベッドの中央に胡坐を組んで座り、私は正座して向かいあったの。まともに眼を合わすことなんかできないから、下を向いていたら、また膝の上に乗ってくれませんかと言う。須貝さんを見たら笑っていた。ドキドキしながら体を移動し膝に乗ると抱きしめられた。 心臓の鼓動が自分に聞こえるほどだった。窓のカーテンは引かれておらず、ベッドには天井からの弱い光が拡がっていた。須貝さんの家は高台にあり部屋は外から見える心配はない。それは明るいうちに分かっていた。小田原にはこんな地形のところが結構多い。 須貝は典子を抱きしめたまま何もしない。典子の頭に顔をつけて典子の匂いを嗅いでいるような時間が過ぎていった。典子はどうしていいのかわからずじっと抱かれているだけだった。須貝の胸に顔を近づけてじっとしているのが何ともやりきれないような気持ちにだんだんなって来た。何を考えているのだろうと顔を須貝の方に向けると須貝は典子を見つめていた。あわてて眼を閉じると須貝の顔が近づいてくるのが分かった。 頬に手が添えられて、ゆっくり顔を上向きにされた。眼をつぶると唇を重ねてきた。そのまま受けるとやがて須貝は舌で唇を割るように動かしてきたので力を抜くと入ってきた。須貝さんの右手がパジャマの下から入ってきてオッパお上に置かれた。 乳首からジンとする感覚が走り、体が緊張したわ。須貝さんは乳房の上を撫でて、そこに手を置いて長いことゆっくり撫でていたの。乳首はやはり敏感で触られるとジンとした感覚が走った。脇腹を撫でた手を背中に回し隈なく撫でてくれたの。それから私の腰を抱えてベッドに横にして、夢のようだとまたいったの。すこしだけ眼を開けたけれど、あまりに近い距離だったのであわてて眼を閉じたわ。 パジャマの前が開けられたのはしばらくしてから。オッパイが出て、乳首を軽く噛まれた時は始まったと思った。ゆっくりだったけど須貝さんの手の動く範囲は上半身からだんだん体全体に拡がって行った。 パジャマの袖から腕を抜いて上半身が裸になった時、ちらと健吾も広子さんとこんなことしているのかなと思ったけれど、嫉妬するとかそんな気持ちは起きなかった。そんな余裕はなかったの。 パジャマのズボンが脱がされる時は取りやすいように腰を上げた。ショーツは一緒に取らなかった。須貝さんが先に全部脱いだの。 二人は裸になって抱き合った。須貝は急いだ様子はなく典子を横抱きしめたまましばらく静かにしていた。典子が須貝の顔を見ると微笑んでいた。つられて典子も笑った。笑った典子の頭を須貝は胸に抱いた。典子は須貝の背中に腕をまわして抱き付いた。須貝の胸からは健吾とは違う匂いがして典子はあらためていま夫とは違う男に抱かれていると感じた。須貝は典子を抱いたまま、無理をいってすまなかったが、今の時間は私にはものすごく幸せな時だと言った。 典子が顔をあげて須貝を見ると須貝がキスしてきた。眼をつむって須貝の唇を受けた。舌が割って来たので絡めた。しばらくキスが続いた。ようやくそこから須貝の動きが変った。体をずり下げて唇を乳房に移し、丘の周囲をなめてそれから乳首を吸った。典子ははぁ・・小さな声がでた。だんだん須貝の行動が拡がり、キスの範囲が拡がり、脇腹や首筋に及んで行った。 それから体じゅうにキスされてハアハアする状態がずっと続いたの。そのうち切ない気分になったわ。ため息をついた時に須貝さんは私のショーツをお尻の方からくるりとはずして、足首の方にずらせたので、私が足を交互に動かしてはずしたわ。 二人は完全に裸にってキスし合い、須貝さんのものは私のお腹のところに当たっていて、これが私の中に入ってくるのだと思ったけれど、それをどうしたらよいのか分からなかった。須貝さんが私の全身に唇を這わせるようなキスをし始めたので私はもう任せたわ。 ずいぶん長い間そんなことをされたの。健吾とはこんなに長い時間したことはなかったと思っていた。そのうちキスされるのに慣れてきた。お互いがキスし合っている時は時々わたしの顔を覗き込んで、私の体がきれいだと度々言ってくれるの。ほめられると私でもいいのかなと少し安心するような気分になったわ。私の乳首が立って固くなり、あそこはもう濡れていると感じていたの。窓のカーテンがないのは少し気になったけれど外からは見えないし、もう外は真っ暗だからあまり気にならなかったわ。 眼でいいですかと聞いているみたいに目を覗きこまれたので、頷いたら、ちょっとと言って私から離れて脇机の引き出しからコンドームを取り出し着装したの。 私の両脚を手で開かせて体を乗せて来た。入れやすいように私は少しだけ腰の位置を変えた。十分濡れていたから楽だった。ぐっと入ってきた。 セックスをするつもりで来たのだから、そのことにあわてる気持ちはなかったわ。でも気持ちがいいとかそんな感覚ではなく、股間に大きなものが入ってきた感じ。挿入したあと、須貝さんはそんなに動かないで、奥まで差し込んで私の様子を見ているようだった。私はどうしたらいいかわからないからじっとしていたわ。健吾とだったらやり方はわかるけど、ただドキドキしているだけだった。 キスされたり、身体を触られたりしている間は気持ちがよかったのに、ペニスが入ってくると気持ちが全然違ったものになった。やっと一つになった安心感ではなく、逆にこれからどうしたらいいのかわからない感じだった。いまから思うとものすごく気持ちがうわずっていたと思う。 あちこちにキスしながら私の腋下にも唇を這わせてきた。はじめはいやっという感じだったけど、舐められる感覚は凄かった。腋の下に須貝さんの舌がうごめくの。膣と連動しているみたいですごく感じたわ。 腋の下から首筋にかけて丹念に続けられて・・たまらない状態になったの。もう一つは乳首をゆるくだけれど深く吸われた。それが続けられるとやっぱりどうしようもない気持ちになったわ。 そうしているとやがて股間ははじめの感覚とは違ってきて、痺れるような感じも生まれてきた。でもグングン登って行くことはなかった。どこか一定のところで止まっていた。 須貝さんは私の腰を抱えて突いてくる時もあったの。指がアヌスに当たるように置かれた時はびくっとした。意識的にそんなことをしているのかどうかわからないけれど、アヌスを指で刺激されながら抱かれたのは初めてだった。その時はペニスがお腹の中に抜けるように感じた。角度を変えたりしながら、私の感じるところを探しているなと、あとで思えばそんなことをしていたかもしれない。ある角度で入ってくると感じる部分があったの。その時はウッと声が出て須貝さんに抱き付いた。汗が噴き出してきたわ。 抱き合ってあまり動かずキスに集中することもあったの。そしてまた動き出す。そんなことの繰り返し。姿勢は正常位というの・・・須貝さんが上になって私の両脚を割って挿入していて、その姿勢は変わらなかった。私もそのほうがよかった。ワンワンスタイルなんか健吾としたことがあったけれど、私は抱き合う形が好きなの。 やがてとても気持ちがよくなってぼうーっとするような感じになって須貝さんに強く抱き付く時もあった。でもエクスタシーというようなものではなく、とてもいい気持くらいのレベルだったの。何故それ以上登っていけなかったのかわからないけれど、そんなことになったら健吾に悪いというような気持ちがどこかに作用していたのかも知れない。 そんな調子で時間が過ぎ、私の状態がそれ以上に変化しないからだと思うけれど、私の顔を覗き込んで疲れましたかと聞くの。そんなに疲れはないと言うと、健吾君のことが気になりますかと聞かれた。なんだか言い当てられているような気がしたけれど、そんなことはないと答えたわ。 何か考えている風だったけど、私の体を離してベッドを降りて、寝室に備え付の小さな冷蔵庫からミネラルウオーターの瓶とコップ2つをもってきて、注いでくれた。 喉が渇いていたので一気に飲み干したわ。冷房をしていたけど二人ともかなり汗をかいていた。起き上がっていた私の体をタオルでぬぐってくれたので私もそのタオルで須貝さんの汗を拭いてやったの。冷房を少し効かせましょうかというけれど、私はこれでいいといったの。 それからは私を抱いてキスしながら体を撫でてくれた。ごめんなさいねと言うと私が謝っている理由が分かっているので、いやいやこんな素敵な夜はないというの。ゆっくり体を撫でてくれて、時々キスし合うこともしていた。もう一度したいと須貝さんが求めたら当然したと思うけど、それはなかったの。 もう11時を過ぎていたと思う。疲れて眠気がふっと湧いてきたときがあったわ。はじめは緊張した時間が続いたけれど、そのあと須貝さんに慣れてきて緊張が解けたからかもしれない。須貝さんがオッパイに手を置いてゆっくり触りながら眠いですかと聞かれたのを覚えている。やさしい人だなと思いながら私はいつの間にか眠ったの。 いまから考えると、健吾以外の人とベッドを共にしてよく寝られたものだと思うけれど、須貝さんのそれまでの態度が安心というか、信頼というかそんなものをわたしに与えていたと思う。一旦体を許してしまったからそんな気持ちになったのかもしれない。 〈目覚めの朝〉 裸で自分の胸に手を置いて寝ている姿に見とれていた。ボブカットヘアは乱れて一部は額に張り付いていた。タオルケットをめくると、眼前に形のいい白い乳房が現れた。盛り上がりがいい。弾力のあるこの乳房を自分の自由にしてこの人を貫いたと思うと、下半身に力がみなぎってきた。 頂上には押し上げられなかったが、のけぞって喘いだ姿が蘇る。夫と違う男に抱かれて昨夜は心が乱れたようだが、今日はどうだろうと考えていた。眼を覚ますまでにはすこし時間がある、この景色をしばらくは楽しむことが出来ると思う。ザ・フォーク・クルセダーズの歌が浮かんできたが、行かなくともここが天国だと思う。タオルケットを全部取り去た。 ウエストからヒップへの曲線、腹部は若々しい形を保って輝くようだった。太腿は丸く肉付き、中心の草叢が魅惑に満ちて心をそそった。完璧だと思った。その両太腿を割って抱きしめると白い肌が紅色に染まり、自分の動きに合わせて腰を動かそうとした姿は思い出しても心が騒ぐ。ここは天国としか言いようがない。 この人は性の高みを当然知っている。だが忘我の状態で乱れ狂う経験をしていない。その境地を二人で共有したいと思った。経験が浅い訳ではない。あと二日間で出来るだろう。いまは夫を意識して緊張しているが、そこから解放されたらきっと出来ると思った。そっと典子を抱きしめた。うん・・と小さな声を出して須貝に縋り付いたが、まだ眠っていた。 昨夜は突然のことで緊張していたのだろう・・・それにしても可愛い。眼が覚めれば応じてくれるだろうが、もう少し寝させてやろう。須貝はタオルケットを戻して典子の体を抱いた。典子は須貝の腕の中で少し動いて何か言ったようだがまだ目は覚めなかった。どうしてこんなことが可能になったのか・・坂上に話を持ちかけた時はまずダメだろうと思っていたが・・。 腕の中の典子がまたうん・・と小さく言って須貝の胸に顔をうずめる仕草をした。抱き寄せるとまたうん・・と小さくいって縋り付いた。たまらずに須貝は典子の額にキスすると眼を覚ました。 それから起きたことを典子は健吾に語り始めた。 健吾に抱かれている感じがして目が覚めたけれどすぐ健吾じゃないことに気づいてハッとしたわ。もちろん昨日からの状況をすぐ理解したけれど、心が落ち着くまでしばらくかかった。健吾と話し合っていたから不倫じゃないけど、須貝さんと寝たわけだから・・。 眼が醒めた?いま6時。よく寝られましたか。 ・・・いやだ。 自分はどんな顔をして寝ていたのだろう。いやだ・・と私は須貝さんの胸に顔を隠した。他に隠れようがない場所だった。須貝さんはわたしを胸に抱いて髪を撫でている。どうしたらいいか分からないが、いつまでも顔を隠している訳にもいかず、顔を上げたら目が合ったの。 私を見ていて笑っていたわ。私もつられてニッとしたけれどまたいやだ・・と顔を隠したの。その時は須貝さんに甘えるような気分だった。須貝さんは私を抱き直して背中を撫でていた。私は須貝さんの胸に顔を隠したままだった。 その時その前の日のこと・・自分がもたもたしてうまくいかなかったこと・・・ごめんなさいねと謝ったことを思い出した。私のために須貝さんも楽しくなかっただろう・・セックスを楽しむことを前提だとはっきり意識していたわけではないが、それ以外の目的はないから自分も態度を決めなければならないと思ったわ。 気持ちを切り変えようと、須貝さんを見たら優しそうな目で見ていた。私は気持ちを切り替えようと一生懸命になって見つめた。須貝さんは何も言わずに見私の眼を見ていた。見つめ合っているとくらくらするような気分になって来た。自分の心を誤魔化すように、私は須貝さんに抱きついて頸にキスしたわ。その時須貝さんのものは硬く大きく私の体に当たっていた。気が付かないふりをしてキスを続けたわ。心の中から健吾が消えて、須貝さんの領域に移行していく時だったと思う。 ここからはちょっと健吾には話しにくいのだけれど・・・。 キスした後またしばらく見つめ合っていた。この人と自分の意思でセックスすると思ったら少し緊張したわ。でもすると決めたのだから・・と思った。そしたら須貝さんがキスしてきた。そこから心が決まってきたように思う。 すると決めたから心がセックスのモードのなったのよ。私の気持ちがわかったのか、乳首を柔らかく深く吸うことを何度も繰り返していた。噛んで・・と私が言ったと思う。はじめは唇で噛むようにした後、やわらかく噛んでくれた。ふぁ・・と言うような変な声が出たわ。 それから顔で私の腕を万歳するように押し上げて腋下にキスした。前の日もそれをされたけれど、腋の下を舐められると何もかも、自分のすべてを相手に許したような感じだった。これを長いこと続けられたらぞくぞくしてきて体がうねる感じだった。 そこから唇が離れると変な声が出て、オッパイに唇がいくとふぁという声が出る。交互に両方のオッパイを舐めて、乳首を噛んでそれを吸い込み、舌をぐるりと回す動作を繰り返したわ。 その一つ一つが気持ちよく、だんだん燃えてきたの。続けてほしいと思うところでは私の反応を見ているのか、丹念に続けるの。冷房は緩めにかかっていただけだから、すぐ汗が出てきた。昨夜とは何かが変わっていたの。私の気持ちが一番変わっていたのかもしれない。 私も須貝さんの胸にキスしたり、肩に歯を当てて軽く噛んだり、頸を舐めたりしたわ。抱き付いてオッパイを須貝さんに押し付けてキスした。背中を抱かれてオッパイにキスされた時は頭が朦朧となるくらいだった。なんと素敵だろうと思う自分がいるのを感じていた。 私の変化を読みとって、須貝さんは体を起こしてコンドームを準備したの。着け終わって須貝さんがかぶさってきたので両脚を立てて開き迎えたわ。もうぬらぬら濡れていたから簡単に中に入ってきた。その感じは昨夜のようではなかった。期待したものが私の中に入ってくる感覚だった。自分から一つになりたいと思い、それが実現したからうれしかった。須貝さんが私の中に入ってきた・・・と思った。 時間をかけてゆっくりだったけれど須貝さんのものが猛々しく私の中を突いたり引いたりして動いていた。そのうちに股間から湧いてくる感じが熱くなってきたの。感じは波のように上がったり下がったりだったけれど、その感覚は徐々に高まる方向に向かっていた。前の晩は一定のところから感覚が上昇しなかったけれど・・・高まっていくのがわかっていた。このまま行けば到達できるとはっきり思えたわ。 やがて凄い快感が襲ってきたので腕を須貝さんの背中に回し手に力を入れて抱き付いたら、膣の奥にペニスを固定して押してきたの。私の頭を須貝さんの胸に押し付けたら体重をかけてきた。ポルチオに当たっていると感じたわ。ポルチオがぐりぐりされるとたらない感覚が体の中を抜けていくようだった。 須貝さんの体の重量感が気持ちよくて、強く抱き付いたら腰をくねらせて私を押し上げるようにするの。須貝さんが私の上になっているのに私が押し上げられる感じ。とうとうアァと声が出たの。お腹に抜けるように突かれた時が一番感じた。これは凄いと思ったわ。私が声を出すようになってからは一定のリズムで・・・私の気持ちを知っているようなリズムで、グングンと押し上げられていくの。私も夢中で応えていたと思う。 声が連続して出るようになって、その感覚が強まるように須貝さんは動いてくれた。痺れる感じが連続するようになって、このままだったらイケそうに思ったので、いけそうと伝えたわ。そうしたら動きが変ったの。 ペニスを奥にまで押しこんで、子宮の入り口を突いていると思った。そのやり方でパッと世界が開けるように状況が変わったの。確実に来ると思った。波が膨れるような感覚が襲ってきて、押し上げられて、フーッと空に舞ってはじけたの。 ああ・・いっちゃったという感じ。体の中心がぐっと緊張するのを何度か感じながらそれがおさまるまでボーッとなって須貝さんに抱きついていたわ。 大きな息をしたら、キスされて、うれしいよと言われた。私はなんていったらよいかわからないから、須貝さんの胸に頭をつけて喘いでいただけ。須貝さんは私の頭を抱きしめてじっとしていたわ。イクことだけを考えていたみたいに聞こえるけれど、私がいかなければ須貝さんは決していかないとわかっていたから・・とにかくイキたかったのよ。でも私が初めて到達した時に須貝さんはまだ射精していなかったわ。 だからさらに続くと思った。須貝さんにいってほしいので抱き付いたまま待っていると動き出したわ。もう感覚は十分に高められているのですぐに気持ちよい状態になった。 グングン押しこんでくる感覚がたまらなかった。そのまま続けているとさっきとは違った新しい感じが生まれてきた。すぐ頂上にいけると思ったけれど、須貝さんは何かセーブしているみたいだった。その状態のままアア、アアというような感じが続いた。でも前の日のようにそれ以上登れない感じではなくやっぱりどんどん上に行ったわ。高まった感覚は持続し、夢中になって須貝さんに抱きついていた。 須貝さんに合わせて腰を動かしていると体がまた沸騰しそうな感じになった。またイキそうよ・・というといっていいよといったわ。それを聞いて私は急に頂上に向かって体を動かしたくなった。 私が夢中で腰を動かそうとすると、それは押しとどめられた。私の体に乗り上げて、体重をかけて私を動かさないようにして押し込んだまま腰をうねらせたの。そうしたら固定された身体に抵抗するような感覚・・私の奥底から熱いものが噴出する感じが出てきたの。そのまま身を任せて頂上を突き抜けた。ガーッと体中が痺れた感じだった。 でもそこが終わりではなかったの。須貝さんは私の体を丸ごと抱え、怒張したものを私の中にねじりこむように動かしていた。私は須貝さんに強く抱き付いて口を開けてあぁ・・あぁというような声を出して抱き付いていたと思う。須貝さんのさらに強い動きが出てきてポルチオがぐりぐりされた時はあまりの感覚に怖くなって、もうダメ・・と言ったと思う。すると須貝さんは私の腰を押し上げるようにペニスを差しこんだまま動かずにウッと声を出していったみたいだった。 ドッドッと鳴る自分の心臓の音が聞こえていた。きつく抱き合っていたのでオッパイが須貝さんの胸と私の体の間にあって汗でグニュッと動くの。汗まみれだったけれど、私の体を離そうとしなかった。そのまま抱かれていた。体がしびれたままで何も言えない・・・言葉では表現できない感じ。こんなことは初めてだったわ。体が平常に戻るまでの間は空を漂うような気持ちが続いたの。私は目をつぶったまま口を開けていたと思う。その間時々ビクと体が震えていた。 暫くしてペニスを抜き、コンドームをはずしてチッシュに包んでまた私を抱いたわ。 情況をこんなに説明すると余裕があるみたいに聞こえるけれど、そんな余裕はなかった。どうしてよいか・・なにをしてよいか・・・わからなかった。けれど須貝さんも一緒にいったからほっとした気分があったことは確か・・。 お尻を大きな手で引き付けられてぴったりくっついていたので、しばらくすると須貝さんのものがまた硬くなってきたのがわかった。須貝さんと眼を合わせたら優しく微笑んでいるだけで、またする感じはなかったの。 それからは私を抱いてキスしたり体を撫でたりしてくれた。時々オッパイにも顔を寄せて私の乳首を探すように顔を動かし、乳首を吸ったり、噛んだりしていたわ。セックスで痺れた体はその感覚が鎮まっていく時、絶頂感が強いほど鎮まっていく感覚もいいと思った。そんな時にやさしく抱かれているのは何ともいえない気持ちだった。 〈もっと近づく〉 須貝さんが浴室を出たあと、あんまりの汗だったからお湯だけで髪を洗い、ドライヤーで乾かしながら鏡で自分の裸を見たわ。昨夜抱かれる前に見た時は眩暈を感じたけれど、抱かれたあとでは須貝さんに対する気持ちが変わっていたからなのか眩暈は起きなかった。 私は二回いい状態になったし、その二回目は連続した頂上が続いたから何回とは言えないけれど、その時須貝さんもいい気持になってくれたのでほっとした気持ちだった。私の気持ちが須貝さんに近づいたのはここからだろうと思ったの。でも、須貝さんとのセックスはそれからが凄かったの。健吾とのセックスで私はいままで満足していたけれど、違うレベルの悦びがあることをこのあとずっと経験するの。 俺とのセックスはつまらなかったと思った? 話を続けなよ。 パジャマとショーツを寝室に忘れたと思っていたら、浴室の扉が開き須貝さんがバスローブを棚に置いてあると言うの。白いタオル地のバスローブだった。広子さんが準備しておいてくれたのだと思ったわ。 裸にそれをつけて浴室から出たら、朝食にしょうと言うの。8時だったわ。2時間もしていたのかと思ったわ。健吾とだったらそんなに長くはなかったから・・・驚いた。 広子さんが焼いておいてくれたライ麦パンがあり、冷蔵庫を開けるとアスパラ、ベーコン、チーズ、レタス、トマト、卵などそろっていたので私が作りますと始めたわ。 他人の家の台所は調理用具や食器の置き場所が分からない・・簡単なものしかできないけどというと、いや恐縮ですと言っていた。流しの前に立ちながら、これって不倫の朝みたい・・健吾とは違う人のために食事を作る・・しかもバスローブの下は素っ裸だと思うと妙な気持ちだった。 ベーコンエッグにアスパラを軽く炒め、トマトと一緒に添えた。カリカリに焼いたベーコンを刻み、レタスとカイワレのちぎったものと混ぜ、ドレッシングをかけてサラダ風に仕上げた。パンはトーストして、ミルクは電子レンジで温めた。 須貝さんは私たちのことを聞いた。健吾や私の食べ物の好みとか、健一の健康状態とか、病気になっても実家が近いのは助かるでしょうなどと話をした。 私が作った朝食を済ませたら、須貝さんはコーヒーを淹れてくれた。これは夜明けのコーヒーみたいだねといって笑ったわ。須貝さんもそんなふうに感じでいるのかと思った。 〈昼までの時間〉 こんな空がある・・・・とても新鮮に感じると須貝さんがいうの。健吾とは毎日一緒に朝を迎えたけれど、開け放たれた部屋で、空を見ながら朝を迎えたことはないよね。 ・・・うちの家では無理だろう。お隣から見える。 話を続けるね。その時須貝さんがバスローブとってもいいかと聞くの。私の裸が見たいというのよ。ちょっと恥ずかしいと思ったけれど身体を起こして、バスローブを脱いだわ。須貝さんは横になったまま下から私を見ていたわ。手を伸ばしてきて私の乳房に触ったの。 多分窓からの逆光で私の乳房の輪郭が浮き出ていたと思う。私のオッパイをしばらく撫でて、体の線に沿って手を動かしていた。それから体を動かして、正座している私の脚に頭を載せたの。私の顔を下から見ながらまた乳房に触り、手を握ったりしていたの。私の須貝さんへの態度はその時から急に近くなったように思う。話し方も自然に変わって、それからあとはずいぶんくだけた言い方になっていたわ。 そんなに見ないでよ・・。 いやだといっていると聞いていたけれどな・・。 健吾からこの話を聞かされた時、最初は拒否したけれど、でもどこか引っかかるものがあったの。 ええ、断りたくない気持ちもあったの。その気持ちは健吾に言えなかった。話しているうちに自分のことが分からなくなって、ずるずると・・。 ええ・・。 あれは自分を納得させるためのものだったみたい・・。 健吾君のことは? そんな感じの会話が続いたの。須貝さんはとにかく私の体を抱いているのが好きだというのよ。窓のカーテンもかけず明るいベッドの上で抱き合って、ごろごろしていたの。オッパイを吸われている時が一番気持ちよかった。いつまでも吸っていてほしいと思っていた。須貝さんみたいな大きな人が私のオッパイをずっと吸うのって、その姿は漫画的なところもあるけど、誰に見られているわけじゃないからずっとそうしていた。 お昼ごろまでそうしていたの。考えられないでしょう、私のそんな姿。朝食のあと昼まで裸でベッドの上にいたの。新婚の頃の健吾とだってそんなことはなかったのよ。 〈もう一段上にあがる〉 簡単なものを作るけれど台所でコーンの缶詰とジャガイモがあるかを聞くとあるというの。ジャガイモの皮を取り、コーンとコンソメ味で煮たあとミキサーでつぶして、牛乳と塩胡椒で味を調えてスープにした。ハムを少し厚く切り、フライパンで焦げ目をつけたものに、ゆがいた人参を薄い甘目に味付けし、ホウレンソウ草をゆがいて軽くバターで炒めて添えたわ。 広子さんが作ってくれたライ麦パンがまだあったから、ちょっとトーストして昼食らしいものが出来たわ。おしゃべりしながら楽しい昼食だった。 流しの後片付けをしたあと、須貝さんがコーヒーを淹れてくれた。とてもいい香りのするコーヒーだった。おいしい・・・と言うと、お店に頼んで焙煎してもらったと言う。そのお店の名前を聞くとそこは駅の向こうの中里にあるところなの。 コーヒーを飲んでまた取りとめもないことを話していると、須貝さんが私の手を取って立ち上がったわ。ベッドに行くとはいわなかったけれどすぐわかった。手を繋いで二階にあがり寝室に入って、ベッドの傍でわたしは自分でバスローブを脱いだの。 きれいだ、こっち向いてといい、近づいて抱き、キスしてから、須貝さんは私を抱き上げてベッドに横にしたわ。裸の私を見下ろしながら、パジャマを脱いだの。もう彼のペニスは太く立っていたわ。 私の体を撫でて、顔を近づけてオッパイにキスしてから私の体を抱いた。オッパイを揉み、時々その手をお尻に回して撫で、またオッパイを揉む。揉まれたところから体にジンとした感覚が広がっていく。お尻に回された手が前に回り股間にとどまり微妙なタッチで入り口を探り、指を使って刺激された。 もう濡れていていつでも受け入れられる状態だとわかったと思う。触られていると段々そこがいい気持になり身体がうねり、声が出た。そこを触りながら唇で乳首を転がし、噛むの。それはセックスする前に行う普通のことと思うけれど心がこもっているというか、一生懸命私のためにしているからすごく感じたわ。心をわたしに向けている感じが伝わってくるの。 須貝さんの指を素直に受け入れていたら感じがだんだん強くなり、たまんないと須貝さんに抱き付いたら指を使うのをやめて、私の眼を見ながら体をはなしてすっと股間に顔をもっていった。 いや、そこは・・・。押しのけようとしたけどそのまま吸われたの。両脚が大きくひろげられて、顔を埋められるのは抵抗感があった。でもそうしてまでしてくれる彼の気持ちもうれしかったから力を抜いたの。尖ったクリが舐められたわ。 先よりももっと鋭利な感覚が湧き上がってきたわ。初めて抱かれた須貝さんに股間をさらすようなことをよくさせたものだと今は思うけれどその時はもう須貝さんとそうすることが自然なような気持ちにもなっていたの。 だんだん感覚が強くなって短い声が出る状態が続いて、私の体全体が騒ぎだし、ツーンとする感じがあったあと頂上に押し上げられたわ。落ち着いてくるとまた始めるの。同じ経路を通ってやがて登り、続けて何度もいかされたの。強烈だった。 怖いと言うと顔を離したから、もう入れてと頼んだの。そしたらコンドームを取ろうと離れようとするので、腕をつかんで、要らないと言ったわ。 怪訝そうな顔でわたしを見たの。びっくりした顔だった。 いいのよ。 私はゴムなしでしたいと思ったけれど、須貝さんの考えもあるだろうと思い、それ以上言わなかった。 そしてようやく須貝さんと一つになった。もう頂上を経験しているからとまどいはなかった。すぐに燃え始めた。典子さんはもういつでも頂上にいけるから、私がコントロールするというの。 〈光〉 やがて股間のぞくぞくする感覚が体中に広がって火がついて、高い波の山が湧き上がってくるの。股間がかき回され、それが子宮に届き、下腹部の神経が総て興奮して行くみたいだった。いよいよ限界だと思った時、深く突いたまま腰で押してきたの。ああ、前と同じだと思った時に爆発して、体が溶けた感じだった。それは健吾とは違う世界だと思ったけれど、違ったのはそれからだった。 私が少し落ち着いてくるとまた動き出したの。そして同じようは経過をたどって二度目の爆発になり燃えてぐったりするまでいかされたの。でも須貝さんは終わらなかったわ。須貝さんに不気味なものを感じたわ。一体この人どんな人だろうと思った。そして三度目の絶頂に押し上げられた時は一瞬頭が真っ白になり意識が飛んだような気がしたわ。 気分が落ち着いた時に、私だけいったのでしょうと聞いたら、それには答えないで、セックスの感覚が大きくなってきたねと言う。怖いというと、君は強靭な身体をしているから、もっとよくなるというの。 それからは須貝さんの腕に頭を置いて向き合っていたら、神経が消耗したのかだんだん眠気が出てきたの。朝起きて二回、昼からはクンニで何回か、そして結合してから三回だったけれど、最後の二回はすごい状態が続いたから神経が消耗したと思う。私、知らないうちに眠ってしまったの。 〈男の料理〉 須貝さんは下で待っていると降りて行ったの。私はバスローブを羽織って階下に降りて、浴室に入った。シャワーを浴びて台所に行くと食事が出来ていたのよ。ごめんなさいと肩をすくめぺろりと舌を出しちゃったの。その姿が何とも愛くるしい、もう一度やってといわれ、もうどうしようかと思ったわ。 鯛の身を薄く切って作ったカルパッチョと潮汁。サワラの切り身を醤油と味醂と生姜で煮つけたもの。それに豆腐の味噌田楽などが並べられていたの。トマトとレタスのサラダも少しだけど添えられていた。また国籍不明の料理ですが、と謙遜するけど上手に作られていたわ。聞くと車でスーパーまで買い物に行ってお魚などを購入してきたと言うの。 食卓が広いので、私は須貝さんと並んで食べた。お魚の料理を須貝さんはよくできるのねと言うと、釣り人は魚をさばくから、魚料理にあまり抵抗はないよ、我が家では三枚におろすのは私の仕事だという。 ものすごくおいしい料理だった。お酒も一緒にのんだ。話が途切れそうになると食事を中断して抱き合ってキスし合い、また食べてお酒もいただいたの。 食事が終わって二人で流しに立ち、おしゃべりしながら洗い、終わったと向き合うと、抱いてくれたわ。抱き合ってキスしていたら、ベッドに行きたくなったの。逢ってたった一晩過ごしただけの人とどうしてそんなにセックスがしたくなるのか自分でも不思議だった。 〈変化する典子〉 飲みながらベッドの縁に腰を掛けて二人は外を眺めていた。須貝さんが広いほうに、私はシングルに腰かけて間に小さな机を置いて・・・。 もうすぐ本格的な夏になるね、うだるような夏もいいものだ、いまでも山登りに行くという。夏山は天国で、昼間歩いている時はすごい汗だが、日が落ちると急に温度が下がる。朝はもっと気温が下がり、夜明け前の空には冬の星座が見えて身の引き締まる感じがするという。冬にも行きますかと聞くと、冬山は山岳部の部活動で行ったことはあるが、いまはもう一人だからやらないと言っていたわ。 ずっと昔は北アルプスが中心だったが、20年ほど前から南アルプスや丹沢だという。お花畑の美しさや途中で出会う小動物の可愛さを話してくれた。あなたと行ってみたい、いいだろうなと言うと、夢のような話だねと笑った。 話し合っているとやがて雰囲気が出てきたの。須貝さんが私の手を引いたので立ち上がってキスしながらしばらく抱き合って、それからベッドに押し倒されるように倒れ込んだ。バスローブの紐を取って裸になったあとは、もう慣れ親しんだ恋人みたいに始めたわ。 一つになるとすぐに感じてきたわ。私は自分がどうなるかはわかっていた。自分の気持ちが全然違うの。健吾とは違う領域にいけると思っていたし、それを期待していたの。体のほうが期待していた。 どんな感じだったかはもう説明はしないけれど、私はとことんいってしまったわ。終わった時はしばらく動けないほどぐったりしていた。四肢を伸ばして大の字になっていたわ。だらしない格好だけれど動けなかった。体の隅々までセックスの感覚が拡がっていて、筋肉がすべて弛緩したようで動けなかったの。 それでも須貝さんはいっていなかったの。 須貝さんは冷蔵庫から麦茶を出してくれた。それを飲んだあと、また抱き合ったわ。私の気分を鎮めるみたいに、やさしく撫でまわしたりキスし合ったり・・・。話しながらセックスのあとの戯れが長かった。 気が付いたらもう日付が変わる時間だった。眠りたいという気持ちは起きなかったの。昼間に3時間も眠ったからだと思う。もう12時を回っているというと、もう休みましょうかいうの。でも私は須貝さんがいっていないことが気になっていたの。須貝さんはまだでしょうというと、いや典子さんに一番よい夜を作ることが私の仕事だからと笑っていた。 私は須貝さんと一緒にいきたいと言うと、ちょっと私の方をみて、それでは区切りをつけましょうかと言うの。区切りをつけるという言いは変だけれどうれしかった。私はその頃須貝さんとの距離はもう感じないようになっていたので思ったことが言えたと思う。 合体するとわたしはまた大きな波に翻弄された。極彩色の夢を見ているような展開になった。夢と違うのは猛烈な感覚が体を支配しているところ。最後は連続花火が打ち上げられるような中で終わったわ。鮮烈に覚えているのは須貝さんが体を震わせながら私をきつく抱いて何度も何度もわたしに体に腰を打ち付けるようにして果てたこと。その時の感覚は気持ちがいいというようなものではなく、体全体が地鳴りしているみたいで・・感極まって・・涙が出てきて・・須貝さん・・須貝さんといいながら抱き付いていて、しばらくは元の状態に戻らなかった。体がブルッと震えることが続いたわ。それからあと何時自分が眠りに就いた記憶がないの。引き込まれるように眠ったと思う。 〈最後の日〉 壊れない。大丈夫。 いやな感じとか怒りとか・・ないの? 私が目を覚ました時は9時を廻っていたわ。須貝さんはまだ寝ていたので「起きて」と言おうとしたら声がかすれて変になっていた。寄り添ったら須貝さんの体が動いて、眼を覚ましたわ。 起きていたのか・・・、あれもう9時を廻っている。寝過ごした・・。 昨夜は凄かったね。 いや・・ごめん。典子さんがあんなに悦んでくれるとは思わなかった・・・いやそうなってほしいとは思っていたけれど・・。 須貝さんに対する話し方は変わっていた。他人という感じがもうなくなっていた。須貝さんに抱かれていることが嬉しかった。須貝さんの胸に顔をうずめてうれしいの・・本当よ・・と繰り返した。 それからはちょっと落ち着いた話をしていたの。私の小さいころから大学を卒業するまでのことや健吾と出会った時のことなど話したの。須貝さんも子供の頃からお爺さんの実家がある福知山でよく遊んだことや大学で学んだ建築のことや、自分がお父様の仕事を継いだときの気持ちなども話してくれた。本当は家業ではなく大きな建築事務所で働きたかったともいっていたわ。お爺さんとの関係で今でも京都には自分の仕事に関係する人がいるともいっていたわ。 朝ごはんを食べずに昼ごろまで話をしていた。お腹は空いてないかと聞かれたけれどもこうしている方がいいと答えて、抱き合っていたの。気分が高まってきたときはキスし合い話を中断して絡みあっていたの。気持ちが昂ぶって来てもセックスには移らなかったわ。前の晩で飽和状態だったのかもしれない。 お昼を過ぎたので階下に降りてシャワーを浴びたわ。二人で身体を洗い、髪を洗うから先に出てというと、須貝さんは私の汗の匂いが好きだというの。いやだ・・変態・・と睨んだら、本当のことだから洗うなよという。いやだ・・変態・・出て行ってよと追い出して私は鏡の前に立った。ここに来てから、こうしてシャワーを浴びてはセックスして、またシャワーを浴びることを何度繰り返したのだろうかと思った。昨夜は激しかったから痕でも付いているかと気になったが痕は付いていなかった。結局須貝さんがいうので髪は洗わずに浴室を出たわ。 バスローブを着けて、食堂に向かったら、須貝さんは台所に立っていた。あら私がと言うと、簡単にチャーハンでも作るからというの。鮭を焼いてほぐし、それを玉ねぎとニンジンを小さく刻んで炒めたものと混ぜ、フライパンにオリーブオイルを敷いて加熱し、ご飯は電子レンジですこし温めて投入。さっと混ぜ合わせ、カレー粉を振ってカレーチャーハンに仕上げていった。手際がいいの。塩胡椒で味を調えて、皿に盛る前にパセリのみじん切りを混ぜて彩としていたわ。 さあ、出来たよと私を見て、抱きしめてキスしてくれた。いい髪の匂いだ、この匂いを覚えておこうといい、頭を抱いたまましばらくじっとしていた。 送って行かなければならないのでアルコールは出せないから、冷たい烏龍茶でもといい、チャーハンを盛り分けた。いよいよお別れの時が来たと思った。それ以外に選択がない・・・それは分かっている・・でももっと一緒にいたい思いが強かった。 〈最後の交わり〉 午後の光りは木洩れ日となって部屋の端に差し込むくらいだった。ベッドの上には届いていなかった。外は暑いでしょうねと私が言うと、少し冷房をかけたから・・これくらいでいいねと須貝さんは言って、抱いてくれた。 ゆうべのようにして、と言うと、いよいよお別れだねという。私は・・・こんなセックスはもう経験できないと思う・・そんな気持ちしかなかった。 須貝さんはいつもの通り私の体を唇で覆い尽くした。股間に顔がきた時もそのまま受けることが出来た。健吾からも、常識もなにも関係のない世界で須貝さんを受け入れたかった。これが最後だと・・・。長い時間をかけてゆっくりと舐めていた。チロチロと動く舌がきつい感じでもなく、下半身をとろけさせるように動いていた。しかしクンニでは登りつめたくなかった。須貝さんもそんなことを心得ているのか登りつめないやり方で舐めていた。やがて須貝さんのものが欲しくなった。入れてというと体を乗せてきた。 これが最後だからゴムはしないでと頼んだの。ちょっと考えていたが、お願い・・というと漸く頷いたわ。須貝さんがオッパイを吸っている時私は須貝さんのものを掴んでいたわ。この手で実感しておきたかった。触ったらこれを失いたくないと思ったの。そうしたら別の日にまた逢いたい・・・その気持ちが強くなってきた。 もう逢えないなんていやと言ったけれど須貝さんは答えなかった。広子さんからあなたを盗ろうかなというと、可愛い泥棒さんですか・・と笑ったわ。あなたが好きなの・・また逢ってというと、やはり黙って唇で私の口を塞いだわ。それからそのまま私に上になって挿入してきたの。 筋道は前の日に出来上がっていて、その通りに進行したわ。体が熱くなって体がワーッとなった時でも、そのあと胸に頭をうずめて震えている時でも私は須貝さん好き・・もう逢えないなんていや・・と繰り返していた。もう逢うことはないと分かっていてもひとりでに言葉になる状態だった。 私は両足を須貝さんの腰の位置で組み合わせて、腕を背中にまわして抱き付いていた。須貝さんが自由に動けないくらい強く抱き付いていた。須貝さんのものが私を貫いてそこを通じて完全に一体になっている状態だった。そして私が二回目の爆発をした時は真っ赤な光が見えたみたいだった。ゆうべの花火と同じものが始まったと思った。 私がそのあと何回頂上を極めても、須貝さんは私の状態を見ながら腰を動かしていた。違ったのは私が最後まで須貝さんを感じていたい気持ちが働いていたことなの。体は燃えているのに、須貝さんのものを感じたいから・・と意識を強くしていた。 だから飛びそうになる意識をもちこたえて縋り付いていたの。いつまでも続いてほしい気持ちと、早く頂上で散るように終わりたい気持ちが交差した時間だった。でもやはり頂上で散りたいと思った気持ちが勝った。 ・・・これ以上は耐えられない、来て・・わたしの中に来て・・と言うと、動きが変り力強い抽送が始まったの。その感覚が凄くて私はワーッと叫ぶと、須貝さんは私の体の深くまで貫いて射精したわ。 膣内に精液を感じるのは、男にはわからない感覚だと思う。健吾との時もそうだけれど、女にはやはり感動なの。その人のすべてを受けいれる感覚・・条件が整っていたらその人と子供を作れる行為だから・・。その人が愛おしいというか・・特別な人という気持ちになるの・・。 射精したあと、須貝さんはものすごい力で私を抱きしめて震えたわ。私は両手と両脚にすべての力を込めて抱き付いていた。何度も須貝さんのものが私の中でビクビク動くのを感じていた。とうとう本当の合体をしたと思ったわ。 その時の気持ちは説明のしようがないものなの。健吾も、健一も、父も母も、全ての繋がりが消えて・・ただ私を抱いている須貝さんだけしかいない世界だった。この状態のままいつまでも須貝さんから離れたくないと思っていた。 でも須貝さんが私の体をはなし、わたしから抜けて、私の横に仰臥した。その時ぼんやりとこれで終わったと思った。 それからいろいろのことがだんだん頭に浮かぶようになってきたわ。あなたのことも、健一のことも・・・。両親のことも・・。抱かれている間ずっと須貝さんにまた逢いたいと繰り返したけれど・・何もかも終わった感じだった。 セックスの余韻はもちろん残っていたけれど帰らなければならない時だと自して、私は一人起き上がり、階下に降りて浴室に入ったわ。すぐ須貝さんも後を追って浴室に来たけれど何も言わなかった。ボディーソープを手に取り、後ろから私の体を洗った。肩から腕、背中、脇腹と時間をかけて洗ってくれたの。前に回した手が乳房の上に来たとき、しばらく私を抱きしめていた。私は目をつむり、頭をうしろに傾けて須貝さんの肩にもたれかけたの。さみしい感じというより何かが終わったという気持ちだった。 須貝さんは名残を断ち切るようにぬるめのシャワーで私の体を流し、自身もシャワーをかぶって浴室を出ていった。須貝さんの残滓を体に残して帰るわけにはいかないと思って、かがみこんで洗ったのだけれど、そこを占有していた須貝さんのものがまだ差しこまれている感覚が残っていた。 体がブルッと震え、膣が収縮し眩暈を感じたわ。さすがこんな状態で帰れないと思い、頭にお湯をかけて洗い、タオルでごしごしして、ドライヤーでブローしたけれど、その間鏡に映る自分の体は少しふやけたような感じだった。 車に乗り家に帰る途中、私は黙っていた。須貝さんは、この三日間は人生初めての経験だった、あなたに対する気持ちは三日前と全く変わった、あなたと過ごした時間は決して忘れない・・と言ってくれたの。 私は最後のセックスで抱かれている間は繰り返し須貝さんにまた逢いたいと言っていたのに、なぜかその言葉は出てこなかった。それを言えば・・・健吾から本当に離れてしまうと感じていたのかもしれない。 〈家に帰った典子〉 典子は黙って健一のための夕飯を準備して、5時になった。母親が健一とともに現れた時、お母さん何の準備も出来なかったの、今度ご馳走するからその時はお父さんと来てねとかすれたような声で言う。いいよ、気にしないでと帰って行った。見送る典子の膝が震えていた。 9時になって息子が寝たあと、二人は寝室にいた。典子は俯いたままで、お話は明日でいいかと聞いた。いいよ、急いだ話ではないからと健吾が言うと、ごめんなさいといったきり黙っていた。今日はもう寝るとしようかと健吾がいう。典子は黙って隣の布団に入り目をつぶった。健吾はだまって天井を見ていた。 翌日典子は朝食の準備をした。典子は言葉を発しなかった。健吾とは目を合わせないようにしている様子だった。健一が不安そうに健吾と典子を見ていた。健吾が出勤したあとに、典子が健一を幼稚園に送ることになっているのは普段のとおりである。 その日の夕方健吾が帰るとお帰りなさいという典子の顔に笑顔はなかった。寝る時間になり寝室に入った時典子の顔におびえたような影があった。健吾を見てごめんなさいといってタオルケットを被った。 そんな日が三日続いたが健吾は黙っていた。それから一週間ほどすると少し典子の顔が少し変化した。何か考えがあるような顔だった。しかし顔はこわばったままだった。両親の異常を感知してか健一はいつも不安そうに典子と健吾の両方の顔色を窺っていた。健吾が話しかけるとほっとしたように笑顔を作って健吾に甘えた。 帰ってきてから十日以上たった日に、典子が健吾に須貝さんと過ごした日のことの話をすると緊張した顔でいった。話す気になったかと聞くと、健一の様子が可哀そうで、何とかしたいという。典子もそれが自分のせいだと感じていた。健一が笑わなくなった・・・と言った。 話せるのかと聞いたら、きちんと話せるかどうかわからないけれど話をしなければもう限界だという。限界と言うのは俺と別れたいのかと聞くと、違う・・正直に自分のことを話して、健吾の意見を聞きたいといった。 顔に血の気がなく少し震えているような感じがした。典子は須貝とのセックスにのめり込んだことは仕方がないと思っていた。もともと他人とのセックスを楽しむことが前提だったから、その言訳は出来る・・しかし須貝に気持ちを寄せ健吾と別れて須貝さんと一緒になりたいと思ったことをどう話してよいのかわからなかった。 俺も広子さんと三日間を過ごした。典子が社長と過ごしたことで問題になることはないはずだよ。なぜそんなに話しにくかったの・・・。 ・・・・そんなことはできないことだと思っている。第一私と須貝さんが一緒になることは、須貝さんにしてみれば会社の建築部門の責任者の妻を横取りする訳でしょう。社会的にあきれられる・・・会社がつぶれるでしょう・・。でもその時私が何でそんな非常識なことを考えたのか・・・説明のしようがないわ・・・混乱していただけなの。でもその混乱がいけないのよ・・健吾に申し訳なくて・・どうしていいのかわからない・・。 そんなに申し訳ないと思うか・・? そう言われて典子が話したのが「須貝と二人になって」からのことである。 〈健吾との話〉 俺も広子さんと三日間を過ごしている。典子が社長にのめり込んだからといって問題にならないよ。 とにかく典子は稀有な経験をした・・それを大事にすることだと思う。 これまで典子は論理の使い分けも、行動の使い分けもしなかったじゃない。 健吾との間に壁が出来るよ・・。 いいとか悪いとかの問題ではない。大事なものだったら、大事にしないといけないなと思う。俺は典子を信用しているから、全てのことをいちいち共有しなくてもいいさ・・・。 朝から晩までセックスして・・・、それが健吾より格段にいいと思い、夢中になって抱かれて、相手と一緒になりたいと思い、その時考えたことや私の体に刻まれた感覚を覚えていていいの?・・ ここにこうして俺と話をしている。帰ってきて十日以上も経つよ。 そこを脱出したいの。 じゃあ、発端から話そうか・・。 〈計画の中味〉 この話は広子さんの発案で、社長が賛成して、俺が納得したということは話していなかった。 何処で意見が一致したの。 広子さんは、社長の先輩夫妻とスワップした時、それまでとは違って格段にいいセックスを経験した。そのあと考えが変わったという。いままで社長といろいろもめたことが馬鹿らしくなったらしい。腹が据わるというか世の中を見る自分が変化したことを実感したという。そんな経験を社長と話し合って、社長もそれを理解して夫婦仲もよくなったらしい。それで俺たちの状況を聞いた時スワップを思いついたという。君に興味を持っていた社長はよろこんで乗ってきた。 興味本位で提案した訳じゃない。俺たちの関係を心配して、つまり俺たちがセックスに未熟だと見たわけだ・・。 広子さんは、女は体の深部を揺すられる性の悦びを知れば変わるというのだ。 広子さんは、社長はそれが出来ると・・・つまり典子を徹底的に悦ばすことが出来ると見ていた。 ・・・・そういうことだったの。 信じられないほどの話だった。広子さんから須貝さんを盗ろうかと思ったと話してもそれを健吾は問題にしなかったのははじめから予想されていたことだった。自分が悩んだことは何だったか。だまされていたわけだが、それにしても須貝さんとのセックスは凄かった。 忘れろと言われても忘れられるものじゃない。なぜあんな状態になったのだろう。須貝さんのものが何か特別だったという訳ではない。私のために一生懸命にしてくれたことは感じていた。それであのようになったのか・・・単に健吾とは違う相手とセックスしたために起きたことではない。 でもさ・・典子の話を聞いたら、典子がだんだん社長に近づいていった姿がよくわかるよ。そして最後の日に典子の気持ちがそうなったというのも自然だと思う。その気持ちはいまも変わらないのだろう・・? 社長が好きなままでいいよ・・。 第1話 完 |








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