小田原物語 第3話
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第3話 嘘のようといえば、二か月前に典子が須貝と過ごした三日は、典子にとってそれが現実だとは思えないことの連続だった。知らなかった性の深さを教えられ、須貝にのめり込み、帰宅してからも典子はしばらくは戸惑いがあったが、今は健吾との夜が以前とは比べ物にならない程よくなり平穏な日々が続いている。 先日、健吾は健一を連れて西丹沢に渓流釣りに出かけた。渓流釣りといっても放流したものを釣るのだからそんなに難しいものではなかった。健一はニジマスを釣り上げた。興奮し、土産に持ち帰って典子が塩焼きにしたときは、夢中になって話をした。健一はこの町に来て本当に元気になったと思う。 庭の洗濯物を取り入れる時間がちょっと遅かったが、まだ太陽の匂いがするほどに乾燥した敷布をたたもうとバッと広げた時、体の芯にツンと抜けるような感覚が生じた。須貝の家で彼と二人でベッドメイクをしたことを思いだした。 いやだ、健吾が持ち込んだ話のせいだわ。 その話は昨夜健吾から伝えられた。社長はもうすぐ京都に仕事で出かける。その仕事が終わったら、夫婦で秋の京都見物でもしないかと広子さんを誘ったが、広子さんは都合のつかない用件を抱えていたので、典子さんと一緒に行けばよいと社長に勧めたというのだ。 どういう意味なの・・・。 私と須貝さんが二人で・・・? また社長に逢いたいような雰囲気だったじゃないか。この前から。 そうか? じゃ、いやか? 健吾、須貝さんは特別な人よ。 どうなるかって? この前こと忘れた訳じゃないでしょう。 この前言ったけど、私と須貝さんとが一緒になることはあり得ないの・・でも・・。 広子さんは何と? 健吾と一緒になることを考えているの・・・。 社長に同行するのは嫌か? ・・・だよな。 健吾・・・何か裏があるの・・? 須貝さんに私がご一緒した時、健吾はどうする? それでいいの? 〈健吾と典子〉 典子にも迷いがあった。行くべきではないと思いながら、須貝には逢いたいと思う。二人の時間が持てるなら、あの時に戻れる。あれは健吾との生活では到達できない目のくらむような世界だ。いま健吾との夜も楽しいが須貝とは違う。典子の下腹部を中心に激しい渦を感じ体が揺れる思いがした。 その夜、風呂からあがった典子の体を健吾が抱いた。昨夜典子の関西行が決まったので健吾の気分は普段とすこし違っていた。同行すれば典子と社長がホテルに泊まると思うと心が騒いだ。 典子が好きなクンニを執拗に続けた。典子の腹の筋肉が時々緊縮し、声を殺して体をくねらせた。やがて腰を反りあげて小さく呻いて落ちた。典子は気持ちが高揚し、健吾にもしようかという。健吾はフェラが好きではない。抱きたいという。 じゃあして・・と紅い顔で体を開く。健吾が割って入り繋がってから互いにキスし合う。典子は健吾の舌が乳房や首筋を這いまわるのを感じながら、やがてやってくる頂点に向かって眼を閉じた。 股間が痺れてくると、頂上への道は湧きあがるようにやってくる。来ると感じた時から自然に体が動く。その体を健吾が抑え込む。典子は健吾に抱き付いていた手を伸ばして腋下を開放する。健吾がそこを舌で捏ねる。典子は枕の端をきつく掴み、唸りながら登りつめる。 二週間前にミレーナを装着した。妊娠を心配しないで出来る交接はのびやかになった。典子はポルチオを攻められると深く感じることを健吾に伝えたので、健吾は登りつめたあとでも、繋がったままポルチオに圧力をかけた。連続して二度目の頂点がやってきた。その時典子は光る・・・と言った。反応を見ながら、いってもいいかと健吾が言う。来て、といって典子は脚を絡めて腰を擦り付け強く抱き付く。健吾は深く挿入して腰をゆする。のけぞり、口をとがらせた典子の姿を確認してから健吾は気を遣る。 その夜は息がおさまってきても健吾は典子を放さなかった。横抱きにしながら話しかけた。汗ばんだ体に健吾の息が心地よく感じる。 楽しみか? 健吾、念を押すようだけれど、いいのね? そうだけど、典子の反応は最近よくなってきた・・。 健吾は典子にキスしながら舌を差し込んだ。典子もそれに応じた。健吾は典子の乳房を揉み、汗の引かない典子の体を抱きしめた。 いい気持。強く抱いて・・。 健吾は興奮していた。典子が社長に抱かれることが原因だと自分ではわかっていた。典子もいつになく興奮している様子だった。社長との旅行がその原因だと思うと、健吾の心になんとなく典子をいじめたい気持ちが起きた。健吾は執拗だった。再び典子は二度押し上げられて震えていたが、まだ終わりそうにない健吾を感じて、あぁ・・・健吾・・・もう堪忍という。もうだめかと聞くと体がバラバラになりそう・・・と悲鳴を上げた。 健吾は射精しないままに典子を離した。息が止まりそうだったと典子は充血した眼を健吾に向けた。 ・・・ねえ、どうしたの。 いやか? そういったが健吾との行為は須貝とは違う。須貝には執拗さがないのに抱かれると体が溶けるまでになる。くたくたになった後の感覚が全然違うと思う。 典子が社長とすると思うと・・・。 言い当てられて一瞬戸惑っていると、ごめんねと典子が小さくいう。いや、いい旅行になるといいねと誤魔化した。 〈京都へ〉 10月の中旬である。京都の紅葉にはひと月早い。そのほうが観光客で混みあうこともない。須貝は京都のあと、大阪に回って日本の近代建築の草分け的な建物群を典子に見せたいと思っていた。開発のすすむ中之島地区に残された由緒ある建築群である。 典子は出発の前日、また母親に関西で大学の同窓会があるからと健一を頼んだら、何時もの通り喜んで引き受けてくれた。健一を送り届けて戻ると健吾が帰宅していた。またお母さんに嘘ついたのかとニヤリと笑う。ただいま、夕飯準備するからねと言って、台所に立つ。健吾が寄って来た。向き合うとウエストに手を置いて典子を見た。典子は抱き付いてキスした。 明日だな。 でも・・行くのだな。 いいさ、俺が持ち込んだことだから。 埋め合わせするから。 その晩健吾は求めなかった。 いいの? 抱いて。 典子は抱き付いてきた。 おいダメだ、その気になるよ。 朝は8時半過ぎのこだまだった。京都には11時半ごろに着く。東京発の新幹線は沿線の地方駅では結構不便である。小田原から昼ごろ京都に着く新幹線は一つしかない。健吾は典子を西口まで送って行った。 薄い茶色の膝丈スカートにネイビーブルーのプルオーバ―、それに同色のカーディガンを羽織った。薄手のキャメルのスカーフを巻いてアクセントをつけた。須貝を意識して渋めの作りにしている。旅行に必要なものはキャリーバッグに収めていた。 ありがとう、行ってくるね。典子は健吾との視線を避けている感じがした。健吾は、この旅行で典子が須貝へ傾斜していく不安が頭をかすめたが、大丈夫だろう・・と思った 典子はホームに向かいながら二か月前のことを思いだしていた。あなたを広子さんから盗ろうかなと須貝に気持ちを漏らしたことである。あの時は本気だった。須貝からは可愛い泥棒さんですかとかわされた。大丈夫だと思いながら、また会えば・・という不安はあった。しかし健吾と別れることはないと思っていた。それだけは確信的な気持ちだった。だから行く気になったともいえるのだと、自分の行動を説明していた。 典子には3時間の旅が長く感じられた。ようやくこだまが東山トンネルを抜けた。もう京都だと思うと典子は落ち着かずキャリーバッグを引いて席を離れた。ホームに停車するまでの時間がもどかしい感じだった。 ホームに降り立つと須貝が目の前に居た。号車番号をメールしていた。よく来てくれたと言う須貝にお久しぶりですと挨拶をする。須貝はキャリーバッグを典子から受けとり話しながら出口に向かった。 まだ紅葉には1か月も間があるのだが、それでもいい季節になった。そうですね暑くもなく、寒くもない、いい季節で・・・。 お仕事は・・・? いま私が関係している移設建設は確かに庶民には関係ない話です。でも京都市内などでは町屋を改造して古民家の新しい使い方を始めている若い人たちも居ます。そういう人たちの動きは注目していますよ。 ええ・・今のところは係りません。京都には古民家を手掛けている同業者がいますから・・・。ところで、お昼に近いけれど。 京都駅前でタクシーを拾い、南禅寺に向かった。南禅寺は京都市左京区、東山の麓にあり、臨済宗の総本山で、京都駅から車でさほど離れてはいない。山門に近いところで車を降りて、鹿ケ谷通りを歩いた。湯豆腐の店はすぐだった。 入り口のすぐ右手に受付がある。まだ客はそんなに多くはない。受付を済まして待っているとすぐに通された。1階の座敷で、そこから中庭がすぐ近くに見えた。 淀んだ池があり、楓の木が上を覆っているがまだ紅葉はしていない。須貝は子供の頃に親父に連れられてきた時その池のほとりの縁台で食べたことがあるという。それ以来ですか・・。いやその後も何度か、仕事でこちらに来たときに・・・。 そんな話をしているところへ注文した品が運ばれてきた。簡単に料理の説明を受けたが、仲居さんの話はなんとなく機械的だった。ここは昔からそうです。客が多いからでしょう。湯豆腐の鍋のほかに胡麻豆腐、豆腐の味噌田楽、天ぷら、それにご飯がお櫃に入れられて並んでいた。 典子は沖縄の苦汁を使ったという豆腐がおいしかったし、味噌田楽も胡麻豆腐もよかった。天ぷらはいまいちの感じだった。須貝はビールをすすめたが、典子は遠慮した。徐々にお客が増えてきた。おいしかったと典子が言う。じゃあ出ましょうかと店を出た。 店を出ると目の前は南禅寺の境内である。まだ紅葉していない楓の葉が陽の光りに透けてきれいだった。遠くに見上げるような大きな門がある。三門ですと須貝が言う。歌舞伎の「三門」は石川五右衛門のセリフ・・絶景かな・・と言うの?そう、この三門からの話ですよ。 圧倒される建造物だった。創建は13世紀の末で、この建物は17世紀のはじめのもので、あの大きな列柱がいいと須貝が説明する。上からの眺めはよさそうですね。・・京都の街がいい景色ですよ。 〈須貝の建築談義〉 見事なアーチ形をしたレンガ造りの建造物だった。高さ10メートルもあろうか、境内の木々の間を貫いて作られていた。建設当時は古刹の景観を台無しにすると反対があったそうですが、いまはこれが趣を与えているようで面白いと須貝が言う。素敵な水路ですね。まだ現役ですよ。 観光客が思い思いの角度から水路閣を写していた。水の流れが見えるところまで足を運んだ。そんなに水量があるとは見えなかったが、これが琵琶湖から引かれている水だと思うと感慨深い。大学を卒業して教員になった年の夏を思い出した。 健吾と結婚する前に付き合っていた人が京都大学のドクターコースに進んだので、琵琶湖に旅したことがあった。近江八幡で水郷巡りの船に乗った。葦の茂みを船が進んでいくと、カイツブリが船に沿うように現れ、ポッと目の前に浮かび、船の近くに来すぎて、驚くようにあわてて水に潜っていった。のどかな風景を二人で見ていた・・・、あの湖の水がここまで流れて来ている・・・。もう10年以上前のことだった。 水路閣を見たあとインクラインに足を運んだ。明治時代から昭和にかけて淀川と琵琶湖を結んだ海運の舞台がここだった。予想を超える大きな構造物だ。 淀川を登ってきた三十石船が台車に乗せられて荷物を積んだままここで引き上げられ、琵琶湖に向かう水路トンネルに吸い込まれていく様子に当時の人々は喝采を送ったそうですよ。ここは当時の京都観光の目玉だった。 どうやって船を乗せた台車を引っ張ったのかしら?勾配が結構急ね。 電力です。疎水の水を利用して発電しています。あの時代に鉱山の排水に使う自家用の小さな発電機が世界中で2、3か所あっただけで、一般事業に使われたのは世界初ですよ。これは素晴らしい発案でした 疎水事業が大変だったのはトンネル工事ですが、明治の23年に完成しています。疎水計画はそのもっと前で、京都市民の声で生まれた。それを京都府知事が取り上げた。そんなところも明治の息吹が感じられますね。 その工事の設計から工事全体の総責任が東京の工部大学校を卒業したばかりの若者、田辺朔朗だったのもすごいでしょう。当時、日本人では無理といわれた事業でした。田辺に任せた北垣という京都知事も度胸のある人ですよ。 私は大学ゼミで建造物としての水路閣の美的問題が議論になった時に工事そのものの概要を知ったのですが、すごい話だと思いましたよ。水道事業なのに何故あのような綺麗な水路にしたかということ・・・、古刹の中に水路を通すための配慮だったそうですよ。考えさせられますね。今の東京の醜悪な高速道路などを見ていると・・。 熱っぽく語る須貝の話に、昔の彼を思い出した。まるで話し方が同じだった。話を始めたら止まらない・・・イメージが須貝と似ていた。彼は学部を出て大学院は京都に行き、大学に残った人だった。彼と一緒になっていたら健吾とも須貝とも会うこともなかった・・・・。研究には情熱を燃やしたが、ベッドではぎこちない人だった・・・。水郷をめぐったあと二人は堅田のホテルに宿泊した。結婚するつもりだった。 しかしその後いろいろのいきさつがあり、彼の外国留学を契機に二人の関係は終わった・・。でもあの建築への情熱・・・豊富な知識に裏打ちされた話題・・古い時代からの建築にまつわる話を門外漢の典子にも理解できるように話してくれて、それを感激しながら聞いた記憶が典子には鮮明に残っている。須貝の横顔を見ながら、あの人と別れたのは何故だった・・それでよかったのか・・と思っていた。 歳の差のある須貝と典子に対して周囲の人々からの視線はない。須貝に寄り添い、ここはいいところ、昔と現代が同居しているみたいという。京都にはそんなところが多い、それが魅力ですね・・。 須貝が時計を見た。 もう二時を廻りました。大分歩きましたが疲れませんか? ホテルに行きましょうか。チェックインが出来る時間ですが。 〈ホテル〉 典子がカーディガンをハンガーにかけて須貝を見た。お互いに近づいて、抱き合った。見つめ合って唇を重ねた。典子は力が抜けそうに感じたが須貝が支えていた。 よく来てくれた。 須貝がブルゾンを脱いだ。それを典子がクローゼットに仕舞った。そしてまた抱き合ってキスを続けた。首筋を須貝の唇が這った時に典子はシャワーを浴びたいといった。待ちきれない思いが言葉になった。 先に典子が浴室に入った。鏡を見るとやはり少し太ったと思う。乳房は豊かに重量感が出ているし、ウエストの絞りはまだ問題ない。シャワーの水を弾いて光る体を自分でもきれいだと見ていると、須貝が入ってきた。須貝に向けてシャワーの水をかけると笑いながら典子を抱いた。大きくなり始めたペニスを腹に感じながらキスし合った。ボディーソープを手に取り須貝の体に塗り、手で撫でまわしながら須貝の体を洗った。お互いに流し合ってまた抱き合いキスした。 先にブースを出て鏡に向かい典子は髪に弾いた水を鏡に向かって拭いていると、須貝も出てきた。鏡の中の典子に微笑んで、きれいだと言う。振り向いて典子は須貝に抱き付いてキスした。典子のお尻のあたりを撫でながら早くおいでといってベッドに向かった。 バスタオルを巻いて、ベッドで待っている須貝に近づくと抱きしめられて倒れ込んだ。バスタオルを取られて裸になった。典子はこれから始まることの結果を考えて身震いがした。須貝は典子をしばらく見つめていたが、額にキスしてから抱きしめた。典子も須貝の背中に腕を伸ばして抱き付いた。しばらく無言でキスを続けた。 綺麗になった・・・。 白く輝く体だった。乳房は仰臥しても崩れず、湿り気を帯びて盛り上がっている。それを宝石のようだという須貝に、典子は微笑みながら・・・今日はあなたのものよという。須貝は仰臥した典子の体を両手で肩から脇腹、ヒップ、太腿と順にゆっくりと手を滑らせていく。顔が草叢の上に来たときにそこに顔をうずめた。 窓にはレースのカーテンが引かれただけだった。明るい室内のベッドの上で二つの裸体が長く繋がった。女の股間に男の顔があり、女は男の頭に手を置いて顎を突き出していた。しばらくすると女の体が揺れて女の両脚が曲がった。くぐもった声がして腹筋が震えた。男が伸びあがって女の上に被さり互いにキスをかわし始めた。 須貝は典子の体は二か月まえと比べて丸みを帯びてきたと思った。充実した肉感が伝わってくる体だった。健吾との生活が充実してきたのだろうと思う。そのことを伝えると健吾のことは今日はいわないでと典子がいい、体勢を変えた。 典子は片脚を須貝に絡ませて乗り上げるように位置を取り、須貝にキスしていた。須貝の右手は典子の腰を撫で、左手で乳房を支えながら乳首を噛んでいた。ベッドからは京都の空が見える。二か月前に須貝の家からの風景を思い出した。あの時はカーテンも引かずに夏の光りがまぶしいベッドの上で抱きあった。 乳房が噛まれるとジンとした感覚が走る。典子が須貝の喉元から耳の方に唇を動かす。長い間逢えなかった二人が久しぶりの逢瀬を楽しむ光景だった。張りのある乳房の頂点にピンク色に変化してきた乳首が固く立ち上がっていた。 やがて須貝が上になり仰臥した典子の体に唇を這わせた。典子は眼を閉じて口をわずかに開いている。典子の頭の中に健吾はもういなかった。典子は須貝と睦んだ最後の感覚を思い出そうとしていた。あそこに到達したい、頭が真っ白になり体が溶けてしまう極致に到達したかった。時々位置を変えながら絡み合う時間が続く。白い乳房に透けて見えていた青い静脈は消え、全体が赤みを帯びている。 欲しい・・。 あらためて典子を仰臥させ、開いた両脚を抱えるようにして挿入した。繋がると典子はため息をつきながら、ああ・・やっぱり・・あなただ・・とつぶやく。女にとってペニスの侵入は男の侵入そのものであり、体全体で一つになった感じがする。須貝が乳房にキスし、乳首を噛むと典子は・・思いだした・・と呻く。二か月前のベッドが再現され、空白の時が消えた。 典子の顔に赤みがさしてきた。首筋から鎖骨のあたり、また乳房へと須貝の唇が覆っていく。ペニスが間断なく動き、膣が緊張したり弛緩したりする。健吾の小田原で別れた時のさびしそうな顔が突然浮かんだ。私一人でこんな楽しい思いをするなんて・・・と思ったが、そんな気持ちは乳頭に須貝の唇を感じると消えた。ああ、イイ。 両脚を須貝の脚に掛け、密着した。須貝は二か月前とは違う典子の体の動きを感じた。身体の動きがスムーズで須貝の動きにうまく対応した。濡れた膣は須貝を咥え、よく絞まって吸い付いてきた。 これならあとは自然に登りゆくだけである。記憶を呼び起こして典子の急所を突いた。ペニスを膣の上側をこするように出し入れすると反応があった。 そこ・・・。 絡み合い、キスし合い、体を撫でられながら須貝の腰の運動に合わせて動いた。目の前に須貝の顔があり、一定の速度で腰の動きが続く。典子はこのまま頂上にいけることが分かっていた。股間のしびれが膨らんできた。ペニスが心地よく体の芯を叩いている。ああ、イイ。 二か月前、典子は須貝に抱かれて女の悦びを教えられた。最後の交合では意識が飛ぶほどの高みの中で悶えた。その高みにこれから近づいていくと期待が膨らむ・・。 来る・・・。須貝の耳元に口をつけて小さな声でいった。そして水があふれ出すようにそれが訪れた。盛り上がった感覚が股間から体全体に広がり、そのまま頂上に向かった。スムーズに頂点に移行した。唸りながら反り返る典子を須貝が抱きしめた。のびやかに第一波に乗った。 休む必要はないことを須貝は分かっていた。そのまま続けるとやがて顔を左右に振りながら、たまんないという。乳房がさらに尖って、赤みを帯びた典子の顔が引きつるように変化した。 須貝をもう見ていない。目をつぶって眉間にしわを寄せている。大きく口を開け呼吸し始めた。股間のしびれが全身に広がった。もうどこという場所ではなく体のあらゆるところがうごめいている感じがした。 うねる典子の裸体を抱いて腰を使うと、また新しい頂点に向かったことがわかった。このままでいいだろうと抽送を続けた。大きな波が押し寄せ、それに呑み込まれるように典子はうねった。顔をひきつらせてうめき声をあげた。震える典子の体を須貝は抱きしめて典子を頂上に送った。やや血の気が引いた顔がオルガスムスの中で左右に振られていた。 引き攣っていた顔の中からもとの典子の顔が現れてきた。典子は覗き込む須貝の顔が見えた時、恥ずかしそうに言った。 変な顔をしていたでしょう。 私は典子さんに夢中で・・。 典子は須貝が放出していないことを言っていた。 ねえ、典子といって・・。 典子は笑い出した。それから健吾が昨夜自分としなかった話をした。 抱いてといったのに。遠慮しておくとか・・・。 健吾君とはうまくいっているのだ。 あなたがそうさせてくれたのよ・・・。 〈もう一度〉 ミレーナつけているの。 源二が典子の上に体を移した。両脚を立てて開いた典子の体に須貝が挿入した。その腰がうねり始めた。典子のくぐもった声が腰のリズムに合わせて聞こえる。 今度は・・・ね。 ゆっくりとした腰の動きが続く。典子の手が須貝の背中を抱きしめた。須貝の顔が典子の顔の横にあり、時々耳のあたりにキスしていた。首筋にキスされるとそこから子宮につながる道があるように思えた。なんでこんなにいいのと聞くと久しぶりだからだろうと須貝はいう。 違うの・・あなたが好きだから・・と言って典子は須貝の顔を両手で挟んで自分の方に向け須貝の口を吸った。須貝の舌を引き出すように吸うときもあった。須貝はリズムを崩さず腰をくねらせた。 典子は出来るだけゆっくり須貝を感じていたいと思っていたが、体の内部から噴き上がってくる感覚が大きくなってきた。あなた・・・また来る、と切れ切れに言う典子の顔を見ていた須貝が動きを緩めた。 思い出すのだよ・・。 うっすらと浮いた典子の額の汗を須貝が舐め取った。頸に典子が吸いついて須貝の体を抱きしめた。そしてまた見つめ合い舌を絡めてキスした。しばらく興奮を抑えるようにつながったままキス合った。時々須貝の腰が動くだけの静かな交合だった。 須貝の動きが少し変わった。典子が悶える。しばらく耐えていたがこのままいかせてと典子が言う。須貝は黙って抽送を繰り返した。典子の股間の感覚が膨れ上がってきた。もう止めることは出来そうにない。イク・・・と頭を反りかえして典子の爆発が起きた。イイ、イイと呻きながら震えた。 須貝はまだ冷静だった。頭を左右に振り紅潮した顔面の典子を抱きしめて、抽送を繰り返す。我慢する50歳の男にまだ最後は訪れない。典子は引き続く高揚した感覚の中で悶えた。須貝とではなんでこんなにいいのだろうと思う。体が連続したオルガスムスで浮揚し、体全体が須貝と一体になっている感じがした。 やがてとどめの抽送が始まった。須貝は近づいたことを典子に告げた。連続するオルガスムスの中で意識を持ちこたえていた典子は来て、来て、と叫んだ。須貝がポルチオにペニスを押し付けて静止した。アッ、あのタイミングだと察した典子がギィと呻きながら須貝の胸に顔を押し付け、腰を振り自らを解き放った。 それに合わせて須貝が放った。精液が噴き出した感覚を受けとり、別の快感が襲ってきた。典子の頭の中に霧がかかり、体がとろけたみたいだった。ああ、これだ、二か月前のフィニッシュをはっきりと思い出した。 体中が痺れていた。高揚した感覚はなかなか引いて行かない。ああ幸せと四肢を絡めて強く須貝に抱き付く。須貝は黙って抱き返してくるだけだった。体が溶けたように心地よかった。 あなた・・。 〈夢〉 典子は須貝の胸の中で眠りに落ちていたのだった。もがいている自分に気が付いた。 あっ・・・夢。 どんな夢? 須貝の腰に手を遣り撫でながら、自分の股間を素早く触ってみた。まだ彼のものは体の中に残っているのだと安心した。バスタオルを腰の下に敷いていたし・・・。安心して須貝に抱き付いて舌を絡めた。しばらく余韻を楽しむように睦みあった。 古い民家を東京に移すの・・? 典子、住んでみたい・・。 現実と言えば私には風格のる古民家は買えないですよ。 須貝さんは別荘持ちたいと思わない? そこへ週末に健吾君も一緒に来てみる? なに笑っているの・・・。 〈須貝の心の動き〉 東山は夕日に輝いていた。西山にかかる灰色の雲の端が金色に輝き明日も天気が続くようだった。室内に眼を戻したとき浴室に消える典子の流れるような腰の線を思い出した。重量感があり、くびれたウエストから腰への線が流れるようで見事だった。典子との関係が生まれたのがまだ信じられない、奇跡のようだと思う。 もういいだろうと起き上がり浴室のドアを開けた。典子はシャワーを止めて、鏡の前に立ち、髪にタオルを押し当ていた。須貝は交替してシャワーを使い、先に浴室を出た。しばらくすると典子がお待たせとバスタオルを巻いてベッドで待っている須貝に寄り添いバスタオルをはずした。 四肢を長く延ばした典子の肌は夕暮れの光りの中で赤みを帯びて幻想的だった。須貝は愛おしそうに乳首を口に含み、しばらく典子の体に戯れた。 夕食はどうしよう。 ここの鉄板焼はおいしいとの評判だが・・・。焼き野菜もある。 レストランに予約を入れて、時間を確認し、それまでの時を惜しむかのように抱き合った。さっき果てたばかりの須貝のものはもう復活していた。典子はそれを握って、私を狂わせるのはこの子ねと笑った。二か月前の典子が信じられないくらい須貝に馴染んでいた。 静かに抱き合っていても須貝は昂ぶっていた。広子とは全然違う典子の体に酔った。肉の感触が違う。須貝に反発するかと思うほど弾力があるかと思えば、次の瞬間に須貝の体に溶け込んでくる。次元の違う体だと思う。高まる興奮の中で須貝は典子の体を抱きしめ、典子はその抱擁に抗うよに須貝の体にキスしたり軽く噛んだりしながら時を過ごした。 やがて予約の時間になった。須貝はワイシャツにセータを着た。典子はブラとショーツだけの体にそのまま茶渋色の少しゆったりしたワンピースを着けた。典子が須貝の方に体をまわした時、体がワンピースとは独立に動き、須貝はその下の裸身が動くように見えた。行こうと廊下にでた。 エレベーターで3階に降りた。カウンター席に座ると料理人が注文を受けていますと、さっそくビーフを焼き始めた。須貝がおいしそうだねと微笑むと料理人が、これは自慢の京都牛です、お楽しみくださいと言う。上品な匂いと濃厚な味だった。京野菜の焼いたものがおいしいと典子は喜んだ。 須貝は珍しく日本酒を注文した。ワインは?と典子が聞くと、日本酒もなかなかいけますよという。典子も飲んでアッおいしい、お肉に合いますね。最近こうしたお酒があるのですよ、主に外国に送られていますと料理人が言う。 日が沈んでも空は明るく京都の街の明かりが少し感じられる頃だった。鉄板焼きの席からは外は自由に見えない。料理と話に集中した。典子は野菜がおいしいとよく食べた。ご馳走様と熱い茶を飲んだ。もう十分頂いたわと言いながら典子は須貝の方を見た。 白熱灯の黄色い光が典子の斜め横から当たっていた。光の影でその表情がドキリとするほど美しく見えた。この人にこんな表情があったのかと、須貝の心がざわついた。典子の乳房あたりがなんとなくその輪郭を作っているくらいだったが、典子の体が動くと裸身が動いているように見えた・・・。この体を俺は抱いていたのだ・・・。 典子に見とれていると、どこを見ているのと視線が笑っていた。須貝は戸惑った。自分の気持ちを察しているようにも見えた。戻ろうかと言うと頷いた。 カードで精算して部屋に向かった。エレベーターの中で、典子は須貝に向かい、小さな声でエッチと胸を突いた。須貝の心がはじけて血が駆け巡った。 部屋に帰ると須貝は待ちきれず典子を抱きしめてキスした。典子も髪を振るように抱き付いた。須貝は背のジッパーを一気に引きおろし、ワンピースを取り去った。ブラとショーツだけの裸が現れた。もどかしい思いで典子を抱き上げベッドに運んだ。 着衣をとる須貝をベッドの上の典子は笑いながら見ていた。裸になった須貝がブラをはずした典子のショーツを取った。裸の男女が激しくキスし合いながら絡み合った。会話もしないで始まったベッドはいささか乱暴だった。 突然レストランで抱きたい欲求が湧き、エレベーターの中で弾けた。自分の心の変化を理解しているように見える典子に須貝の気持ちが沸騰し、血がたぎってきた。 典子は求められたらすぐに受け入れることが出来る体になっていた。貫いてきた須貝のものから熱気を感じ、股間が燃えた。脚をかけて腰を擦り付けると快感がすぐに湧いてきた。短時間にかけ昇ることができるし、長い時間をかけて交わることもできる。典子は源二が好きなようにすればいいと思っていた。 広く開いて須貝を受け入れた脚を伸ばすと須貝の両脚が典子を内側にとらえて包み込んだ。典子は窮屈な穴にペニスがねじ込まれてくる感覚に痺れた。 結合してわずかの時間で典子は口を大きく開けて喘ぎ始めた。一旦典子を貫いたら、須貝は余裕が出てきた。激情に任せて突き進むことはしなかった。抱き付いてくる典子を抱え込んだら、典子の体は須貝の体におさまった。すぐに応えてくれた典子が須貝にはたまらなくかわいく思えた。こんな人になっていたのだ・・と思いながら抱いた。 反転すると白い裸身が男の上になった。太い2本の腕が白蛇のような体をとらえ、赤黒いペニスが女の股間を貫いている。見え隠れするペニスの動きにつれて女の腰がくねる。 典子の脚が須貝に巻きつくときもあれば、須貝に巻きこまれるときもある。当初の乱暴さが消え、結合した二つの体は静的ともいえる動きに変化した。 この日一度放出した須貝は持続力があった。受け入れる典子も継続する力をつけていた。声を出さずに唸るような交接が続いた。 口を開けて、頭をのけぞらせる時もあれば、須貝の胸に頭をもぐりこませ抱き付くときもある。典子の感覚は頂上に近い領域にあったがそれが持続した。紅色に染まった場所が顔から乳房にかけて拡がり、下半身の白さが際立った。 時々典子がずり上がった。須貝が体をもとに位置に戻した。赤黒いペニスが蝶番になっていた。波打つようにうねる典子の腰の動きは官能的だった。 西山に残っていたわずかな空の明るさが消えてから、もう数時間が経過している。京都の街の明かりは輝きを増していた。その中で白と黒の蛇がつがい合った。鱗がこすりあわされる音が聞こえるかのようであった。くぐもった声だけが聞こえる。 重なった二つの体がベッドの上を照らすにぶい光の中でうごめき続けた。典子には強烈な感覚が体の底から湧くように上がってくる。それは一度高みに昇って墜落していくエクスタシーとは違うものだった。湧いては消え、また湧いてくる。 間欠泉が時々湧きあがるように続いた。こんなこと・・・なんで・・と腰がひとりでに動く。いつまで続くかのようだった・・。ああ、イイ・・。 熱い時間が経過していく。典子は両脚を開いて須貝の腰に巻きつけた。須貝のペニスは典子の体を深々と貫いてポルチオを圧迫して止まった。典子はタイミングを計って自らを解き放った。押し殺した声で震える典子を感じて須貝は腰を典子にのめり込ませるように動かして果てた。 ふぅ・・・・。 典子さん・・。 ・・・・・? ちょっと・・? ほんとね・・? 二か月前のことが頭にあった・・。 なんで急にそんな気になっの? 世間は・・・? あの時だったら・・・私も。 典子は源二を見つめていた。官能を解放した後とは思えない力が目の中に宿っており、今のままがいいと須貝の気持ちを拒んでいた。 ダメか? 須貝が典子の乱れた髪を掻き上げて、キスすると濃厚なキスが返ってきた。好きだというと、いまのままの典子を愛してといい、弾力のある乳房を須貝の胸に押し付けて抱き付いてきた。 この私を愛してくれる気持ちだけでいいのよ。 もう一度典子の上に重なり、抱きしめて乳房に唇をつけると、吸ってと体を源二に預け、須貝の髪の毛に指を絡ませ、源二は素敵・・・という。 事後の乳房は汗でしっとりとしていた。この乳房を誰にもやりたくなかったのだといって須貝は吸い付いた。いいよ・・このオッパイも私の体も全部が今は源二のものよ。 今だけでなく何時も・・。 典子・・・。 それからはただ抱き合い、キスし合い、夜が更けた。須貝のものが勃然と立つ時もあったがもう交わることはなかった。抱き合いながら話は続いたが典子の気持ちはかわらなかった。須貝が二か月前だったらなあ・・と言った。あの時なら私も・・と典子がいって笑った。惜しいことをしたなとついに須貝が笑った。そうね・・惜しかったわね・・。 また時間が過ぎて行った。ベッドの上の動きは続いていたがだんだん静かになりやがて須貝が眠った。須貝の寝顔を見ながら典子はぼんやりと考えていた。源二の言葉に迷うところがなかったといえば嘘になるが、答えは決まっていた。健吾と別れることはない。 小田原駅で別れた時の健吾の顔が浮かんだ。須貝のことを予想していたのだろうか、そんな気もする。だったらなぜ私をここへ・・・。やはり妻を取り換える話があったのだろうか。むかし佐藤春夫が谷崎潤一郎の妻千代に惚れて、千代を貰い受ける話をしたことがあった。あれは谷崎が小田原に住んでいた時の話だった。話は途中で壊れたがその後10年ほど経って佐藤は千代と結ばれた。10年経てば私は健吾と別れるのだろうか・・・でも健一はまだ大学にも行っていない時期だ・・・・。 お休み健吾、でも源二の告白はこれからの宿題になると思いながら眠った。 〈中之島〉 中之島と呼ばれるように、ここは旧淀川の中州である。ノートルダム寺院がセーヌ川の中州にあり、中州はシテ島と呼ばれている。そこがパリの中心だとパリジャンが自慢するように、中之島は大阪人の心の中心である。首都が東京に移って以来、大阪の勢いに翳りが出る。翳りは出たが、20世紀の初頭はまだ勢いがあった。その頃の様子を偲ぶことが出来る建物群が健在で、独特の美しさを今も持っていて、中之島は大阪人の心のふるさとである。 日本近代建築の創始者のひとりである辰野金吾の設計よる日本銀行大阪支店や、中央公会堂がある。辰野の設計では東京の日銀本店や東京駅も有名だが、中之島を須貝は典子に見せたいと思っていた。中之島はシテ島とほぼ同じ面積で、その町並みもよく似ている。そこを須貝は典子と歩いてみたかった。 仰臥した姿勢で両手を胸に置いて典子は眠っている。その横で、須貝も眠っていた。京都の夜は明けて7時半だった。 携帯のアラームで典子は目を覚ました。昨夜典子が設定した時間である。須貝の眼を覚まさせないようにベッドを抜け出して浴室に向かった。 シャワーを浴びて、丁寧に体をきれいにした。今日はホテルを出るからと思い、髪を洗ってブローしてから浴室を出た。ベッドを見ると須貝はまだ寝ていた。可愛いと頬にキスすると須貝が動いた。バスタオルだけの典子が立っているのを見た。 お目覚め? 今日は大阪を案内してくれるのよね。 須貝はあわただしく浴室に消えて、しばらくして出てきた。典子はバスタオルをはずしてベッドに横になっていた。窓からの逆光の中で典子の裸の輪郭が光って見えた。 ちょっとだけ来て・・。 須貝もバスタオルをはずして典子に並びを抱きしめ、キスすると典子は静かに応じた。シャワーの後の湿り気を帯びた肌が気持ちよく、須貝のペニスが立ってきた。典子はそれを押さえて、これはいいのよという。 すこしの間だけ抱いて、また始めると歩けなくなる・・。 ホテルは9時前にチェックアウトした。タクシーで京阪三条に行き、電車で淀屋橋に向かった。沿線には水田が市街地の中に残っており、稲が刈り取られたあとが空地のように見える。大阪に近づくにつれて町屋が増えてきた。 市内に入ると電車は地下にもぐり、終点の淀屋橋で降りる。地上にあがるとそこが淀屋橋の南詰で、前の道路が御堂筋である。 橋を渡って川向うが日本銀行大阪支店旧館ですぐだった。新館は旧館の裏手に作られ、東京の日銀本店と外観は同じ造りで特徴がない建物だった。 日銀の向かいが大阪市役所でそこから日銀旧館正面がよく見える。低い建物だが、ネオ・ルネッサンス様式だ。須貝はこの建物は1903年に作られたが、1980年のはじめに補修工事が行われたことを話した。 補修といっても外壁だけが残され、内部は完全に改変され、大階段と貴賓室が残されたくらいだと言う。内部見学できるのかと典子が問うと、予約すれば出来るが、係官の説明は主に日銀の金融面での役割について話すのだと言う。 東京の日銀本館は大阪支店が出来る少し前に作られた。硬い感じの建物で、丸いドームのある支店の方が落ち着いた綺麗さがあると須貝はいう。丸いドームを真ん中に左右に四角錐のドームがあるが、四角錐型の部分はあまり目立たない。向かいの大阪市役所の玄関に移動して眺めると全体がよく見えた。 須貝は建物を見ながら楽しそうだった。ものを見るにはそれなりの知識が必要だ、そうしたものを持っていない自分は須貝とは違う見方をしているのだと思うと典子は少し残念な気がしていた。 あなたは知識があるから、楽しそう・・・。 須貝の建築についての説明を受けながら中之島を歩いた。島は二つの川に挟まれ、その水辺を須貝と並んで歩くことが出来るのはうれしかった。 市役所の建物から歩いてすぐのところに日銀大阪支店とほぼ同じ時代に建てられた中之島図書館がある。住友家の寄付で作られたもので、イギリス風の重厚な正面玄関が眼をひく。ここには開設に当たってたくさんの図書や資料が寄付されていて、近世の大阪の歴史が詰まっていると正面玄関で須貝の説明をしばらく聞いた。 更に東に行くと中央公会堂がある。ここは100年ほど前に大阪の相場師で有名だった人の寄付で出来たもので、勿論ここも辰野金吾などが設計に絡む建物だという。絡むってどういうことと典子が聞くと、設計は別の人で建設全体の責任者が辰野だという。 更に須貝は平成になって公会堂の耐震性が問題になり、取り壊す話があったが改修することになったことや、その大改修に関する技術的な話を始めた。典子が戸惑ったような顔をしているのに気付いた。 ごめん、ちょっとしゃべりすぎた…。 そういいながら典子は別れた恋人のことを思いだした。あの人と同じだ・・。話し方がそっくりで・・・と思う。 昼は改修時に増築されたレストランを利用した。品数はないが歴史的建造物の中での食事と思うと面白い。 昼食のあと、コーヒーを飲み公会堂を出た。そこからさらに東に向かうと島の幅が狭くなり、両方の川が見える。島を跨いで走る難波橋が見えてきた。石造りの橋だと思った。須貝はこの橋の由来を説明した。 1900年のパリ万博でシテ島の先端に建設されたアレクサンドル3世橋を参考にして、万博の12年後に難波橋が建設された。景観を考えて建設したために石造り風にしたこと、そうしたことをまた例の調子で説明し始めた。その話は典子にもよくわかった。 そこを抜けてさらに東に行くと、途中が小さな橋になっており、その先は人工の島だと思えた。このあたりは川の浚渫の際に出た土を利用した埋立てだと須貝が説明する。このあたりが剣崎と呼ばれる、左手の岸に桜の並木が見えるでしょう、あそこからずっと川岸には桜の樹が多く、さらに行くと造幣局の通り抜けに続いていますよ。 通り抜けって、あのボタン桜で有名な・・・? いや、東京も好きです。建物としてはやり東京でしょう。でもね、かつて全国を制覇した大阪を感じることが出来るここはとてもいいところだと思っています。関西が好きなのは祖父が福知山の出身だからかもしれないけれど・・。 釣り人の姿が見えるわ、何が釣れるのでしょうね。 遊覧船のようなものも見える。ああ・・素敵なところね。 水の都といわれたところですから・・。むかしの地図では大阪は水路だらけですよ。でも埋め立てられて今はほとんど残っていない。保存しておけば、いま頃は世界的に有名な都市になったものと思いますが。人は先のことがあまり考えられないのかなあ・・。 そうですよね。 須貝の説明を聞きながら、近江八幡の水郷をあの人と船で下ったこと思いだしていた。人は先のことがわからない・・・。今頃どうしているのだろう。友達の話では大学に席を得たあとまた2年ほどカナダに留学していたとか聞いたけれど・・・。あの人は大学院の途中でスエーデンに行ってしまい、その頃から疎遠になってしまったのだった。あの人が悪い訳じゃない・・・。偶然の積み重ねが人を押し流していく・・・。ぼんやりと遠くを見ていた。 ・・・・何か? いえ、ごめんなさい。 あなたに私の話が飽きられたのかと・・。 ほう・・昔の話。 建築の人? でも、思い出す人なのだ・・。 いいの、今は遠い人だから。 剣崎から引き返してまた難波橋の下まで戻ってきた。 なにわ橋駅から京阪中之島線に乗った。終点は三つ向こうの中之島駅で、すぐだった。地上に出ると左手に大阪の中心地には不釣り合いな巨大空間があって典子は驚いた。 ここをどうするか決まっているのかしら? そんな話をしながらすこし歩くとホテルに着いた。部屋は20階で、窓からは先ほどの巨大空間がすこし遠くになり、川を隔てた新規ビル群が目の前にあった。堂島川の水面が光り、大阪平野を越えて北部の山並みが遠望される。 学部時代に親父に連れられてここを見に来たことがあるのですよ。まだ古い建物が残っていて、これが壊されて新しいものが出来ると説明してくれましたがね。 大きな開発に興味はおありですか? こうした開発はオリックスなどの巨大資本が絡むこと、そこと関係のあるデベロッパーが取り仕切ることなどの仕組みを説明し、ここに歴史に残るものが出来るかどうか、難しい問題だという。 夕刻までの長い時間を須貝は都市開発の問題を話した。自分にはかかわりがないといいながら、熱心に話すのを聞いていると、典子は須貝が若い頃にはそうした分野に進むことを考えていたのかと思う。 人はどのように路を選択するのだろう。須貝がその分野に進んでいたらこうして出会うこともなかった。またふと、あの人とはどうして別れたのか・・などと思いめぐらせながら話を聞いていた。話は尽きなかった。 ホテルの部屋に入ってすぐに抱き合わなかった。須貝が求めれば応じたと思う。須貝が求めなかった理由は分からない。昨日典子は告白を受けた時、健吾とは別れないといったことが原因だったのだろうか。 夕食はホテルを出て、キタの新地の料理屋だった。刺身のおいしい処で、須貝はお酒をかなり飲んで上機嫌だった。その上機嫌さは、典子が思うようにならなかったことへの裏返しなのか、典子は複雑な気持ちで須貝の話を聞いていた・・。 何か・・? 健吾のこと・・。 酒が切れた。須貝が何か注文した。 いい酒です、いかがですか。 それぞれの造り酒屋は、大手と協定して造る一定量を確保するのです。そうすることで経営が安定する。その場合は大手の注文通りの酒を造るのです。しかし自分のところの独自のものも作るのですよ。 おいしい・・。 そして酒の歴史を須貝からたくさん聞かされた。室町時代から明治の時代までの話が典子には驚異的な内容だった。須貝の知識の量にも驚かされた。 どうしてそんなに・・・、お酒の方まで知識がおありですか。 私たちの仕事は建築そのものに関する知識以外に、古い時代のことを知らないと仕事にならないのです。モノを見る目がないと・・・。もっと勉強しなければなりませんが、こればかりは師匠が居ないと・・・難しいのですがね。私の師匠は父親でしたが、あまりレベルが高い人ではなかった・・。仲間との付き合いでぼつぼつです。 そしてまた古民家についての話を聞いた。 料理屋を出て、もうちょっと飲みませんかという須貝に、もう十分頂いたから帰りませんかというと、そうですねと素直だった。タクシーでホテルに帰り部屋に入ると、少し飲みすぎたみたいだ、典子さんの忠告がよかったという。 典子と呼んで・・。 須貝の心がまた前の状態に戻ったと思いながら、着衣のままベッドに倒れ込んでしばらく抱き合っていた。 少し酔ったみたいね。 お水飲みますか? 起きあがって氷水の入ったジャーから水を取り、須貝に渡すとうまそうに飲んだ。 おいしい・・・。 立ったまま典子は聞いた。 大きな仕事をするプランナーになりたかったの? 大きな事業も面白いでしょうけれど、全体的にはまとまりがつかないまま進んでいるようで、気になります・・。 そういってくれるとうれしいが、それでも壊しているのですよ。 今日はたくさんお話しを聞いたわ、お風呂に入りませんか。 昨日京都で須貝に一緒になろうといわれ、断ったが、須貝が好きなことに変わりはない。今日はその延長でよいと思った。 典子はぬるめの湯を張った。典子は背中を須貝の方に向けて抱かれた。須貝は典子の乳房の上に手を廻し、抱き寄せ、ぬるめのお湯で疲れがとれるという。今日はいろいろの話を聞かせてもらった、あなたと一緒に来て面白かったという。典子の肌はお湯をはじいて見事だった。須貝は唇をつけた。典子は須貝の肩に頭を乗せると須貝の唇が首筋を這い、乳房が揉まれた。気持ちが昂ぶってきた。 ねえ、源二。典子の大切なところ洗って・・。 須貝の指が侵入してきた。 こんなことさせながら、須貝さんとは呼べないよ・・。 首筋に唇を這わせながら須貝は典子の股間に伸ばした指を動かした。典子は脚をひろげて須貝の指が動かせるようにした。だいじなものを扱うように須貝は繊細なタッチで洗った。あぁ・・とため息のような声を漏らしながら指が動くのに任せた。指が中に入る時もあった。だんだん股間の感覚が強くなっていく。 たまらず向かい合って須貝に抱き付いた。向かい合って激しくキスをした。やがて須貝は典子の体を持ち上げるようにして乳房を吸った。乳首ははじけるように立っていた。のけぞった典子の腹部に唇を移し、さらにその下に唇を持っ行く。典子がタブに手をかけて体を浮かせ須貝から離れると、須貝の口は典子の股間を捉えた。先ほど須貝の指が入っていたところに舌がうごめいた。鋭い感覚が湧いてきた。 しかし典子はそこまでで止めた。ねえ、上がりましょうというと須貝は立ち上がり典子の体を引き上げて立たせた。 体を拭き合って、裸のまま典子はベッドに向かったら、須貝は入口のドアのほうに歩いて室内灯を全部消した。えっ・・と思って振り返ると須貝は外を見せましょうという。須貝が窓のカーテンを全部開けた。外にはほたるまちの明かりで一杯だった。 きれい・・・。 後ろから典子を抱き、両手で乳房を覆った。典子は振り向いて須貝にキスして、またほたるまちの光りに見とれた。ほたるまちの光りを受けて典子の顔が窓に映っていた。 あの高い建物が、ザ・タワー大阪、その下に見える低い建物が朝日新聞とABCホール。少し遠くに見えるのは梅田・・大阪駅のことですよ。そのずっと向こうは神戸の街の明かり。神戸の街の上に暗いけれど灯が見えますよね。あれは六甲の山並み・・・。 遠くまで見えますね。 夜半過ぎは荒れるかな・・。 カーテンを開け放ったまま二人はベッドの上で抱き合った。星空の明かりだけの室内だった。須貝に組み敷かれながら、典子は窓の外を眺めると星が綺麗だった。北の空に輝く星の中には北斗星もあるだろうが詳しい星の名前は知らない。須貝の唇が体中に這いまわることを感じながら、遠くを眺めていた。 あの人はどうしているかと思った。10数年前の記憶が、須貝の唇が下肢のつけ根に来た時さえ、消えなかった。今日一日ずっと聞かされた須貝の話から、あの人との思い出がどうしても蘇ってくる。楽しい思い出もあったが、それだけではなかった・・・。その別れ方が気になっていた。源二に似ている・・どうして別れたの・・・いまさら考えても仕方ないけれど・・・。 須貝の舌が典子の中心を捉えた時にようやく典子の意識が転換し、気持ちがやっと須貝に向けられた。 源二・・、イイ・・。 須貝はクンニの途中で時々顔を上げて典子に話しかけた。 典子は海のような人だな・・・。 ねえ、来て・・。 須貝は体を起こして典子の両脚を割った。 典子・・・。 50歳を超えた男には、放出が重要ではない。このヴィーナスのような人を抱いていることがうれしかった。ワンピースの中を想像した時の感覚が蘇った。その体を抱いている・・・。ぐんと自分のものに芯が通り、荒々しく立ち上がるのを源二は感じた。典子は両脚をひろげて迎えて、すぐに両脚を須貝に絡めて抱き合った。 キスし合いながらゆったりとするのが好き。 そして京都の夜が再現された。時折典子が伸びあがるように体を反らせた。須貝が引き戻し、抱きしめる。またしばらくすると典子が反って伸びあがる。 長い時間須貝が上になってゆっくり抽送しながら典子の体を撫でまわした。ゆっくりした交合でも確実に芯を捉えて離さない須貝のテクに典子は酔っていた。 そして反転して典子を乗せた。典子は須貝に抱き付いて頭を須貝の胸に密着させ、腰だけを前後にゆっくり動かした。蛇の交合に似た動きをしながら典子は須貝に没頭した。眼を閉じ、眼をつむって集中する典子を須貝は上手に扱った。 しばらく動きが止まる時もあったが、また始まる。典子と源二の腰のうねりはいつまでも続いた。ゆっくりとしたストロークを続けた。ゆっくりしたセックスが好きと典子はまたいった。 典子の体の震え方や息遣いから須貝は典子が連続するエクスタシーを経験していることがわかっていた。・・それを連続させている・・・。 星明りだけの暗い室内で典子の顔は明るいところでは見せることのない顔貌だった。顔にしわを寄せて震え、須貝にしがみつきながら典子は体が溶けはじめたと感じていたが、腰だけは動かしていた。 やがて第一波と言える時期が過ぎた。典子は少し落ち着いた。須貝は進行の度合いを調節しながら、ゆったりとするときもあり、アクセルを入れる時もあった。緩急が自在で典子は夢幻の世界をさまよった。 波の底に来たときに、源二・・・たまんない・・と典子がいう。もうどこへ行ったらいいのか分からない、源二・・何とかして・・という。くぐもった唸りが典子の口から洩れている。・・・ねえ源二・・ねえわたしどうなるの。 須貝はそろそろだと判断し、反転して典子の上になり腰を強く押し付け、ペニスを数回深く突いて体重をかけた。・・・・典子はこれを理解しているはずだ。 ホテルの部屋を意識しているのか典子は低く呻きながら身をよじり、全身を震わせて須貝に絡みついた。同時に須貝が解き放った。膣の奥に広がる熱い感覚はフィナーレを告げるものだが、それは典子が待ち望んでいたものだった。爪を須貝の背中に食い込ませながら押し殺した唸り声をあげた。 長い沈黙が続いたあとに典子は須貝に話しかけた。 源二・・・・。 また逢いたい・・。 京都で俺の言ったことが引っ掛かるのか・・? ぼそぼそと会話が続いた。典子が須貝を抱きしめキスする場面もあった。須貝の大きな手が典子の腰を抱いて、乳房に唇を這わす時もあった。余韻はまだ体の芯に滞留していた。また燃え上がるかのような動きもあったが、二人の気持ちは徐々に鎮まって行ったようだった。 先に眠りに落ちたのは昨夜と同じく源二だった。典子はそれからシャワーを使い、裸のまま窓辺に立ち「ほたるまち」の夜景を見た。遠く大阪北部の灯がびっくりするほどきれに瞬いていた。あの光の中に自分のような生き方の人もいるだろうかと思いながらカーテンを引いた。室内灯を点けて須貝に寄り添って横になった。 この人の気持ちを受けなかった・・しかし私を想ってくれる気持ちがうれしかったから体の芯に響くセックスになったと思う。須貝の気持ちを受け入れたらどんなことになるだろうか・・。そう思いながらも受け入れることなど出来る訳がないと思う。 これからも健吾が許せば須貝さんと逢うだろう・。今と同じような気持ちを保てるだろうか・・。須貝の寝顔を見ながら典子の心は揺れた。 外は大荒れになっていた。窓を叩く雨の音が強くなり始めていた。夜半過ぎから天気は崩れた。 〈あべのハルカス〉 雨がホテルの窓を叩いていた。雨のホテルか・・と須貝はつぶやく。 別荘だったらどんな風景になるのだろう・・。 昨年完成したあべのハルカスをまだ見ていないと須貝はいう。昨日の中之島東部とは違う超近代的な建物だと言う。朝食をホテルで済まして出かけた。地下鉄を利用できたので、天気は問題にならなかった。 出来上がった大阪の町の真ん中にこんな巨大な日本一のビルを作る苦労を須貝が説明した。耐震構造の新機軸が詰まっていることを典子でもわかるように説明した。ビル建築の技術が高度に発達し、もう何でもできる気がすると典子は言う。そう、耐震理論と技術が非常に発達したからね。しかしどこまで建築技術が発達しても人間の心がそれについていけなかったら意味はない・・そんなことを時々思うと言う。 ビルの中にあるハルカス美術館に寄ってみた。フィラデルフィア美術館から浮世絵が里帰りしていていた。展望台にも上った。建物は60階作りで59,58階も含めた3層の展望台が売り物で、予約しないと入れない日もあるくらいの盛況ぶりだが、この日は嵐でさすが入りは少なかった。晴れていれば京都あたりも見えるという。 建物内部はなんとなく冷たい感じのする構造ね。 典子は母親に関西の土産を買いたいと、地下に降りていくつかの品をそろえた。昼食を一緒にして、新大阪に出た。午後の2時過ぎだった。丁度14時43分のこだまがあることは知っていた。須貝は同行して京都まで行きそこで降りた。まだ仕事が残っており、先日厄介になった京都の同業者が明日再び古民家の調査に同行してくれるという。 〈典子を待つ健吾〉 ん・・と典子の顔を見てどうしたと言う。いえ、ちょっと・・・と誤魔化した。 たのしかった? 健吾は真面目な顔で、帰って来てくれてありがとうといった。典子は立ち止まった。健吾、考えていたのと聞いたら、帰ろうよとだけ言って歩き出した。 西口の駐車場に向かった。車内で二人になるとなんとなく話題がない。困ったなと思っていると、健一を迎えに行こうと健吾がいう。健一のことを忘れていた・・。迷惑かけなかったかしらと言ったが、取ってつけた言葉だった。父と母に大阪のお土産があるから丁度良かったと誤魔化した。私は何を考えているのだろうと思う。 母は典子の姿を見て、少し太ったかね、それにしても地味な格好だよと笑う。父が顔を出して、典子ももう中年か・・・とからかった。健吾は健一がお世話になりましたと挨拶すると、こちらは健一が来るのを楽しみにしているから、いつでもどうぞという。健一を中にして少し話題が出来たのでほっとした。 急いで夕食のしたくをして、実家での健一の話を聞きながら、何とか食事の時間を過ごした。10時を廻って健一は寝た。風呂に入って寝室で健吾と向き合った。 わたし、あれから健吾ときちんと向き合って来たよね。 場合によっては俺と別れることになると考えていた? それで社長はどうだった? ベッドで・・・?・・・素敵だったよ。 他には・・。 須貝さんに告白された。 うれしかったか? でも健吾とは別れないといったよ。 健吾は私がここから出て行ってもいいの・・? だから試したの・・・。 結局は自分で決めるものだからな・・。 壊れるかなあ、でも壊れたら二人の責任だね。 どうしてそう思ったの。 離婚はいま増えているよ・・・。 わたし須貝さんが好きよ。 いいけど、典子は俺が好きでなくなったの? 健吾がなぜ自分を須貝と一緒に旅行させたのかまだ真意が掴めない。燃え上がることは分かっていたはずだ。私は踏みとどまったが何処まで健吾は自分を理解しているのか・・・典子は測りかねた。 変な顔だが、まだ何かあるのか・・・? ほう、危険だったのか? ・・・・してもいいよ。 健吾は典子を抱きしめた。健吾の胸に顔をうずめて典子は黙って健吾に抱き付いた。健吾はこの体が社長と激しく絡み合った体かと思うと妙な気がした。嫉妬とは違う気分だった。じっと抱きしめていると典子が顔を上げて健吾を見た。しないのかと聞いている眼だった。 眠ってもいいよ。 典子・・心が揺れたの。 やがて眠った。そんなに疲れていたのか・・・と少し胸に感じた。 第3話 完 |








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