小田原物語 第2話_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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小田原物語 第2話

17-02-13 03:58

第2話
〈取り戻した二人の生活〉
話し終わった日から健吾は何も言わない。健吾の性格から考えて怒っているとは思えない。しかしどう話しかけたらよいかわからず気詰まりな夜が続いた。隣に寝ているのに健吾は典子に何も声をかけない。典子はどうしてよいのかわからない。

それは健吾も似たようなものだった。想像以上の話を聞かされ、典子がそこまでのめり込んでいたのかと思うと、自分が典子にこれまですまなかったという思いと、社長との性を体験している典子に自分が対応できるかと思う気持ちがあった。典子のことだから声を掛ければ抱き合うことになるが、どうしようかと迷っていた。垣根は意外と高かった。

そんな日がさらに続いたが、典子の方が垣根を越えてきた。或る晩健吾の布団の中にもぐりこみ、黙って健吾の胸に顔をうずめた。健吾は戸惑う気持ちがあったが、もぐりこんできてくれてほっとした。

典子がキスしてきたので応じた。しばらくお互いは無言でキスし合った。典子が抱いてという。俺でいいのか・・と言葉が出そうになったが、それは呑み込んだ。返事に困っていると、健吾・・なにか言ってと言う。

うん・・。
気になるの・・?私が須貝さんに抱かれたこと・・?
いや、それはない。それは俺が仕掛けたことだから。
でも・・社長さんとあんなことになったから私が嫌になったんじゃないの・・?
そんなことはないよ・・・典子は好きだよ。
どうして抱いてくれないの・・?

試されるのかと思うと・・。
いやだ、やっぱりそうだった。

いや、そうではないが・・。
そうだよ、でもそんなことを気にされたら典子はどうしてよいかわからない・・。

いや悪かったと向き直り、改めて抱きしめた。典子にキスしながらパジャマのボタンをはずした。量感のある典子の胸が現れた。抱くと乳房が健吾の体との間でグニュと動いた。健吾がパジャマを脱ごうと典子を離したら典子は起き上がって自分からパジャマの上を取った。鈍い光の室内灯の中に浮かぶ妻の上半身を見て、この身体を社長が抱いたのだと思うと不思議な感覚になった。ふと社長に組み敷かれて乱れている姿が浮かんで来てぼんやり見つめていると、何よ・・・変な眼で見ないでといいながら典子は下も取った。現れた体はやはり見事だ。

いやきれいだと自分の気持ちを誤魔化して、覆いかぶさって乳房を噛んでいると典子がクスッと笑った。顔をあげて健吾が、なんで笑うと聞いたら、いや悪かったといわれて始めるセックスってなんなのという。

確かにおかしいな・・。何と言って始めたらよかったかな・・?
健吾らしいと思うよ・・。
俺らしい・・・?
うん・・・どこか一歩下がっているところよ。
社長は積極的だったのか・・・。
社長さんのことはいわないで・・・何と答えていいかわからないから・・。
ごめん・・。
私こそ・・ごめんなさいね・・健吾に何と謝ったらいいのかわからない・・。
謝ることはないさ・・・俺が持ち込んだことだから・・。
でも・・・。

十年も慣れ親しんだ二人だからスタートすればあとはどうということはなかった。典子は結合してからは目をつぶり健吾の動きに合わせて体を動かした。その典子の姿は何かを思い出しているように健吾には見えたが、何も言わなかった。しばらくぶりだったので健吾もエネルギーに満ちた体だった。熱気のこもった交わりになった。やがて唸りながら典子は体を震わせ二度頂点を突き抜けた。一度目は頭の中に靄がかかったみたいだと言ったが、二度目は燃える・・赤く燃える・・といって頂上に駆け上がった。

一度目から二度目への移行は力強かった。低く唸りながら健吾の体に両脚を絡ませて、湧き上がってくる感覚を切れ切れに健吾に告げた。一度いった後の持続する時間も以前とは違った。健吾は頑張ればまだ続けられるように思えたが、根負けして健吾がいきそうだと告げると、ぐっと突いて・・・といって典子は強く抱き付いた。

これが典子の話したフィニッシュの場面だと思い、ペニスをポルチオに押し付けたら典子の紅潮した顔から色が消えた。体が震え、緊張した顔になりギィっと声を出して頂上に駆け上がった。それを見て健吾が気を遣ったら典子の体が反り返った。

健吾の腕の中で目を閉じてじっとしている典子は確かに変わった。典子が話した通りだと思い、むしろその正直さに感心した。やがて息のおさまってきた典子にそのことをいうと、はずかしいと言う。

たった三日でそんなにも変わったのか?
・・・・うん。
凄いものだ・・・。
二週間もしてなかったからよ・・・・。
以前レスの期間が続いた後にした時・・こんなにならなかったよ。
うん・・・。
社長に仕込まれたのだ。
いや・・そんな言い方。
でもやっぱり社長の方がいいのだろう・・。
健吾・・比較するの・・いやよ。

ごめん・・ちょっと妬いたのかも・・。
健吾は健吾よ・・。
でも変わるものだ・・。
なんか・・筋道が出来たような・・そんな感じ。
そんなものか・・。
ええ・・こんな感じのあと次はどうなるか・・というような・・。
それを体得した・・。

変ないい方・・。
いや、興味があるのさ。
興味があるって・・?
いまなら典子は誰とでもそうなれるのかなと・・ふと思って。
それは試してみなければわからないじゃない。
試してみたいか・・?
・・・バカ。

また以前の二人に戻ったと健吾は思った。少しばかり時間がかかったなというと、ごめんなさいねと典子が言う。何を謝っているのか聞いたら、私だけがいい目をしたのかしらという。じゃあやっぱり俺の三日間を話すべきだなというと、やっと聞けるのね・・・と典子がちょっと安心したように笑った。

〈健吾と広子〉
それじゃあ・・と言って健吾が話した内容は次のようなものである。

台所に通ってから、お茶の用意がしてあるねと広子さんは自分でお茶を淹れた。向かい合って飲んでいると、睨みあっているようで変だから健吾の横に座りたいと席を替わってきた。腕を絡めて、とうとう健吾を掴まえたと言う。

私こそ掴まえたという気持ちですよ。入社した時に憧れた人だったから。
なにを言うのよ、その時健吾さんは新婚ほやほやの時じゃない。
会社にものすごい感じの良い美人がいると思ってうれしかった。
おや、ありがとうね。その人を10年以上も待っていたわけ?
そう、憧れの人だった・・。
声をかけてくれたら何とかなったのに。
適当なことを言わないの・・。でも、今日は感激です。

典子さん、昔とちっとも変らないね。もっと磨きがかかったわ。源二が策を練るはずだわ。
策を練るって?
今度のことよ。
・・・・・?

健吾さんが顧客の希望を取り違えた時からの話だけど、しばらくして源二がスワップを持ちかけたでしょう・・?
やっぱり、社長の策ですか?
私もかんでいるの・・・。

源二が、健吾さん夫婦ことが気になる・・夫婦仲がうまくない・・どうしたものかなと言うの。よく聞いてみるとセックスのことじゃないの・・・私はすぐに自分の経験からスワップを思いついたの。もとは私よ。
へぇ・・。

源二もそれを考えていたみたいだったから、話はすぐ決まったわ。私たち夫婦もそんな時期からの脱出がスワップだったから。その話ぼちぼちするわね。それより夕ご飯食べない?

夕食は典子が作っておいた和食メニューだった。広子は和食党と自分でいうほど和食が好きだったから喜んだ。サワラの煮つけ、ホーレン草のおひたし、オクラをさっと煮て味を含ませたもの、胡麻豆腐、キュウリの漬物などを冷蔵庫から取り出して並べた。

ご飯は時間を計算して炊き上がったばかりだった。味噌汁は温めるだけだった。健吾はビールを出して、乾杯といきますかという。なんの乾杯?二人の出会いだよ。まあそうしておこうねとグラスを空けた。

でもわたしビールはあまり飲まないの。
お酒は? 
いや今日はやめておくわ。健吾さん飲むなら飲んで。

じゃあアルコールはこれだけにしようといい、健吾にしては早めの夕食を済ませた。広子を先に風呂に入れ、健吾は寝室の準備をした。ほとんどは典子が整えてくれたから、単に布団を敷いて、その上に畳表を敷いて、タオルケットを出すだけだった。お先にと言って広子が風呂から出てきた。パジャマ姿だった。

あら畳表ね、これ涼しくて気持ちがいいの。典子さんの心遣いねとその上に大の字にねそべった。じゃ僕も風呂に入りますと健吾も入り、二人で並んだのは7時ころだった。まだ明るい時間だった。

少しお話しようか、それともしたい?
俺、そんなにがつがつしているように見える?
じゃ、お話ししましょう。健吾さん、これからあなたをなんて呼べばいいの。

健吾でいいですよ。
いいの?そう呼びたかったけど。
いいですよ。あなたをなんて呼ぼうかな。奥さんでいいですか。
いやよ、広子にして。
事務所で使っている通りじゃだめ?
広子と呼んで。私がうれしいから。

無理だよ。
私があなたを健吾と呼んで、健吾が私を奥さん?
うん。
いやよ。若い男との不倫みたいで。
そのほうが燃えるかも・・・。
バカ言わないで、広子と呼んでよ
難しいなあ・・・。・・努力してみる。で・・お話というのは?

私・・魅力ない?
なに言っているのですか, この話に乗ったのは広子さんが同意していることを知ったからですよ。
健吾が抵抗していると源二から聞いたけど?

いや、典子の説得が難しかったから。
そう・・私が齢だからあなたが嫌がっているのかと思った。
そうじゃないですよ。

ああ、先ほどの話に戻るけど、源二が策を練ったけどそれが全部じゃないと言ったわね。そこを説明するね。

〈広子の打ち明け話〉
10年ほど前に源二と喧嘩して実家に帰っていた時のことだけど、その時わたし浮気したの。
嘘だろう・・?
ほんと。喧嘩の原因はその前の源二の浮気にあったのだけれど。

でもそれが原因ですぐに実家に帰ったのではなかったの。しばらくブスっとしたまま一緒にいたけど、急に源二とのセックスが嫌になり、それからしばらくはレスの状態になり、ふらっと子供を連れて実家に帰ったの。

離婚すると決心したわけではなかった。父は私に離婚するのかと聞いたわ。今は考えていないと言ったら、私には黙って源二に会ったと後で話してくれたわ。その時源二は父に謝って、離婚するつもりはない・・時間をくれと言ったそうなの。

まあ娘が離婚するのではないというので安心して放っておいてくれたということなの。孫が近くにいるのもうれしかったからでしょう。

私は時間を持て余して友達が経営するバーに時々飲みに行ったりしていたわ。友達には事情を話したので気楽に行けたのよ。何回か行っているうちに源二くらいの年恰好でいい男が、よくここに見えますねと言って話しかけてきたわ。

話題は豊富で楽しかった。それで仲良く一緒に飲むことが多くなったけど、浮気するつもりなどもちろんなかったわ。

友達は、広子・・気をつけなよといってくれたけど、そのつもりがないので平気で話していたわ。でも気分がイライラする時があって、とうとうホテルに行ったのよ。その男は家庭もちだった。私も結婚していることを話したの。何回か行くうちにベッドの上でお互いの家庭のことも言うようになり、わたし源二の悪口をいったの。

話が転回したのはその時よ。君は須貝の奥さんかと言うの。私は源二を知っている人と寝たわけ。飛び上るほど驚いたわ。その男もそれから態度が変わって、失礼したというの。

彼は源二と同じ大学で2年先輩だった。仕事も同じで勤務先は東京にあるが、現場がこの町に出来ていまこちらに来ている、源二のところにはもう挨拶に行ったというの。

その時私が居なかった訳ねというと、そう、妻は父親の体調が悪いので手伝いに行っていると聞いたというの。その方、私たちの結婚式には来ていたの。私とも話をしたと言うけど、わたしの記憶は曖昧だった。彼もその後外国出張などがあり交流がなかったので私のことがわからなかったみたい。

源二はなかなかの人物で、こんなことしちゃいかん、わるかった、何とかするというの。腰を抜かすほど驚いたのは私の方よ・・。

それから彼は源二のところに行って、奥さんとたまたまバーでお会いして聞いたら喧嘩していると聞いた・・とかいう話で話を切り出して源二と私の仲を戻させることをしてくれたの。

源二が父に会って元に戻りたいということが伝えられたの。私も離婚するつもりもないから父から促されて源二と話し合って戻ったの。夜の生活も復活したけどなんということもないまあまあのものよ。

戻って何か月か経った頃、スワップの話が出たのよ。聞けば相手はその人じゃない。びっくりしたけど抵抗感は当然なかったわ。私が簡単にOKを出したものだから源二が意外そうな顔をしていたのを覚えている。

でもね、実際彼と過ごしたあとが困ったわ。ちょっとの間だけどすごくいい時間だった。源二との間にはなかったセックスだったのよ。浮気でホテルに行った時とは全然違ったの。

浮気の時はただ繋がって欲望を鎮めるだけだったけれど、本当の男女の性を経験したという気持ち。芯から好きあった男と女の関係みたいだったのよ。それはその人の努力だったけれど・・・。

私の考えはその時変わったの。自分と亭主だけの世界に埋没して亭主との小さなことにこだわるより、もう少し大きく構えたらいいと思えたの。源二にそのことを話したわ。これからいい関係を作りたい・・私ももっと積極的に生きていくからと言ったわ。すべてが初めからスムーズにいったわけではないけれど、大筋ではうまく行くようになったのよ。

だから典子さんも一度経験してみればいいと思ったのよ。新婚の頃はお互い体が新鮮だからそんなことを考えなくてもいいのだけれど、一定の時間が経つと、きちんとしないと惰性になって、悪くするとそのままずるずると面白くない関係になるの。いまそんな時期だよ、健吾たち。

私、源二は典子さんの相手が出来る男と踏んでいるの。でもね、源二は健吾と典子さんのためなんて言いけれど、典子さんの体も求めているの。そりゃそうでしょう、典子さんは源二と十五も年が離れているのよ。それに私と違ってぴちぴち、姿かたちが最高。源二が熱心なのは当然だわ。

それはわかっているけどそれでいいと思っているの。典子さんは源二に徹底的に愛されるわ。源二に抱かれて健吾では味わえなかったものを体験すると思う。ひょっとすると私と同じように別れたくないと思う程にね。

そうだったら帰ってきたときに典子さんかなり混乱していると思う。何も聞かないで放っておくことね。そのうちに体が元に戻ってくるから。妻が凄いセックスを経験したかどうか、どうしてわかるのかだって?バカ、顔見ればわかるわよ。

〈広子を抱く〉
恐ろしい話を聞かされたな。
そう、恐ろしいよ、セックスは間違えば命取りだからね。そこまでが話しておかなければいけないところかな。

何だか気勢をそがれて、縮こまって来たよ。
それじゃあ広子が困るのだけれど。やっぱり私は魅力ない?
いやそんなことじゃないさ、ただびっくりした。
じゃあ抱いてくれる?

そうあからさまに言うなよ、少しはその疑似恋愛みたいにいかないの?
嬉しいこと言うわね、じゃ広子と呼んで。
なんか難しそう。
私が好きじゃないの?
大好きだよ。昔から。

広子が健吾に抱き付いてきてキスし舌を絡めた。健吾も黙って応じた。しばらく抱き合いキスしながら、健吾は広子のパジャマのボタンを外し、乳房を出して吸いだした。広子はしばらくそのままにしていたが、ちょっとと言って起き上がり自分でパジャマを脱いだ。

ねえ、典子さんと比べたら見劣りするでしょう。
それは一回りくらい違うからさ。
正直に言わないで・・・少しは色を付けてよ。
いや、きれいだ、ほんとに。
なによ、バカ・・・。

横になった広子を健吾が抱いてまたキスが始まった。そのうちに健吾が広子のパジャマのズボンを脱がし、下着も取った。陰毛は綺麗に処理されていた。

源二の趣味よ、恥ずかしい、見ないでと広子が言う。いろいろ工夫しているのだねと健吾が言うと、ミレーナもつけているから安心してと広子が言う。

健吾は広子が夫婦関係について努力をしていることを感じた。そんな広子を相手にするのだから今夜は自分の力が試れるのではないかと思った。試されるといっても今までそんなこと考えたこともなく典子との生活をしてきたのだから、困ったなと言う思いがよぎる。

広子の体は典子より少し小さい。抱きしめて乳房を吸うとやっと健吾に抱かれたという。いい男だと入社のときから思っていた。しっかり抱いてねという。健吾はずっと乳房を吸っていた。

亭主以外の男に吸われるのもいいものねと広子が言う。吸って・・、朝まででもいいからといっていた。健吾は乳首を噛んでから、唇を脇腹や腹の方に移し、また乳房に戻って吸っていると、健吾がほしいというから挿入した。

健吾が頑張っていると広子はやがて額から汗をふきだしながら登りつめた。健吾は放出しないつもりだった。どこまでできるかわからないがとことん広子を楽しませたいと思っていた。

抱いてみるとほんとに可愛い女だと思えた。社長に対抗する意識があった。広子は健吾の腕の中で何回か登りつめたが、放出しなかった。俺も出来るじゃないかという意識が持ちこたえさせていた。

それにしても健吾は広子の反応に驚いた。何度も登りつめ、典子とは違う強い反応を示す。人によってこんなに違うのかと内心はおどろいた。

ああ何度もいった、健吾は頑張ったねと汗をタオルで拭きながら広子はいう。でもね、健吾はちょっと頑張りすぎ。源二に対抗する心があったじゃないのという。わかるのかと健吾が聞くと、なんとなくそんな気がしたのよ。

源二のことを説明したから健吾がまともに受け止めたのよね。でもね、無理しなくていいの、きっと今頃は源二も典子さんも楽しい時間を過ごしているのだから、私たちも気楽に楽しい時間を過ごさない?

私のためにと考えなくていいのよ。健吾が楽しかったら広子もうれしいから。そういって健吾にキスしてきた。しばらくキスし合ってから健吾がつぶやいた。

〈さらに続く広子の話〉
俺のセックスだめか?
そんなことないよ。広子・・何度もいったじゃない、気持ちよかったよ。
そうじゃない、広子さんが何度も登りつめていく姿にびっくりした。典子とは反応が違う。

それはね、人それぞれよ。
でも、迫力が違う。
何よ、迫力って。
登りつめた時の迫力。典子はすっと登って気持ちよかったと言う。そこが違うのだ。俺たち夫婦は淡泊過ぎたのかなあと思う。
そうかもしれないね。

あっさりいうなよ。どうしたらいいの。
それはね、簡単じゃないよ。ある程度努力や時間はかかる。私たちがそうだったから。まあ源二が典子さんに教えると思う。

教えるって?
教えるというより、源二は夢中で典子さんにのめり込むわ。その間に典子さんがセックスの醍醐味に開眼してくれるかもしれないということ。
いやだなあ。

何がいやなの。
典子が社長に抱かれて何度も何度もいかされるのだろう。
いいじゃない。
典子が社長と積極的にするの?
そうだよ。そうなるためにスワップを誘ったのだから。
・・・・・・。

何を黙るの・・・だったら嫌がっていた典子さんをなぜ納得させたのよ。
そう言われると困るけれど。
そうでしょう。もう始まっているのだからじたばたしないの。
・・・・・。

しっかりしてよ。でも広子は健吾とこうして過ごすのが夢だったからうれしいの。ごめんね、無理させちゃって。
とんでもない、俺だって夢のようですよ。憧れていた人だから。

ありがとう。じゃもう一度抱いて。またしたくなってきた。
まだできるの?元気だね。
一生に二度ないのよ、この機会。

乳房にはまだ張りがあり、乳頭は典子よりは色が濃いが形は良い。噛むとイイと広子は健吾の背中に手をまわして抱き付いていた。手を健吾のうなじに回して撫でている。冷房をつけているがやはり暑い。汗がにじむ。健吾は広子が可愛いと思う。

汗みどろになり乳房を舐め、腋下に唇を這わせた。抱きあって広子の眼を覗くとニッと笑って私どんな感じと聞く。素敵だよ、憧れの人だからと健吾が言うと嘘でもうれしいねという。

嘘じゃないよ、昔からだよ。
昔から抱きたかったの・・・?
そんなこと、社長の奥さんだろう。いいなと思っていただけだよ。
奥さんはやめてよ。
どう呼べばいいか・・迷うな・・。
広子と呼んでよ。

ああ、広子は昔から素敵だった。
やっと言ってくれたね。私とこうなりたかったの?
そりゃそうだよ、でもこうなるなんて思ってもみなかった。

健吾は広子の両脚を割って体を入れて挿入した。挿入した時広子はウッと呻いて健吾に脚をかけてきた。先の交合で満足しているから余裕があり、眼を閉じて気持ちよさそうにしていた。やがてオルガスムスがやってくると顔を紅くして健吾にしがみつき声を押し殺してのけぞった。そうやって何度かの頂点を経て興奮がおさまってから、健吾はいかないのかと広子が聞く。

広子の体を楽しんでいるのだ。
典子さんにもこんなにしてあげているの。
うーん、していない・・・。

源二がいま典子さんに何をしていると思う?典子さんの体を探り、典子さんの新しい感覚を探しているよ。源二はそんなことにとても熱心なの。いままで健吾が知らなかった典子さんに変化して、源二・・・素敵なんて叫んでいるかもしれないよ。

脅かすなよ。
脅かすなよって、じゃあ典子さんが源二と楽しむのはいやなの。
そういう訳じゃないけど・・・。
訳じゃないけど、なんなのよ。
複雑。典子が社長とセックスに夢中なんて・・。でもそうなるだろうなあ。結構社長のことが好きみたいで。それがスワップを受ける気にさせたといっていたから。

あの人たち、今は恋人みたいに楽しんでいるわ。
うん。
頼りない声を出さないで・・・。
うん・・それでいいと思う。
心の整理が出来た?

出来たわけじゃないけど、それでいいかと思う。でも、あの典子が社長と夢中でやっている姿が想像できない。
夢中になっているかどうかはわからないわよ。典子さんが夕方うちに来たときはずいぶん緊張していたから。でもうリラックスしているだろうな・・。源二は結構繊細なところがあってうまくリードする男だから。

確かに、社長はよく気が付く人だからね。俺がヘマをしたとき、家庭内のことかと気が付いたから。社長が気付かなかったら広子とこうして会えなかったと思うと妙な気分。

それは逆、源二は典子さんを抱きたかったの。ちょっと聞くけどあなたたち夫婦生活はどうなの?
まずかったのかな?喧嘩して数か月間レスだったりしから。

レスの前よ。典子さん、セックスは好きだったの?
そうだと思うよ。俺が疲れてしなかったことで怒ったのだから。したいほうだと思うよ。
好きだったら、問題ないだろうね。
どういう意味?
あとは源二がうまくやるだろうということ。

健吾はこの夜もう一度交わり、ようやく放出した。それは近頃には珍しい強い噴出だった。その後は広子の体を抱きしめたり、キスしたり、まるで新しく恋人になった女性を始めて抱いたときの夜のようだった。広子も健吾とそうしていることが楽しくて仕方がないような雰囲気があったが、やがて二人はいつとはなしに眠りについた。

〈二日目〉
窓の外がわずかに白み始めていた。4時にはまだ少し時間がある。健吾が目を覚ました時、広子は眠っていた。隣の部屋の冷房をつけて寝たので寝苦しい夜ではなかったが、やはり汗ばむような気温である。典子より小さく、抜けるように白いというほどではない広子の裸が隣にある。起こさないように抜けだして、シャワーを浴びた。

典子のことが気になった。昨夜典子は俺とするときよりもっと感じていたのだろうか。心が騒いだ。自分が言い出したことだからと思い直したがペニスが意思に関係なく勃起してきた。

妻が社長に抱かれて何故俺が興奮するのだと心を鎮めようとしたがおさまらない。そのまま寝室に戻ると広子が目を覚まして健吾を見ていた。

あら元気ね、昨夜の最後は凄かったのに。 
いや、どうしてだろうね。
典子さんのこと考えていたでしょう、
分かるのか?

あら、図星だった?
参ったな。
こちらに来てよ。
うん。
いま、したい?
なんとなく。

なんとなくとはひどいわね。源二は朝型だからもう典子さんとやっているよ。典子さんが源二にしがみついて、朝から叫んでいたらどうするの。

ああたまらんと言って健吾は広子に飛びついた。何をそんなに興奮しているのと広子は健吾をかわそうとしたが健吾はむしゃぶりついて乗ってきた。お馬鹿さんあわてないでよと言うが、しゃにむに結合しようとしていた。広子は体をひねって入れさせない。健吾は広子に抱き付いて乳房をむさぼり、首筋を舐めて体勢を取ろうとしていた。

ねえ健吾、自分だけが興奮しているのはよくないよ、落ち着きなさいよと言われてようやく我に返った。

ごめん、典子が社長の腕の中で叫んでいるなんて言われて、その姿が頭の中で爆発してしまった。
だってそれ健吾が仕組んだことよ。

分かっているけど・・・。
分かってない。ここに広子がいること忘れないでよ。
うん。
抱いてくれる?でもその前にシャワー浴びてくるわ。

バスタオルを巻いた広子が浴室から出てきて健吾に並んだ。中に出してと広子がいうから昨夜は出したけどいいのかと健吾が聞くと、ミレーナつけているといったじゃないという。あれってホントに大丈夫なのか、大丈夫よ、もう3年も源二とはゴムなしだから、それに生理も軽くなるの。

健吾は典子のことを想像した直後で興奮が高い。広子は何度も何度も押し上げられた。隣が近いことを気にしたのか広子は真っ赤になり、声を押し殺していた。それでも最後に健吾が射精した時はイッーと叫ぶように果てた。落ち着いて来てから二人の会話がまた続いた。

結構頑張るじゃない。
典子が社長と一緒だと思うと何だか心が騒ぐ。
いつもこんなに頑張っているわけじゃないでしょう?
いまと比べたらあっさりしているかな。
アッサリ系は駄目よ。

どうすりゃあいいのさ?
時間をかけること。アッサリでは典子さん物足りないと思っているかもよ?
ないと思うけどなあ。
そうであればいいけど。或いは知らないだけかも。
俺が?
いや典子さんよ。

何を知らないというの。
私がそうだったからいうけど、本当の味。私が初めてあれを知ったのは源二とじゃなかったから。
社長の友達?
三日間とことんやられて、ほんとにびっくりしたのだから。

でもね、それを経験してみれば源二とでもうまく行くようになったのよ。コツがあるというより、感覚に道が開けるということかな。一番上まで行く道。

ところで朝ごはんどうする。
食べようか、私が作るね。
でもまだ6時だよ。
2時間くらいあるね。ここで抱き合っていよう。

健吾は社長夫妻の寝室での話を聞いた。いわゆる自分流のスローセックスだった。忙しくて日ごろ話が少なかったらそれを補うための時間にする。裸だから触りあったりキスしたりしながら、話を続けるという。セックスはしてもよし、しなくてもよく、裸で抱き合えばつながらなければならないというような考えはない。

でもする時は結構みっちりするという。しつこくやるのよと広子は笑っていた。もう源二は50歳になったから若い時とは違う。けど、結構私は満足しているのよ。典子さんはどう?・・それを考えてやりなよ、そうすれば典子さんも健吾のことを考えるのよ。

いま頃源二はきっと典子さんのことを考えて抱いているよ。十五歳も年の若い恋人と一緒に居るのだから幸せの絶頂という感じだろうな。ごめんね、私の方が歳上で。

オッパイ触っていてよ。話すことがとぎれたら、オッパイを舐めるか、キスし合えばいいのよ。黙って抱いていてもいいのよ。ああいい気分、若い男はいいわね。匂いが違う。

そんなことを言いながら健吾と広子は8時近くまでゴロゴロしていた。広子が起きだして朝食を作り、食べ終わったのが9時ごろだった。

〈ホテルに向かう〉
健吾、ここはご近所が近いからなんとなく気になるね。ずっとカーテン架けているというのも不自然だし・・。冬なら別だけど夏だからね。ホテルに行かない?

そうだな、広子も大きな声を出せないし。それにホテルなら不倫している感じになって燃えるかも。
何が不倫よ。それに私お魚料理食べたいし、出ようよ。ほら、西伊豆に有名な店があったでしょう。

そうだな、車でそんなに時間はかからない。途中で昼ごはんに魚料理のいい店が真鶴にある、出ようか。

ホテルに電話すると部屋はあるという。そうと決まればすぐ出ようと二人は出発した。まだチェックインの時間でもないし、ゆっくり行こう。

土曜日の路は渋滞もなくスムーズに走ることが出来た。砂浜に降りられるところでは波打ち際まで行ったりしてみた。熱海付近の海岸は西の沼津海岸と比べて広い砂浜はない。そのかわり東に見える駿河湾の眺めが綺麗だった。
仲の良い中年夫婦が散歩している風景だねと健吾が言うと私が中年とは嬉しいと広子が言う。まだ中年ですよ。うん、そうしておきましょうと笑った。

波打ち際に立って二人で話していた。
健吾は何時か典子から聞いた昔の夫婦の生活を広子に話した。広子の方がよく知っていた。よく知っているんだ・・というと、そんなことを書いた本を読んだことがあるだけよという。

むかしは自由だったんだ。結婚している男女がまた自由に行き来する日が来るかな。
そんな日が来てほしい? 典子さんなんか引く手あまただよ。いいの。
アハハ。人間の嫉妬なんてどんなものだろうね。古い時代のことが知りたくなってくるね。

嫉妬なんて人間の本質的なものじゃないかもしれないわね。
多分。時代とともに変化してきたのだろうな。
でも人間には人を愛するという面はあるのよ。お互いが好きでたまらないカップルって居るじゃない。

そうだよね、この人でなければ・・ということはあるよね。
私たちの関係はどうなのよ。
難しいことを聞くな。でも広子は好きだよ。

ほらこの波打ち際から見えるあのお家なんか、家の外からは部屋は見えないよね。うちの寝室も高台にあるから外からは覗かれないの。いま頃源二と典子さんはカーテンを開け放った部屋で抱き合っているかもね。きっとそうだよ。典子さんは色が白いから輝くように見事だろうね。

挑発しているの?
お腹が空いてきた。もう11時過ぎだね。昼ごはん早いけど行こうか。
うん、天ぷらと刺身が結構いけるよ。

車で30分くらいのところにその店があり、予約を入れていたのであまり待たないで料理が運ばれてきた。ビールが飲めないのが残念と健吾がいい、ノンアルコールを頼んだ。広子はビールを少し飲んだ。料理がおいしいと広子は喜んだ。

昼ごはんの後、西伊豆に抜ける道は簡単ではなかった。県道11号線を西に走り国道136号線に入り南下した。あちこち見て回ったのでホテルに着いたのは3時過ぎだった。部屋はすべて駿河湾に面したところだった。西日が綺麗だろうなと言うと、そうね、素晴らしすぎて私が貧弱になるわねと広子がつぶやいていた。

振り返って、ここだったら窓を開けていてもいいよねと広子が言う。まだあのことを言っているのかと健吾が笑うと、明るいところでするのもいいものよと言う。

身体を寄せ合って並んで窓の外を眺めていると、波打ち際で遊ぶ子供が見えた。もう夏休みだな、と健吾が言うと、そう夏休みね・・、と広子が言う。

子供が海で遊ぶのはいいね、砂浜にはいろいろのものが落ちている、流されたものを拾って遊ぶのは子供たちには勉強になるよ。よその国を意識するのさ。中学生の時に浜で何か字の書いてあるものを見つけたが、それは外国の文字だった。外国を意識した最初だったよ。生き物の骨格標本になるものだって落ちている。ウニの殻を見たのも中学生の時だった。球形をつぶしたような形の表面に規則的な粒粒があり、それがウニの棘の根元だと教わったのもその時だった。

健吾と一緒にいると楽しい話が聞けるわ。ねえ、典子さんを源二にやって私と結婚しない?源二は絶対喜ぶと思うけど。

急に何を言うのですか。
何を言うかとはお言葉ですね。いやなの。
真面目なの?
可愛いね。すぐ本気にする。そう考えたら面白いじゃないの。

取り留めもない話をしながら、シャワーを浴びてカーテンを開けはなった部屋のベッドで抱き合った。

明るすぎない?
明るいほうがいいと言ったのは広子だぞ。
顔の皺が見えるし、お腹の皮もたるんでみっともない。
もとがいいから今でも素敵だ。

嬉しいこと言ってくれるね。でも四十を過ぎるとやはり変化が激しくて。
人の体は時間とともに変化するさ、でも広子の頭の回転は変化しない。
昔から健吾とは話がよくかみ合ったね。
顔を合わせただけでわかるときもあったよな。

源二が妬いたことあったよ。
そんなことあった?
お前と坂上の話し方は変に簡潔だなと言ったのよ。
・・・・?
夫婦みたいだと・・。
へえ、社長が?そんな風に見えるのかな、俺たち。
会話がポンポンと進んだからと思うよ。でも、もうこんな話終わりにしてしようよ。

広子は何回も登りつめてもう十分と言った。最後は健吾も合わせた。広子は健吾となら何時やってもうまく行くように思う、典子さんとより私が健吾と相性がよいのじゃないのと言う。
そうかなあ、困ったな。
困ることないでしょう、だから一緒になろうと私が言ったのよ。
そう簡単に言うなよ、典子と俺は結構うまく行っているのだぜ。

へえ、そう、夜も?
それを言うなよ、レスの時もあったのだから。
私みたいに反応するの?
追い詰めるなよ。

源二はね、50歳を過ぎてからは少し力が衰えてきたの。まだまだ十分だけど回数が少なくなったのよ。いまは典子さんと一緒だからものすごくうれしがって元気じゃないかしら。男ってそんなところあるでしょう。
女だってそうだろう。

まあね、飛び切りの男だから、ここにいるのは。
そうでもないよ。レスが何か月続いてもなんともなかったのだから。
何ともなかったの、ほんとに?

何とかしたいと思っていたけど。
何とかしたいというのは関係の修復でしょう。

関係の修復じゃなくて、きちんとセックスしようと考えていたの?
そこまでは考えていなかったかなあ。
世間でいうマンネリの時期に喧嘩して、何とか仲直りしようと考えるくらいじゃなかったの。
そうかも・・・。

今回の交換は私が考えたことなのよ。仲直りしたくらいできちんとした関係にはなれないと思ったから。治療が必要かなと思ったわけ。
それを社長に持ちかけたのか?

源二は計算が早いからすぐ乗って来たわ。典子さんのような人と過ごせるなんて、天にも昇るような気持ちだったでしょうよ。いま頃ルンルンで典子さんと一緒だよ。でも真面目だよ。

まじめにとはどういうこと?
典子さんを女に変えるのよ。
女に変える?

そう、健吾が教えることの出来なかった性の悦びを典子さんに経験させるのよ。
好きものだから源二は。真面目に取り組むからね。典子さんはセックスを堪能すると思う。

その効果は二つあるの。健吾にとってみれば、自分の妻だと思っていた女が自分の意志で、源二と寝るわけよ。典子さんへの見方が変わるよ。もう一つは当の典子さんが変るの。
変わる?

そう、変わるの。今まで知らなかった世界を知るわけ。セックス開眼は女にとって素敵なことよ。しかもそれ夫でない男から知らされる。
素敵かなあ。
ただ嫉妬するだけ?
そうじゃないけど・・・。

心配しないで。大事なことは典子さんが変ったことを健吾が受け入れること。受け入れて初めて典子さんが安心できるの。私がそうだったし、源二もそれに気が付いたわ。女はね、セックスがこんなにいいものだと体で知った時に新しい女になるの。

そうか? 
旦那が相対化されるのよ。たくさんの男の中の一人になるのよ。何もこの旦那だけが男じゃないということよ。

喧嘩したら離婚か。
新しい関係をきちんと作り上げるのよ。
セックスが下手だといわれて、喧嘩になりそうだな。
まだいっている。最初は戸惑うこともあるよ。源二もそうだったといっていたわ。

恐ろしい計画に引っかかったみたいだな。
心配しないで。でも帰ってきたとき典子さんは混乱しているから、そっとしてやることが肝要なの。だってそうでしょう、健吾じゃなくて源二に女にされたのよ。三日間セックスの坩堝の中で過ごしながら、どんな顔して帰ってこられるの。

それも広子の経験か。
まあ、そういうこと。アッ、もう夕食の時間じゃない。どうする。
ずいぶん長い時間話していたなあ。でも大変な計画に引っかかってしまったという感じ。

ショック?
そりゃそうだろうが。俺は広子を抱けると思って賛成しただけなのに。
それはそれ、大事なことよ。まあ大きな計画にはいこともなければね、私は健吾で、源二は典子さんが目的よ。ねえ、ホテルの食事処を調べてよ。

あんたたち夫婦は恐ろしい人種だな。
あら、それで困ったことがあったの?
ないよ、だから怖いのだ。

広子は和食だったね。
お肉でもいいよ。力をつけて貰わねばならないからね。
食べたくらいで力でないよ。
ここはやはりお魚か・・。西伊豆よ、駿河湾の真ん中じゃない。
そうか、頼んでみるか。

食事の後は二人でバスタブに湯を張って入った。
典子さんの体と比べたら、齢でしょう。
だから、みな齢は取るさ、でも広子は綺麗だ。
嬉しいね、嘘でも。
嘘じゃないさ、頭もいいしね。
ありがとう。

頭のいい女を抱くのもいいものさ。
何が。
しっかり者の広子がよがるのがたまらん。
バカ、何考えているの。

だってそうじゃない、事務所ではエロっぽい顔一つもしないのにベッドでは豹変だからな。
当たり前でしょう。どちらもしっかりやるのよ。典子さんも仕事に行きたいとはっきり言えるようになると思う。

なんとなく俺の仕事とぶっつかることを気にしていたからな。
多分変わる。
夜も変わるかな。
変わる。一度経験した感覚は筋道が付くから。あれも一つの技術みたいなものだからね。

男とは違うのか。
男のことは知らないよ、私は女。
怖い女だろう。
何が。

浴室を出てそのままベッドに行く。ごろりと横になり抱き合った。
健吾と抱き合っても、長年連れ添った夫婦みたいね。
新鮮味がないのか。
そうじゃないけど、なんとなく。

会話がいけないのだな、夫婦みたいな会話するから。
そうかも。恋人みたいな会話してよ。
無理だな。
夢のない人ね。

そうでもないさ。会話が出来ないだけで。気持ちは凄く新鮮だよ。
あら、そう。
そりゃそうだろう、はじめてこうして抱き合っているのだぜ。こんなに間近に顔を突き合わすことなんか事務所ではないだろう。1センチも離れてないよ。
事務所で1センチの近くまで・・?
近づけて見ようか。
バカ。

ゆっくりとした男女の絡み合いが始まった。夕暮れから暫く経たホテルの窓からは海の上にきらめく漁船の集魚灯の灯がきれいだった。水平線にはずっと前に沈んだはずの太陽からの光りが微かに空と海の間に漂っていた。沼津から静岡に至る海岸線の光りが輝き始めていた。

その光のようなものが広子の体に射しこんだのはしばらくしてからだった。反り返る体を健吾が抱きしめて、腰をゆすると声を上げて登りつめた。

健吾は典子が社長に抱かれて同じように反り返っているかと思うと、何故か強い興奮を覚えた。興奮したが醒めている部分もあった。力強い抽送が続き、広子はまた反り返りながら叫んだ。健吾・・健吾・・・。

健吾は黙って広子の首筋や腋下を舐めまわした。そこ・・そこ・・いい。
そして三度目の絶頂のあと、もう降参と言う。健吾は放出しないままに結合を解いた。

健吾、すごいね。典子さんにこんなことしてないでしょう。
さっきいったじゃないか。
私にはどうして出来るの。
典子が社長に抱かれて乱れているかと思うと、無性に興奮して力が湧いてきた。
嫉妬?
そんな感じかもしれない。どこか醒めていた。

ふーん、面白いね。私が煽った時は違ったじゃない。鎮めるのに苦労したよ。
確かに、どうなっていたのかな。でも今は持続するほうに働いた。興奮しているのにどこかに醒めている感じがあった。どういうことだろう。女はそんな感じにならないのか。

源二が典子さんを抱いていることで?
うん。
何も感じないよ。ここにいい男がいるから。
ふーん。そんなものか。

私ね、源二の先輩と過ごした晩にね、夜の10頃から抱き合って朝方までしたことがあるの。齢も今の典子さんと同じぐらいで体力もあったから何時までも可能だったのよ。何度舞ったかわからない、こんなことがあってよいのかというくらいの高みにぼりつめて脳が溶けてしまうような状態だったわ。交わった回数は覚えていないけど、毎回果てた時はそんな状態だった。

なぜそれが出来たか後で考えたのだけれど、私の反応をきちんと観察し、こんな時にはどのようにするかを彼が考えてのことだったと思う。何回でもしたくなるのよ。

はじめの日は、いい感じにはなるけれど狂うほどではなかったわ。でも二日目の昼ごろにはもうかなりの状態になったの。その晩からは、そう、朝まで狂いまくりよ。

彼はその間ただ私のためにだけ動いていたの。私のために、私を押し上げることが彼の快楽だったのだと思うわ。最後の日は大体わかってきて、彼に任せておけばどんなところへでも連れて行ってくれるという安心感があったの。勿論安心なんていうけど、最後は頭が真っ白になり何が何だかわからなくなる凄い状態よ。

その頃はミレーナが認可される前でいちいち避妊を心配しなければならなかったけど、今だったらもっと凄いだろうなと思う。生で出来るからね。

凄いことを広子はいうね。事務所の広子からは想像がつかない。
当たり前よ。仕事している時そんなこと関係ないでしょう。
セックスなんか知りませんという顔しているじゃない。
うちの仕事にセックスには関係ないの。昼間から濡れてどうするの。

俺、これから事務所で広子の体を見て何を考えるかなあ。
なに言っているの・・・もう。

その晩健吾は再び広子を抱いた。広子を朝まで抱いていようとゆっくり構えて広子の調子に合わせて見た。広子は任せるからと何も言わなかったが、結構感じている様子だった。ゆっくり押し上げていくとゆっくりだが反り返る状態に導いていけた。ゆっくりでいいのよと途中で広子が言う。急ぐことはないの、ゆっくり大地が盛り上がるように押し上げていってよという。夜中を過ぎても二人は続いた。広子も齢だと言いながら頑張った。夜の闇が空から消え始めるころ広子はもう体が溶けてしまうと震えた。

その身体を抱きしめていると・・もう健吾とは今日で終わり・・残念ね・・健吾・・とても好きだといった。それから眠りに落ちて、眼を覚ましたのは10時近くだった。

〈バツイチの二人〉
チェックアウトの時間が迫っていて、あわただしくホテルを出た。今から帰っても中途半端だな、この近くには雉肉を使った鍋があると聞いているが、それでも食べて帰ろうかと健吾がいう。私はお魚がいいのだけれどと広子が言う。そうだ、このあたりはおいしい鯵の獲れるところだった。携帯で調べるといくつか料理屋があった。そこまで行くと丁度昼ごろになる。

沼津に近い漁師町の小さな店だったが、鯵の姿造りは美味だった。金目鯛の煮つけも一つ注文して二人で食べた。いまはアルコールが飲めないからかわいそうと健吾を見ながら広子いう。そうでもないよ・・アルコールはなくても十分だ・・この味噌汁もうまいと言い、健吾はうまそうに食べた。

食事が終わって膳を下げに来たおかみさんが、あんたたち仲のいいご夫婦だけど、新婚さんかねと聞く。

アハハ、女将さん、観察が鋭いね、バツイチ同士の新婚だよ。
やっぱり、夫婦も長くなるとあんたたちみたいに楽しそうにしゃべらないからね。
店に来るお客をそんな風に観察しているの・・?
観察しているといっちゃあ失礼だけど、なんとなく見ているだけで分かるものだよ。

それで俺たちが新婚に見えたのかと聞くと、そうだよ、とても年期の入った夫婦にはみえなかったからと答えて、あんたたちは楽しそうに話して、食べてもおいしいと聞こえたからこちらもうれしくなるじゃないか。あんたたち、今が一番いい時だ、きれいな奥さんだよ、旦那さんは幸せ者だねという。ありがとうね、ご馳走さんと店を出た。食事の後は適当に海岸線をドライブして、3時過ぎに健吾の家に帰った。

もうすぐ典子さんが帰ってくるわね。
うん、どんな顔して帰ってくるだろう。
楽しみね。
何が?

典子さんがどんな顔して帰ってくるかよ。
普通に帰るだろう。
普通でないほうがいいわ。
どういう意味?

私がそうだったから。源二がまともに見られなかった。
社長の先輩とセックスしてきたからか?
そりゃお互いのことだから、そんなことではないわ。
相手が忘れられなくて、亭主が嫌になったとか。
自分の立ち位置が分からなくなるのよ。濃密な世界から抜け出せないまま帰るとね、自分の夫をまともに感じられないのよ。

感じられない?
源二が嫌になったとか、別れたいとか、セックスしたくないとか、そんな具体的なことではなく、目の前の源二がどこか透明な感じになっていたのよ。
じゃ、俺がそうなるのか?

それはわからない、でも可能性はある。
そんなことになると分かっていて、広子は勧めたのか。
大丈夫、時間が経てば女の体は元に戻るから。
どうすればいいのだ。
そっとしておいてやることね。

典子が社長との想い出を抱えて生きていくのか。
そうでしょう。それしかないのよ。
そうだな。人はみな経験したことを覚えている。それが今の自分を作っているのだからな。

そうなのよ。典子さんは源二とのセックスを忘れるはずがないのよ。私だって忘れていないから・・。
そうだろうな。うん。
また忘れられたら困るのよ。
どういうことだ。

本当のオルガスムスを経験した女は強くなるのよ。あの絶頂感覚は特別だから。この世の出来事じゃないのよ。あれを経験すると小さなことにこだわらない強さみたいなものが生まれるの。
信じられんな。
この私は・・・?
たしかに、強いし、いい女だな。

そんな話をしているところへ、社長から広子さんへメールが届いた。5時前には典子さんを送っていくとある。
いよいよ帰ってくるね。健吾ともお別れね。
もうこんな機会がないと思うとさびしいね。
あら、またしたいの? 出来ればなあ・・。
また機会を作ること考えない・・?
出来るのか・・・?

〈典子の感想〉
ここまで健吾の話が来たときに典子は言った。

須貝さんとのことを健吾に話したあと、計画を知って驚いたけれど、健吾からあらあらかじめこの話を聞いていたから、安心して聞けたわね。
そうだね。案外平気で聞いていたじゃない。

すこしは気持ちが揺らいだわよ。
へえ、揺らがないと言っていたじゃない。
でも、少し・・・。
やっぱり女でもそうか。
そうみたいね。

考えて見れば、私は昔の広子さんを演じていた・・。
うん。
広子さんは分かっていたのだ。私のこと。
そうだと思うよ。
はずかしい・・・。
何が。

体の中まで見られていた感じ。
どんな姿で社長に反応していたかも見透かしだった。
いやだな・・・。

広子さんとは顔を合わしたくない・・・?
そんな気持ちはないけど・・。でもなんだか変な感じ。
どういうこと?
今度お会いした時どんな顔をしたらよいかわからない。
大丈夫だよ・・これを機会にもっと仲良しになれると思うけど・・・。
うん・・そうなれたらうれしい。

  第2話 完 


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