小田原物語 第5話_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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小田原物語 第5話

17-02-14 05:05

第5話
その日は土曜日だが健吾は出社していた。健吾が帰ってくるまで、典子は学校の仕事を片付けながら、健一の相手をしていた。最近は本を読んで欲しいとか、公園に行こうとか、甘えてくる。遠慮がちだったところがなくなりほっとしているところだった。もっと可愛がって面倒を見ていたらよかったと思う。

広子から典子に電話があったのはそんなことを考えていた時だった。話の仕方でなんとなく広子は健吾に逢いたいのではないかと感じた。夕食後健吾に広子さんから電話がかかってきたと伝えたら、どんな用事だったと聞く。

いろいろ、特にどうという話でもなかった、子育て頑張ってだとか・・・そんな話よ。急ぎの用事じゃなかった・・。あなたが家に着くちょっと前で、会社を出た直ぐだったみたいだった。健吾は、そうかじゃあ明日出かけることにするという。典子は健吾が広子と逢う日だと解釈した。

ゆっくりしてらっしゃいよ・・。
うん・・。
お楽しみね・・。
うん・・。
何よ・・そっけない返事をして・・。
うん・・。
照れているの・・?

翌日は糠のような雨が降っていた。

健吾は健一に向かって、健ちゃん、ごめんよ、今日もお父さん仕事だ・・。晴れそうな空だけれど、こんな日は一緒にお出かけできない。晴れたらお母さんを手伝って買い物に行ってくれる・・?
今日は日曜日でしょう・・・日曜日もお仕事なの・・?
天気のよい日曜日は健ちゃんとお出かけするから、天気の悪い日にお仕事を片付けたいのだよ。

典子は助け舟を出して、健ちゃん、雨が止んだらお買いもの一緒にいってねと言い、出かけようとする健吾に、じゃあ今日はごゆっくりという。

いやそうじゃないよ。
そうでしょう。
仕事・・。
デートでしょう。
いや仕事だ・・。
ハイハイ・・ごゆっくり。

典子にとって土日は一週間の仕事をまとめ、次の週の授業の準備、買い物、と平日より忙しい時がある。復帰の初年度で戸惑うことが多いが生徒との対応には大分慣れてきたと自分でも感じている。職場の仲間との関係も悪くない。もう少し頑張ろうと思う。

男子生徒たちは新任の典子によく話しかけてくる。先週も男の子達が、授業の終わった典子をつかまえて、先生は結婚しているかと聞いた。長男が小学一年生だと答えたら、別の生徒が、二人目が遅いじゃないというし、ひょっとしてもうシングルマザーですか・・と聞く生徒もいた。

二人目が遅いと言った男の子に、欲しいと思っているけれどなかなか生まれなくて・・と言った。生徒はニタッと笑った。おかしいこと言ったかしら・・と聞くと、ギャハと笑った。シングルマザーかと聞いた生徒に、先生がシングルマザーだったらどうなの・・・と聞いてみた。

かっこいいよ・・。先生はそうでなくてもかっこいいのだから・・。
あら、ありがとう。そんなこと聞けるなんてうれしいな。でも大変よ。
何が大変ですか・・?
放課後はすぐに子供を児童クラブに迎えに行かなければならないし、帰ってご飯を食べさせて、風呂に入れて、勉強を見て、寝かせて、それが済んで授業の反省と次の準備をするのよ。テストの成績を付けることもあるし、朝は寝坊させずにご飯を食べさせ小学校に送り、ここへ駆けつける。熱だしたらもうお手上げ。旦那がいるから何とかなることが多いの。

へぇ・・・・。
そうよ・・。
先生の旦那さんは・・?
建築・・。
すごいな。

典子は授業では教科書を離れて面白い話をした。英語の世界的な広がりは例を挙げて話し、それぞれの国々で英語は勝手に変化しているので、よくわからないことがある、しかし会話とは文法的に出来上がってなくても十分通じる。日本に来たいろいろの国の人々はお互いの国の英語で楽しく意思を通じあっているというと分かったような顔をする。

ヨーロッパの国々の言葉は英語にしてもフランス語にしてもドイツ語でもほとんど共通の形をしているから、日本の方言くらいの違いくらいしかないというと驚き、日本語は起源が違うから日本人が英語に苦労すると言うと安心したような顔をし、しゃべることが出来ればたいしたものよ、がんばろうねと言うと神妙な顔をする。典子の授業は評判がよかった。

〈スーパーで須貝に会う〉
健吾が出かけて2時間ほどすると雨が上がった。健ちゃん今のうちにお買いもの済ませようと車で出た。スーパーのカートに買い物カゴを二個つけて、健一に押させながら品選びをした。健一がお魚というのでサワラの切り身、塩サバのフィレ、冷凍のサンマ、ブリの切り身などを選んだ。肉は豚肉の切落とし、トリの胸肉、ベーコンスライス。キュウリや葉物野菜、ニンジン、玉葱などを選びレジに向かった。一週間分となると多くなる。

レジコーナーを出た。荷物が重いからカートで車まで行こうか・・でも返却に戻るのも手間・・と迷っている時に須貝と出会った。

おや・・・健一君お手伝いか。
お魚のおじさんだ。
おじさんも今日はお買い物だ。お魚を買ったの・・?
買ったよ。
またうちにおいで、お魚料理をしよう・・・。

健一に話しかける須貝に、ご無沙汰していますと挨拶した。

忙しそうだね・・。
ええ、思いのほかに・・。
調子はどう・・?

前に私が職場を辞めた理由を学校は注意して見ているのよ。私も対人関係で辞めたみたいなところがあって・・・・。だから負担を掛けないようにしてくれているみたい。
いい職場ですね。
ええ、それに今年はクラス担任がないから楽なの。
最初の年から担任ということも聞くけど・・。

厄介なのは健一の児童学級が6時に終わることなの。間に合わない時は母に頼むので何とかやりくりできているのですが・・。
ご両親がお近くにおられて心強いですね。
助かる。少し慣れてくれば健一に鍵を持たせるつもりですが・・。

その荷物、車まで持とう・・。
お願いできます?
健一君、行こうか。

駐車場までは少し距離がある。須貝が大きい袋を持ってくれた。典子と健一も一つずつ持った。典子が先を歩き、須貝は健一と話しながらついてきた。日曜日には子供連れの夫婦の買い物が多い。共稼ぎが増えているのだろう。典子と須貝が一緒に歩いていれば子連れの夫婦だと見えるだろう。誰も注意してみている人はいない。車まで周囲の風景に溶け込んで歩いた。

ありがとう・・・須貝を振り返りトランクを開け自分が持ってきたレジ袋を入れた。須貝は健一から一つ受け取ってトランクに入れ、土日は大変だねと典子を見た。母に頼んでここには平日の遅くに来ることもあるの。家の冷蔵庫が空いたので今日は買いだめ。そう言いながら典子は体を寄せて小さな声で・・・時間が取れないわけではないのと言う。・・・・近いうちにお会いできるかな・・・・と須貝が聞く。典子は須貝の方に顔を向けて頷いた。

もと来た方に引き返す須貝に車の窓からバイバイと健一は手を振った。須貝が典子を眼でとらえ会釈した。逢いたい気持ちが急に湧きあがり、体の芯にじんと走るものを感じた。

どこで逢えばよい。ラブホはいやだけれど、贅沢いえないかなあ。典子にとってラブホは手軽に行ける場所ではない。人に見られたらそれだけでアウトだから遠くを探さないと・・・・。須貝さんの家ならいいけれど、この前のようなことがあったし・・・・。あれから何回か逢いたいと言ってくれたのにできなかった。あまり長く待たせるのはかわいそう。それは私も同じ。そんなことを思いながら家に戻った。健吾の顔が浮かんで複雑な思いがよぎる。健吾も素敵・・・でも源二にも逢いたい・・。

〈健吾は成瀬氏に出会う〉
夕食は健一と二人だった。日曜日だのにお父さん遅いね・・という。お仕事が忙しいのよ、今度の日曜日は晴れてほしいね・・・うん晴れていたらお山に行きたい、また高尾山でもいいよ、あそこは大好き・・・今度は歩いて登ろうか・・などと話し、風呂に入れて9時に寝かしつけた。

10時過ぎに健吾は帰ってきた。

お帰りなさい・・夕食は・?
ビールでももらおうかな。でも先に風呂に入る。

典子はビールのあてになるものを準備していると、健吾はパジャマに着替えて出てきた。

昼ごろ健一とスーパーに行ったの。須貝さんが一人でお買い物に来ているのに出会ったわ・・・。
社長が買い物か・・。
広子さんがあなたとでは仕方がないわね・・。
うん・・今日は会社に出て昼近くまで仕事をしていたら、広子さんが来た。出られるかと聞くから一緒に出た。電車で行くというので、車は駅前のパーキングに置いて小田急で狛江まで行った。

狛江・・?
うん、狛江からタクシーで二子玉川の成瀬さんというお宅まで・・・。
二子玉川・・? 成瀬さん・・?
社長の先輩のお宅だよ。奥さんもおられた。

社長の先輩・・・? それって広子さんの昔の人のお宅・・? 
そうだよ。
いやだ・・。
何を勘違いしている・・俺の仕事だ。
・・・・・・?

ビールくれよと言われてあわてて冷蔵庫から取り出して注いだ。

いま俺が手がけている古民家についていろいろ聞きたいことがあった。成瀬さんは古民家についてよく知っていることで有名な人なのだ。大手の建設会社に居るけど・・ビルや巨大工事ばかりが仕事ではない。

初対面だったが丁寧に教えてくれたよ。この前出張で今の物件を見にいった時にいくつか気になったところがあって・・。 すごくいい材が使われているが建物としては傷んでいた。注文主の要望を聞いて設計をしてみたが、材として使うかそれとも建物として残せるかというようなことを聞きたかった。

いろいろ説明していると成瀬さんは物件の上り框の桜の材の話に興味を示し、いま頃そんな桜の材は出ない、そんな家ならほかにもいいものを使っているはずだ、建具には使えるものがあるだろうと言う。
現場を見ないでそんなことが分かるの・・?

経験さ・・・・。傷んでいるというが出来たら建物を生かすこと考えたらどうか、注文主にも君の意見をはっきり言うほうがいいのではないかと具体的に話してくれた。
・・・・・。

いまこのあたりで多く出ている物件は明治から大正にかけて絹産業を政府が奨励した時期に建てられたものだ。持ち主は孫か曾孫の代に入り、その地に居れば管理もされているが都会に出ていれば家に問題がある場合が多い。しかし手には入りやすい、群馬や栃木、長野あたりもよく調べてみることだともいわれた。
・・・・・・。

古民家の売買は難しい。知らずに売り買いして、価値のある建物をダメすることもある。社長も鑑定士の資格は持っているが、気になるというなら先輩を尋ねろと電話を掛けてくれた。昨日時間が取れると連絡があったわけだ。

びっくりした・・。
4Pだと思ったのだろう・・?
ええ・・。
それでもよかったのだが・・・。
いやよ。
典子は関係ないだろう・・。
いやよ・・健吾がそんなことするなんて。

心配するな、そんなことしないから。
じゃあ、広子さんはどうして一緒なの・・?
いけないのか・・? 
いけないなんていっていないわよ・・・。
何を気にしているのだ。
だって・・あなたも広子さんもあまり話してくれないから・・。
世間に自慢できることでもないだろう?
そうだけど・・・。

成瀬さんに聞きたい話が済んだ時、遅いが昼食を準備しているとお誘いを受けた。それで遠慮なくご馳走になった。奥さんとの合作だという。成瀬さんもうちの社長も料理が得意だそうだ。と言うより腕自慢したかったそうだ。
須貝さんもそんなところはあるよね・・・。

むかしの山岳部の人たちには料理の好きな人がいるらしい。お酒もおいしかった。電車で行ったのはそのため。広子さんは成瀬さんの横に座ったから、成瀬さんの奥さんが俺の傍で相手してくれた。典子の考えたことが出来ればいいと思ったけどな・・。

やっぱりその気があるじゃない・・。
気持ちだけ・・・。突然押しかけ、初対面でそんなことできるか。
だって、秘密だというから・・。
まだ秘密にこだわっているのか。お前を担いだのだよ。
わかった・・もう聞かない。

続があるのだけれど・・
続き・・?
もう少し話がある・・・。
いいのよ、もうわかった。

広子さんはいまでも成瀬さんと逢っている。
えっ・・。
広子さんは昼食の時、俺に二人の関係が続いていることを予想させる話し方をした。どうしてそれを俺に伝えようとしたのかわからないが・・。
へぇ・・そうなの・・。
おどろくことはないだろう。
でも広子さんとその成瀬という方のことは10年も前の話でしょう・・?
典子はもうすぐ社長との関係を解消するつもりか・・?
・・・・・。

だろう・・?
じゃあ、須貝さんも成瀬さんの奥さんと逢っているのね。
関係のないことだから聞かなかったが・・。
逢っているのよ・・・・きっと。

奥さんは須貝社長の大学の後輩だ・・。
じゃ、健吾の先輩にもなるのね・・・。
うん、しかし俺とは5年くらい離れているから知らなかったよ。
広子さんくらいの方・・?
うん・・・ちょっと若いかな・・。
お綺麗な方・・?
広子さんに少し似ている。
じゃあお綺麗な方ね・・。

ショックか・・?
なにが・・。
社長がまだその人と、絢子さんというのだが、逢っていたら・・。

去年聞いたらショックだったと思う。でもわたし京都で吹っ切れているわ。だからその方に何かを感じなければならない理由はないということよ。
お前は論理で片づけられるから偉いな。
ほめているの・・それともバカにしている・・?
いや、感心している。

話を聞けば狛江行きは何も秘密にする理由はなかったじゃない。
そうだよ・・。
なによ・・あっさりと引っ込めて・・。
お前がどんな反応をするか試しただけ・・。
なによ・・変なの。

成瀬さんところを出て、二人で行ったのは多摩川の畔に立っているホテルだった。窓から多摩川と対岸の川崎市が綺麗に見えた。高層ホテルでカーテンを開けても下からは見えることはないところだ。
あのホテルね・・。
そう、結構有名だね。

その部屋で広子さんが私のこと言ったでしょう?
わたしの妹はラブホの雰囲気が嫌いだとか・・。
においも嫌いよ。
ラブホは結婚する前には使ったじゃないか・・。

あれは私たちの日常的行為よ・・。
非日常的行為には使わないか・・・?
そうよ、婚外関係には特別な雰囲気の方がいいの・・。
贅沢なところで・・・?
贅沢な時間だから。

そうだな、贅沢なことだよな・・。
むかしは一年の労働の代償だったのにね・・。

それだけでもないだろう、村の遊びの日とか・・?
遊びの日を設けた意味はあると思うけど・・。
調べてみるかな・・。
建築屋が調べてどうするの?
社長は古い時代のことをたくさん知らないと建築家としての腕は上がらないというよ。

そう言えば、大阪で須貝さんはそんなこと話してくれたわ。
ベッドの上でそんな高尚な話をしていたの・・?
その時私たちが何をしていたか教えてやろうか・・。
どうでもいいけど・・・。
想像しても今日はムラムラしないでしょう・・?

健吾は苦笑して、バカと言って典子の額を人差し指で突いた。

〈典子の手枕〉
健吾、もう寝ない・・疲れているでしょう? 今夜は私が健吾を抱いて寝かしてあげるよ・・。私が京都から帰った晩は健吾がそうしてくれたから。
そうだったな・・。
私がしてもいいよと強がりを言ったけれど、黙って抱いていてくれた。いい人と結婚したと思ったわ。
そうか・・すぐ眠ってしまったじゃないか・・。

須貝さんの印象が体に強く残っていた。それを考えてくれたあなたが素敵だと思ったの。
今日は典子が非日常の俺の体を大事にしてくれるのか・・?
うん、そうしてあげる・・・。

少し暑いね・・。
エアコンを強めにしようか。でも眠ったら寒くなるしね・・。
そのままにしておこうよ。
うん・・ちょっと我慢しよう。

広子さんの印象を体に残して妻に抱かれる気分はどう・・? 
したいか? 
うん・・。でも・・今日は健吾の日だから・・
ほんとにそう思っているのか・・?

そうだよ、嫉妬なんか感じないよ・・。
そういえば、俺もあの時そんな感じだった・・不思議に嫉妬心は起きなかった。
へえ・・そうなの。

そんな話をしているうちに、健吾が眠くなってきたという。

私の腕に頭をのせて・・。
腕が痺れるぞ・・。
眠ったらきちんと枕にしてあげるから・・。

手枕はいいなあ・・。
いいでしょう・・。
明日の朝・・するか?
しない・・・学校があるから・・。
してから学校に行くと生徒にばれるのか?
雰囲気が違うという子はいるのよ。このまえそうだった・・・。何でも想像するのが好きなのよ。

どう答える・・?
君たちの成績がよくなれば安心して寝られるのだけれど・・とか・・・。
納得する・・?
意味深長な会話も飛び出すの。栄養学の薀蓄を披露して人の精力を調節する食事だとか・・。
どう返事する・・?
知らなかった・・ありがとう、今度旦那に試してみるとか・・・逆に君も将来役に立つから覚えておきなさいよとか・・。長くなりそうだったら来週の宿題にしようと切り上げるの・・。私をからかって楽しんでいるだけよ。

しばらくして健吾は眠った。健吾は長いこと広子さんとは逢っていなかった。広子さんも楽しい一日だっただろう・・。でも広子さんは前の人ともまだ逢っている・・・。

秋の京都のことも浮かんできた。須貝の意外な告白を聞いて心が揺らいだが、帰ってきたとき健吾はやさしく包んでくれた・・・。健吾に対してやさしくなっているのは、源二さんと近いうちに逢うつもりをしている自分に原因があるかもしれない。健吾の手枕をしながら源二を思うなんて不謹慎かな・・・でもやっぱり源二さんはいい・・健吾とは違う。抱かれると体全体がほっとする。やがて翻弄されるが頂上に押し上げていくタイミングやフィニッシュ時のテクニックは健吾とは違う。それが終われば何時間でも私の体を抱いて愛撫しながら次のセックスへ導いてくれる。でも健吾ともだんだんうまく行くようになって来た。くたくたになった後の感覚が全然違うようになって来たと思う。

〈広子の配慮〉
またしばらく忙しい日が続いて、典子は仕事に没頭した。初年度にきちんと出来れば学校の信頼を得られると思って力を授業に集中した。校長が声をかけて来て、授業がスムーズに進んでいるようですねと言ってくれた。自分も努力したと思っていたし、それが評価を受けているらしいのでほっとした。子育ても何とか行っているし・・・。ほっとした気持ちが出た。

それが典子の心を揺らし、須貝に逢いたい気持ちをさらに膨らませた。人は大きな仕事終えた時に、急にそれまで我慢していたものが欲しくなる。典子にとってそれは須貝だった。非日常の世界に浸りたい・・・健吾も好きだけれど、申し分ないパートナーだけれど、源二との夜は健吾とは異質のもの・・・そんなことを考えていた。

そんな時、広子から電話があった。親たちが伊豆に旅行したために延期した仕事を頼まれたから、一週間先の土曜日の夕方から日曜日の昼前まで実家に帰る、今度は途中で帰らないから・・安心してという。わざと仕事を作ったのははっきりしている。源二が頼み込んだのだろう・・と思う。

そんなこと悪いから・・。
前に残した仕事を片付けたいと親に言われただけ・・。
二子の埋め合わせ・・?
健吾さんと二子に行ったことで私があなたに何か負い目を感じなければならないことがあるの・・?
そうだったら・・と思っただけ。
健吾さんのことで私があなたになんで気兼ねするのよ。
わかったわ。

この前はごめんね。わたしが居ても大丈夫かなと思ったのだけど・・まだダメなの・・?
いやよ・・そんなこと・・。
案外繊細なのね・・。
わたし・・何かがあるとダメな方なの。
源二とのセックスに夢中になれない・・ということ・・?
いじめないで・・ねえさん・・。
正直に聞いただけよ・・。
こたえられない・・。

ところで健吾さん・・成瀬さんのこと話した・・・?
ええ・・。
忘れられないのよ。
そうなの・・。
成瀬さんはわたしにとって初めての人だから。
初めての人・・・?
女にしてくれた最初の男という意味よ。その後いろいろあったけれどまだ続いているのよ。
・・・・・・。
ごゆっくり・・。冷蔵庫のものは自由に使って・・。持ってくる必要なんかないのよ。
ありがとう・・。

広子とそんなやり取りをした後、思いついて通販カタログで白のバックレースのショーツとペアになるブラジャーと紐ショーツとスリットのあるロングベビードールを白で注文した。大胆な下着で源二はきっとびっくりするだろう。特別の日だから、いいじゃないかと思う。健吾の妻という一線を崩さないためにも源二に逢う日は特別な日だと意識したかった。源二は大切な人だが、自分はやっぱり健吾の妻だった。

カタログ販売を利用した理由はこんなものを中学校の教員がデパートで買う訳にはいかないからだ。この町は狭く情報がどこから漏れるかわからない。先日もデパートで買い物をした品物を言い当てた生徒がいた。坊ちゃんの松山中学校と同じだ・・ここは・・・と思う。

健吾には来週の土曜の夜に須貝さんの家に行くというと健吾はそうか・・と言っただけだった。

でも土曜日は四時ごろまでは健一と一緒にいられるの。晴れだったら朝からどこか山に行き、雨だったら三人で横浜のクラブに行かない?
横浜のクラブって・・?
クライミングクラブのことよ。
そんなところがあるのか・・。

いまどきの空はあてにならないから考えたことだと言うと、それはいいかもしれないと賛成してくれた。キッズコースがあるから見学を兼ねてと思っているの・・・。最近はいろいろのものが揃っている・・でもそれは良いようで悪い面もあると健吾が言う。そうね・・自然に親しむのが一番だよね・・・。

一週間後、やっぱり小雨だったので、申し込んでいたクラブに出かけた。指導員の女性が丁寧に指導をしていた。指導員に健ちゃん・・やってみると話しかけられて、びっくりしたようだが、低い地点でのクライミングには興味を示してやり始めた。終わりには結構面白がって挑戦する姿勢になっていた。また来たいかと聞くと、来たいという。両親と一緒だったから機嫌がよかった。

昼を少し回って三人で食事をしてから小田原に帰り、いまからお母さんは泊りがけの研修があるから明日までいないというと健一は素直に頷いた。いいよ、お父さんと一緒だから・・・がんばってねという。

〈須貝との夜〉
必要なものは昨夜のうちに準備していた。通販で購入したものを向こうで使うだろうか・・一年前はほとんどの間は裸だった・・・と思っておかしかった。でも持って行こうとキャリーバッグに詰めて車に向かった。健吾の方に顔を向けると健吾が見ていた。

健吾・・お願いね。
うれしそうだな・・遠足にでも行くみたい。
日曜日は早く帰るから・・。
いいよ・・ゆっくりで・・。

去年の夏、須貝の家で強烈な経験をして動揺したが、京都・大阪では余裕のある対応が出来たと思う。だから須貝に逢うことがそんなに心を騒がせるはずがないのだが落ち着かなかった。落ち着けと自分に言い聞かせたが、風が体を吹き抜けるような感じがした。

到着の時間を知らせていたが、車を車庫に入れても、須貝は姿を見せなかった。仕方がないので典子は玄関に向かった。玄関のドアに鍵はかかっていなかった。開けて入ると須貝が立っていた。

ふう・・と息をして典子は玄関の中央に立つ須貝を見た。須貝が近づいて典子を抱きしめた。キャリーバッグが倒れた。典子は脚が震えたので須貝に縋り付いた。逢いたかった・・源二・・。長いキスが続いた。唇を離して見つめ、またにキスした。須貝の胸の厚さを感じて・・・昨年の記憶がよみがえってきた。

やっと会えたな・・二度断られたけど・・。
断った訳じゃないわ・・時間が取れなくて・・。
わかっている・・。
やっと余裕が出来て・・・・。
無理させたな・・。
典子のほうが逢いたかったのよ・・。

須貝は倒れたキャリーバッグを起こし、ダイニングキッチンに典子を案内した。動悸が少し収まってきた。壁を見ると版画が変わっていた。須貝は典子の視線の先を見てモンドリアンが好きでね・・という。

5時過ぎね・・・。すぐ夕食の準備をするわ・・。
広子が準備してくれた・・。
・・・・・?
かわいい妹が来るから準備しておくとか言って・・。
まさか?

典子さんが作っているうちに太陽が沈むといけないからと笑っていたけど・・・・。
太陽が沈む・・?
妹は陽の光が好きらしいからと・・・・。

からかって楽しんでいるの・・広子さんは・・。
親切心だと思うけど・・。
ここへ来るなんて図々しいじゃないかと気になっていたのよ・・。
気にしなくていいよ。
陽の光のことはあなたでしょう・・?

うん・・・。
ラブホが嫌いな理由も・・・去年の夏のことも・・・京都の出来事も・・・全部じゃないの・・。
うん・・広子は全部知っている。
そこまで話しているならかえってサバサバするけれど・・・。
もっと割り切ればいいのにとかいっていた。
どういうこと・・?
この前広子が戻って来たとき典子が帰ってしまったことだよ・・。
そこまで割り切れないわ・・。
本当に気にしなくていいのだよ・・あんな女だから・・。

あんな女だなんて、なんという言い方するの?それにしてもわざわざ夕食を作ってくれるなんて・・。
親切は快く受けたら・・?

わかった・・じゃあ準備する。須貝をちらっと見てキャリーバッグを持って浴室に向かった。須貝もすぐに入ってきた。

脱がせる・・と典子の後ろに回った。

白いニットのノースリーブを抜き取ると、白色のブラジャーをつけた上半身が現れた。須貝が後ろのホックを外して取るときれいな乳房が現れた。須貝は乳房に手をまわして抱きしめた。乳首が敏感に反応した。その手の感触は紛れもなく須貝のものだと典子の記憶がよみがえってきた。

典子は大きな息をして、頭を須貝の肩に載せた。須貝は典子の髪に顔をつけ、典子の匂いだと言った。首筋に唇を這わせ、肩から背中にかけて唇を移動させた。典子の首筋は弱かった。すぐに股間に潤いが来るのを感じた。しばらくじっとしていた。須貝は後ろから首筋に微妙なタッチで唇を動かした。膝が崩れそうな感じになる。

須貝の手が紺のスカートのジッパーを探して引き、スカートを降ろした。典子は脚を抜いてはずし、ショーツだけになった。半回転させられ、そのまま抱き合ってキスした。ショーツは後ろの部分がレースで典子のヒップが透けて見える。須貝はレース部分に手をやって引き付けた。

源二・・・・・。
震えているのか?
復帰初年度で4月からすごくいろいろのことが重なって・・・必死だった。授業を壊さないように・・・他の先生方との関係も・・。

授業がうまく進んでいるねと校長が言ってくれて・・張りつめていた心に余裕が生まれて・・・急に源二に逢いたくなった・・。ようやく逢えたのだから・・震えるのは当たり前よ。・・・もっと強く抱いて・・。

広子に夕食を作らせたのは正解だった・・。 
やっぱりあなたがお願いしたのね・・・・。なんとなくそうじゃないかと思ったけど・・。
典子を早く抱きたかったからさ・・。

そういいながらショーツの中に手を入れようとする。ちょっと・・と潜り込みそうな須貝の手を押しやった。自分で取るからといって外し、須貝がブラジャーを入れた洗い篭に入れた・・・後で片づけようと思った。

裸になった典子の姿を須貝が後ろから手を添えて鏡に映した。ヘアーは昨夜処理したので前のように黒々とはしていない。きれいだと須貝がいう。鏡の中には裸の女の首筋にキスしている男がいた。今夜はこの男とずっと一緒だ・・・と思う。どんな展開になるのだろう・・でもなんだか体が変・・・・ワッと叫びたい気持ち・・。

典子は首を傾けてキスを受けていたが、鼻の孔が角張っているような気がした。典子が欲情したら鼻の穴が角張る・・・と健吾がいったことを思い出した。角張っている・・・。なんだかおかしくなって緊張が解けた。くすぐったいよぅ・・お風呂に入ろうと言った。

タブにはお湯が張られていて一緒に入った。後ろから須貝に抱かせた。須貝は典子の体を撫でながら首根っこや肩にキスした。乳房から脇を手で撫でさすり、腰や太腿に及んだ。そして指が股間の奥にまで侵入して丁寧に洗った。

ここは洗わなくてもいいのだが、・・きれいにしないと典子が嫌がる・・。
もう・・バカなこと言わないで・・。そういいながら股を開いた。落ち着いてきたみたいだなと須貝が言う。向き直って須貝に抱き付き、水音をたてながら抱き合いキスし合った。

屹立したペニスが侵入しそうだったので、典子は手でそれを避けてまたキスを続けた。

入りそうだけど・・。 
ここではイヤよ・・。
いやか・・?
ベッドの上でないといやなの・・。

しばらくタブで戯れていたが典子はベッドに行きたかった。出ようというと急いでいるなと須貝はニヤッと笑った。須貝はタブ出てボディーソープを手に取って体全体をざっと洗い、典子に背を向けてペニスをしごくように洗った。屹立していることを隠す必要もないだろうに、背を向けたままシャワーをかぶり、あわただしくタオルで拭いて待っているからとバスローブをひっかけて出て行った。

典子もタブを出て膝をついて須貝が指を入れた部分をきれいにした。立ち上がって水のシャワーを浴びて体をさまし、最後に熱目のシャワーに切り替え短時間だけかぶった。体を拭き、浴室を出て通販で買った白の紐ショーツをつけ、スリットの入った白いロングベビードールで二階に上がった。去年の夏から勝手を知っている寝室の扉を開けた。

〈極楽絵図〉
ベッドで裸になってバスタオルを掛けただけで横になっている須貝は典子の姿を見ておどろいた。典子の体はまるで素通しで、形の良い乳房が透けて見える。股間をわずかに隠しているだけの紐ショーツがかえって目だった。長い脚とくびれた胴を持つ女が絵から抜け出たようだった。

びっくりした?
凄いな・・。
二度も源二にお預けをさせたから・・・。
感激だ・・。
きれい・・?
きれいだ・・・しばらく目の保養をさせてくれ。

須貝は典子をベッドに誘い、ベビードールを取るのは惜しいと言いながら典子を撫でた。そうしてしばらく抱き合ってキスした。典子は早く先に進みたい気もあったが、夜は長いと思い直し須貝の愛撫に身を任せた。まだ明るい空があり、夕暮れまでには間があった。明るい部屋の中で典子の体は輝くようにきれいだった。

素敵な夜になりそうだ・・。
仕事が何とかうまくいって・・・心がほっとなって・・・そうしたら無性にあなたに逢いたくなった。
少し興奮しているみたいだが・・。
そうよ・・すごく・・したい。

須貝はベビードールをとってショーツだけの典子に寄り添って抱き、乳房を柔らかく深く吸い、噛み、腋下をえぐるように舐めた。典子は力を抜いて須貝に体をゆだねた。健吾にはない繊細なタッチが素敵で股間にざわざわとした感じがもう起きてきた。やっぱり源二だと思った。

脇腹から脚に移り、また戻ってきて乳房を吸い、腋下を舐めて、降りて行って足の先を噛んだ。いやだ、このやり方・・初めて・・すごきエッチ・・。

ショーツは付けたままだった。ジンジンと須貝の舌の動きが股間に響いてきた。身の置き所がない感じで、源二に強く抱きしめてもらいたかったが典子の期待を無視して唇はそれからまだ体のあちこちに移動した。

源二・・・・。
・・・?
たまんない・・・。
したいか・・?
したい・・・。

今日は変だなと、典子の顔を覗きこんだ。はずかしいと顔を隠した典子に須貝はのしかかるように抱きしめてキスした。典子も須貝に強くしがみついた。体が震えるの・・しっかり抱いて・・。須貝の耳元に口をつけてそう言いながら典子は須貝の耳を噛んだ。

体の燃え方がいつもの時と違っていた。震える・・と典子はいう。須貝はショーツの紐をほどいて取り去り、典子に膝を立てさせ両脚を開かせた。典子は須貝の意図を察して力を抜いた。須貝の顔が股間に隠れると典子は脚をよじり、手はシーツを掴んだ。だが典子は先に急ぎたい気分が急にでてきた。

源二・・・。
なんだ・・・?
体が熱い・・。源二に体を満たされたくて・・・・。
だから震えていたのか・・・。
たぶん・・・。頭の中を空っぽにしたい。ワッと叫びたい気持ちなの。
一度解き放ちたいのか・・・?
そう・・・ダメ・・?
ダメなことないさ・・。今日は典子の日だ。

お願い。
うん。
それに・・源二も私と一緒にいって・・。
いけば賢者になるけど・・。
一緒に・・お願い・・。今夜は時間があるから・・・・。

須貝が典子の上に体を重ねてきた。ずっと興奮している典子だったから濡れて楽に挿入できた。源二が入ってくると、ああ・・源二・・といって抱き付いた。

最初から典子が積極的だったから須貝が高みに押し上げるのに造作はなかった。10分もすると真っ赤になって荒い息をして、もう変になって来たという。

もういくのか・・?
いきたい・・・。
じゃあ・・。

須貝が力強く押し込んでいくと下腹部が熱を帯びて痺れてきたという。典子は強く源二に抱き付き、脚を絡みつけ腰を須貝に押し付けてくねらせた。痺れは急激に登り沸騰までに時間はかからなかった。あぁ・・イキそうと体を震わせると源二はぐっと腰から押し込むようにして典子のポルチオをペニスの先で捏ねた。その感覚はわかっていた。イク・・・と頂点に駆け上がったが須貝はその動作をさらに続けた。オルガスムスは長く続いた。須貝が微妙に捏ねる角度を変えて典子の高揚した感覚を維持させた。何度かの波をかぶった後どんと打ち上げられ、波打ち際にもまれるようにして終わった。

あっさりといってしまったな・・。
これからよ・・・・抜かないで・・・。

再び動き出した。典子は一度登りつめたので余裕が出たのか、あわただしさが消えて須貝に抱き付いて腰の動きを合わせた。

ああしびれる・・。
どうしたらいい・・?
続けて・・・ああイイ。

須貝は典子の体を全部知っていて、アクセルもブレーキも自由だった。しかし今夜は典子が先に走った。そしてまた来た・・来たわ・・・と須貝の体に両脚を巻き付けて腰を押し付け、またワッと叫んで登りつめた。

またいったわ・・膣の入り口から子宮の奥までが燃えるの。
まだ行きたいか・・・?
うん・・続けて・・・。

貪欲に快感を残さず吸収するかのように荒い息をしながら眼をつむって抱き付いたままだった。そして三度目も同じように燃えた。

息がおさまって来た時、典子は大きな息をして、源二・・・・やっぱり源二ね・・私の体を全部知っている・・といった。

かけ付け三杯みたいだな・・どうしてそんなに急いだ?
体がいうことをきかなくて・・。
健吾君とは・・・。
しているよ・・・でも・・源二は別よ・・。
どうして・・?
贅沢にしたい・・。
贅沢にだったらもっとゆっくりすればいいだろうに・・。
ゆっくりするのはこれからよ・・。続けて・・・。

典子の四度目に向かって須貝が動き出した。これ以上押し付けられないと思うほど典子は体を須貝に絡みつけて唸っていた。須貝の怒張はまた典子のポルチオを突いていた。突かれる度に典子の体はうねり、噴き出した汗が光った。ポルチオの感覚は何時までも続く感覚だった。

今度は典子が頂上への道を制御し。それが出来る体になっていることを須貝は察知して典子の動きに合わせた腰の使い方をした。眼をつむり、口をとがらせ頭を反らし、顔を真っ赤にして交合を続けた。股間の感覚は沸騰しているが脳が耐えている。伸びあがれば源二が引き戻し、両脚を絡めてしがみつくと源二が抽送を工夫して爆発を押しとどめた。ウンウンと唸りながら汗みどろで交合が続いた。

源二・・大丈夫・・?
大丈夫さ・・。
典子の体・・いま凄いことになっているの・・。
顔を見ればわかるさ・・。
こんなこと・・・・健吾とはしたことない・・。
亭主を思い出して気を紛らわせているのか・・。
健吾のことを言わないで・・。
まだ何度かいきたいか・・・?
もういいみたい・・。源二・・一緒に行って・・。

源二が放出した時、典子が言葉にならない声を出し、体をよじるようにして終わった。数分間動かずに言葉もなく抱き合った。汗びっしょりだった。須貝の顔をぼんやりと見え始めた典子はようやく須貝とキスする余裕が出てきた。結合したままそれから長い間キスしていた。

汗を拭きたいという典子の声で須貝は結合を解いた。汗びっしょりで肌はピンクに輝いていたが、汗を拭きしばらくじっと仰臥していると徐々に退色してもとの白い体に戻っていった。

ありがとう源二・・ようやくすっとした・・・。
えらく切羽詰まったようだったな。
仕事が何とか認められて・・・緊張がとけて・・急に抱かれたい気持ちが強くなったのよ。そんなこと経験あるでしょう・・仕事がうまくいった時とか?
わからんでもないか・・。

ずっとこうしていたい気分も残るけれど食事にしましょうかと、先ほどまでの切羽詰まったような典子の様子が嘘のように変化した。典子がベビードールをつけてショーツに手を伸ばそうとすると、これはいいよとパジャマのポケットに入れた。しょうがない人ねと笑いながら薄物を翻しながら階下に降りてお手洗いに入った。

台所に向かってくる典子は素通しで、整えられたヘアーがきれいに見えた。須貝の視線の先に気づいて典子がいった。

なによ、エッチ・・。
いい景色だ・・学校の先生とは思えないな・・。
それをいうな・・・・バカ。

冷蔵庫から広子が用意してくれたものを取り出した。広子さんに迷惑かけたわね・・いいじゃないか・・またなにかお返しする時もあるさ・・・そうね・・と話しながら並べた。

典子の作ったものは和食中心のものだった。刺身はカンパチ、焼き魚はサワラ、ホウレンソウのおひたし、お汁、高野豆腐の煮物、香の物、ツナのマヨネーズ和えが添えられたトマトとレタスのサラダなどがあった。小さな器に入れられて食べられる量が計算されている・・と典子は思った。

お酒飲むか・・?久保田の小瓶があるけれど・・・。
頂く・・。わたし好きなの、このお酒。
乾杯といくか・。

なんの乾杯・・?
400m完走のお祝いだ・・。
400m・・・?
全速力を4回だった。

さっきお風呂場であなたが私を裸にした時に、わたし自分の鼻の孔が角張っている気がしたの。
角張っている・・?
健吾がね・・・・私が欲情した時は鼻の孔が角張るっていうの・・気が付いいた?
いや・・・・。

おかしい・・?
典子にシグナルがあるのはいいことだが・・。
そんなこと・・うちではあんまりないのだけれど。
でも健吾君が気付いたというから、あるじゃないか・・。
そりゃあるわよ・・。
いいなぁ・・。夫婦で欲情出来るなんて・・。
広子さんとはないの・・・?
もう歳だからね・・。
私にとって源二は凄い・・健吾よりいいのよ。
典子だからな・・俺も頑張ることが出来る。

おいしい・・このお酒。お刺身も・・何もかもだけど・・。
俺には典子の方がおいしい・・・。
そう言ってくれるとうれしい。
広子も包丁が使えるようになった・・。
ほんと・・・。私はとても無理だけど・・・。

広子と交代したら・・教えられるが・・。
人の奥さんを口説いてどうするの・・。
ダメか・・?
京都で卒業しなかったの?
典子に逢えばもとの木阿弥さ・・。

そんな話をしながら、広子が準備してくれたものをほぼ食べた。まだあるけれど・・と須貝が言う。いやこれで十分、広子さんの計算通りよ。

お酒もうちょっと・・飲むか? 冷やしたのがあるけど。
もうちょっと頂こうかな・・。

夜は長いとゆっくりと飲んだ。酔っ払わないかしらと典子がいう。人の奥さんを酔っ払わせるのはいいものだ・・飲めよと源二は勧める。結局もう一本二人で空けてしまった。

まだ空に少し明るさがあるな・・・。
7時半過ぎだよ・・。
日が長くなった。
しばらくゆっくりして酔いをさまそうか・・。
源二が勧めるからちょっと飲み過ぎたみたい。
麦茶があるけど・・。
頂く・・。

それから典子の学校の生徒のことや健一のこと等を話しながら時間が過ぎた。9時半ごろになって夕立があり、空は真っ黒い雲に覆われた。明日は晴れそうだなと須貝がいう。

わたし汗をながしたい・・。
そうだね・・。

シャワーでざっと汗を流して二階に上がった。須貝はバスローブを着けていたが典子はバスタオルだけで上がった。バスタオルを取ったら須貝が抱いてきた。

雷鳴が聞こえ、やがて雨になった。激しい雨が窓ガラスを断たしていたが雷雲が遠ざかると雨が止んだ・・。空模様が刻々に変っていた。窓ガラスにはベッドの上の二人の姿が浮かんでいた。

体を解放させたからしばらく何もしないで典子の体を抱いてくれる・・?
ただ抱くだけでいいのか・・。
ええ、眠ってもいいくらいのんびりと・・。
それもいいな・・。
あなたまだ賢者の時間なの・・?
そうでもないが・・。

〈源二の希望〉
ぽつりぽつりと学校の事情を話した。初年度できちんと仕事が出来ると信頼が出る、信頼さえあれば何とかなる・・前の学校で対人関係に悩んだことがあったから・・余計に頑張った・・両親がいるのでかなり頼ったこと・・健吾が協力的だったことなどを話した。須貝は黙って聞きながら、典子の髪の毛をいじったり、キスしたり、オッパイを揉んだりしながら聞いた。

気分が出てきたときは時々もつれ合うようにキスし、典子は須貝にオッパイを吸ってといい、たまに須貝の上に乗り須貝の体に唇を這わせ、それからまた話を続けた。

源二・・少し眠くなった・・わたしの体をずっと撫でていてくれる・・?
うん・・と言っ須貝は典子の体を肩から腕に、オッパイから腹部にゆっくり撫でた。いい気持・・と典子は言い何もかも須貝に体を任せ、両腕を額に乗せて体を投げ出した。

須貝の手が乳房から下腹部に至りそこからから股間に届くと・・そこはダメ・・感じさせないで撫でて・・ああ疲れが取れる・・いい気持・・癒されていくという。

健吾は素敵な旦那だけれどあなたは私の特別な人・・あまり逢えないから逢うことがとても貴重なの・・この時間はわたしの贅沢時間なのよ。世間では許されないことが私には許されている。夢のようなことよ・・・。

この前・・校長が来てね、坂上先生の授業の評判がいい、よく頑張ったと言ってくれたの。自分でもすごく頑張ったと思っていた。私の立場がほんの少しだけ固まったと思ったわ。そうしたらあなたに逢いたいとすぐ思ったの・・・。仕事を残してイライラした気分ではあなたに逢いたくない・・。

健吾君とは・・?
うまくいっているよ・・・・・。
俺と逢うのは特別の日で贅沢な日だという訳か・・。
そう・・・晴れの日よ。
わからんでもないが・・・。

思い出したけれど・・健吾が古民家のことを言っていたけど、あれはどうして?
うん、彼にはこれまでの俺の領域を少し分担してもらおうかと思っている。
だから二子に行ったの・・?
俺の先輩の家に・・・専門家だ・・。

ねえ・・源二・・どうしていま古民家が人気なの・・。
いまというより昔から一定の人気はあったよ・・。
でも最近よく聞くから・・。
そうだなあ・・・昔のものに憧れる人が増えたのかな・・。
それだけ・・?
それだけではないと思う。実際古民家の中には美しさがある・・美しさは時間が生み出したものなのか・・あるいはその民家が作られた時からあるものかわからないが、確かに美しい。時代が再認識させたのだろうと思う。
作られた時から美しかったと思うよ・・。
うん・・そうだろうなあ。

典子はね・・・美しいと人が感じるのは人の手が・・上質の手がたくさんかけられているからだと思う。現代建築でも美しいものは沢山あるけれど、あれとは違う・・人の手のかかった美しさだと思う。
うん・・古民家はそもそも芸術品としてつくられたものではない。普通の人が日常生活を送るために作られたものだ。しかし家の各パーツには当時の大工さんが心を込めて作っている。それがまだ利用できる状態で残っている場合は値打ちがある。それに使われている材にいいものがある。いまはもう日本にいい材は少ない。
古民家の価値は大工さんが手をかけた時間と使った素材で決まるのかしら。
それはリカードの労働価値説をいっているのか・・・?
ええ・・。

どうだろう・・。価格はさらに希少性と需要と供給の関係で決まるから・・・。芸術品みたいなものがあるの・・?
芸術品みたいは古民家もあるけれど・・オークションで価格が決まる有名な芸術品とは違う。
どこで決まるの・・・?
買い手の目利きと・・・売主との交渉で決まる・・。以前話をしたことがあるだろう・・俺の目利きは親父から教わったものだが、親父もそんなに知識があった訳でなく、俺がいま苦労していることを・・。
むつかしいのね・・。
だから先輩が頼りになる。
ふーん・・源二の仕事をもっと知りたいな・・・。
一緒になるか・・・?
バカ・・・・出来ないくせに。

典子は体を動かして須貝の胸の中に顔をうずめて抱き付いた。須貝も黙って典子を腕の中に抱いた。ガラス窓に映った裸の二人の動きが止まった。時間だけが動きはじめた。

眠っているか・・・?
ううん・・寝てない・・。
いい気持か?
こんな時間って・・・最高よ。世の中の誰も経験できていない時間だと思う。

賢者の時間が終わりそうだ・・。
いいよ・・抱いてくれる・・。
俺のことを思って体を許してくれる典子が抱きたい・・。
思っているよ、源二。
いや・・少し感じが違う・・。
どう違うの・・。
典子の中に健吾君がいる・・。
健吾の妻よ・・わたし。

うん。
変な返事ね・・。
うん・・。
どうしたのよ・・。
健吾君を忘れてほしい・・・。
また蒸し返すの・・京都の夜を・・。
そうなったらいいなあと思って。
ダメよ、私は健吾の妻なの・・・。
ダメか・・・。

須貝は典子の体を抱き直し、乳房を深く吸いこみ舌で乳頭をこねた。はぁ・・・・感じると典子は体くねらせた。須貝の手が背中からお尻に回り、ウエストのくびれを確かめるように動き、そして典子を引き付けた。

だんだん動きが出てきた。暗い闇をバックに二人の姿がガラス窓の中で動き出した。窓に・・と須貝がいう。顔を横にして窓の方を見ると女の上に男が乗りあげ、乳房に顔を押し付けていた。女は男の肩に手を置き片足で男に絡み付いている。広い窓ガラスの向こうは真っ暗い闇で、二人の全身が映っていた。

だれか他の人が向こうにいるみたいね・・。
そそられるだろう・・・?
また変なこと想像しているの・・いやよ・・源二とだけ・・。
いやか・・?
学校で緊張することが多くて・・だからこうして・・・源二といる時間が大事よ・・・他の人には邪魔させない・・。

典子のいう非日常の意味が分かる気はするが・・。
そうよ・・頑張って仕事を終えるとおいしいお酒を飲みたくなる、あれに似ているかも・・・。
俺は酒か・・・。
とびきりうまい酒・・・典子をとろけさせる・・。

互いにもつれ合い・・さらに時間が過ぎて行った。部屋の温度はあまり低くはしていない。裸で過ごすことを前提にして除湿くらいに設定していた。

喉が渇いたな・・・ちょっとビールを飲んで喉を潤そうと須貝は典子の手を引いて起こした。寝室に備え付けた冷蔵庫から小瓶を取り出しコップに注いだ。

おいしい・・。
うん・・。
いま何時・・?
12時に近い・・・。

あらそんな時間とは思わなかった・・。
楽しい時間は早く過ぎて行くみたいだな・・・。
ほんとね・・。

こんなことを健吾君とやっているのか・・?
してないよ・・。
すれば・・?
健吾とは普通にするだけよ。

もう少しビール飲む?
もういい・・。

グラスを置いてベッドに移り須貝は典子に乗りかかり典子の乳房を吸った・・。深く乳首を咥えてゆっくりと吸った。いい気持・・オッパイを吸われるとだんだん気分になる・・。

じゃあ・・はじめようか・・。
なんだか試合するみたいね。

須貝は典子の体から離れて股間に顔を近づけた。

コラ・・なめたらいかんぜよ・・・・・。
夏目雅子か・・。

須貝が膝をついて体勢を取ると典子は仰臥し股を開いた。須貝が典子の顔を見ると・・・入れてという。それまでに十分気分が高まっていたので、挿入したら典子はすぐに反応した。

今度も典子は最初から飛ばした。両脚を大きく上げてでんぐり返しになるほどに体を曲げた。須貝は典子を折り曲げるように形をとった。須貝の腰が上下に動く程に見えた。こんなのは初めて・・強烈に感じる・・源二・・すごい。

上から覗き込む須貝に、典子は股間が痺れてきた・・むずむずする・・時々光るようなものが見える・・・という。急がないで・・という須貝に、今夜は変よ・・どうにもならない・・と答えた。姿勢を戻そうとする須貝にそのまま続けてという。いってしまうぞ・・と言う須貝に頑張るからと典子は返事する。

しかしすぐに赤い顔をして典子がいやだ・・もういきそうという。練習相手だと思ってなめていたな・・と源二が冗談をいって気を紛らわせようとした。
典子はなんのこれしき・・と返したが、だめ・・不覚を取った・・と言いながら典子は顔を真っ赤にして体を震わせた。ああイク・・・といって顔をしかめて登りつめた。須貝に抑え込まれたような姿勢のまま目をつぶってしばらくは動かなかった。眼を閉じて荒い息を繰り返した。

オマンコが痺れている・・・。
誰にそんな言葉を教えてもらった・・・?
わすれた。
たくさん相手がいるのか・・?
いるわけはないでしょう。

体をほどいて二人は仰臥した。急ぎ過ぎだよ・・という須貝に、体が変になっているの・・・と典子は須貝の手を握って天井を見ながらいう。

やっぱり初年度の仕事は大変か・・。
生徒だけではないの・・職場の人間関係も・・管理が厳しくて教員間で話しにくいことが多いの・・。
むかしとは違うのかな・・。
むかしの話を聞くと全然違うという話よ・・。
それで典子は俺にはけ口を見つけているのか・・。
そんないい方・・いや。
しかしおれはうまい酒だろう・・。
そんなつもりで言ったわけじゃないよ・・気に障ったらごめん・・。

そういって須貝に方に顔を向けると上を向いている須貝の顔が違っていた。視線が遠くにあり、何かを考えているふうに見えた。

〈明け方まで〉
源二どうしたの・・・?
何でもない・・。
何でもあるでしょう・・?
・・・いやちょっと・・・。
何がちょっとよ、こんな可愛い人妻を横に置いて・・・・。

去年の夏を思い出していた。
まだ言っているの・・?
あの雰囲気が忘れられないのだ・・。
なにが言いたいの・・・?
去年の夏、典子から健吾君が消えた時があった・・。
二日目から・・?
そう・・あの日がなつかしい。
それは京都で終わったはずよ。
だから今日の典子には健吾君という壁がある。

健吾の妻だけど源二も好き・・それではいけないの・・。
壁を越えてくれないかなあと思う・・。

いまの私ではいやだというの・・。
なんとなく・・。
健吾の妻ではダメなの・・?
あの日の典子を抱きたい・・・。

今日は変ね・・源二。
去年の典子が忘れられないのだ・・。
変なの。
今夜は俺の典子になってくれ。
どうしても・・?
今夜だけでも・・。

私の心に火がついて・・・私が一緒になりたいと言い出したら・・?
そんなことにはならないさ。
さっき一緒になるかって聞いたのは・・。
気持ちはあるさ・・。
だったら私に火がついたら消せないでしょう?

そんなむつかしいことを言うなよ・・今夜だけ・・。
焼けぼっくいには火がつくものよ・・。
つかないように・・。
ついたらどうするの?
・・・・・・。
私だけが健吾と別れるの・・?
・・・・・・。

ずいぶん虫のいい話じゃない。
怒ったのか・・。
バカ・・嘘よ。
脅かすなよ・・。
なによ・・意気地なし。
参ったな・・。

でもそんなことを源二は考えていたの。
うん・・・。
しょうがない人ね・・・。
わかってくれるか・・。

じゃあ源二のために今夜だけ健吾を捨てようか。
頼むよ・・。

でもそうなるためには自分に暗示をかけるしかないけど・・去年の気持ちを思い出して・・・。
やってみてくれ・・・。
それだってプレイじゃないの・・・結局は。
それでもいい・・・・健吾君の影を消してくれ。

じゃあ始めるわ・・源二も真面目に私の言うことを聞くのよ。
よし・・。

〈幻想の夜〉
典子は去年の夏の自分の姿を思い出そうとした・・。須貝の家に行くまでの自分、居間でキスされた時、ベッドで初めて抱かれた時、翌朝須貝に抱かれてベッドで眼が覚めた時のこと、隣に寝ている須貝を見た時の驚き、そして初めて須貝と燃えた朝のセックス、二日目は一日中須貝に抱かれ、夜遅くから始めたセックスで虹色に乱れ須貝へ傾倒し始めたこと・・思い出せるものを次々と頭の中に浮かべた。

源二の上に体を乗り出して覗き込むように顔を見た。白状するけれど今日はこの顔をまともに見なかった、まともに見るとのめり込みそうで怖かった、でもわたしのことを好きだと告白してくれた・・見ればやはり素敵な男よ・・源二は。

私をものにしたければ私の眼をしっかり見なさい・・・目は心よ。本当に愛する覚悟で見ているの、広子さんより私を愛すると決心したの・・?

ほら・・広子さんより綺麗でしょう? 広子さんとは別れられる・・? 人妻を盗るのなら覚悟が必要だよ・・。

もう一度眼を見てよ・・・源二はもう広子さんには渡さないから。ねえ・・典子だけを愛しているといって・・・・。

そんなことを半分面白がって言っているうちに気分が乗ってきた。須貝は目の前にある典子の乳房を深くやわらかく吸いこんで舌でゆっくり捏ねた。背中に廻した手を静かにお尻に廻して撫でた。アヌスの周りに須貝の指が動いた。

そうよ・・わたしの命を吸い取るように吸って・・・。心を込めて吸って・・。わたしのことを世界で一番好きだと言って・・抱きしめてよ。

須貝は乳房を舐め取るように唇を這わし続けた。そこは子宮につながっているかのように典子の中心に響いた。ゾクッとする感覚が下腹部に生まれた。窓ガラスに映る二人の姿がうごめいていた。

・・・・続けて・・典子はアヌスの周りの須貝の指を意識していった。そこからはこれで感じられなかったような不思議な感覚が湧いていた。時間が経つにつれて何もかにもこれまでとは違った雰囲気が生まれてきた。

須貝は反転して上になり、典子の首に唇を這わせた。典子は須貝の体重を感じて抱かれた・・・と実感した。やさしさと力強さが感じられる抱擁だった。

須貝が典子の膝に手を遣り左右に両脚を開かせた。典子が腰を動かせて迎えた。須貝に抱かれた去年の感動がよみがえった。健吾とは違う・・・と典子が思った去年の夏の夜である。

あの時に帰ればいい・・・ここは源二と私の二人の世界。須貝さん・・すごい・・と心の中でつぶやいたあの時に帰ればいい・・・。

源二は、典子・・素敵だといいオッパイを吸い、腋下を舐め、脇に唇を移して吸った。典子・・俺の典子・・と言葉が出た。

典子、京都の夜に戻れそうなの・・・源二・・・愛しているといってよ。
愛している典子・・俺の典子だ・・。

そこから典子の気持ちが不思議な展開をし始めた。典子は健吾を捨てた気分で抱かれていようと思った。典子からセックスを楽しむだけという雰囲気が消えて、須貝のすべてを受け入れ、心と体のすべてを須貝の自由にさせる雰囲気が生まれていた。体が須貝に甘えた。体から抵抗が消えて、須貝のなにもかも受け入れる気分が漂い始めた。

そうすると須貝と繋がっている場所から感動の波が典子の子宮を揺すり始めた。快感が下半身全体を洗い、その快感が典子の思考を揺さぶった。気持ちが変化すれば体が変化する。やがて典子には健吾の存在がどうでもよくなってきた・・・。

健吾の妻だと意識して自分を縛って来たが・・・縛られなくてもいい・・・それでいいじゃない。去年の夏からずっと須貝を一途に思ってきた自分に気が付いた。・・なぜ気が付かなかった。・・いや気が付くのを抑えていたと思う。健吾を意識して須貝を封印していた自分の気持ちをいま知った。それはまた感動だった。感動が官能を刺激した。涙が自然と流れてきた。

須貝は初め典子の言葉が嘘実ないまぜになったものだと思っていたが、涙を見せ、震えてしがみついてくる典子に驚いた。女の涙に男は弱い。意気地なしと半分怒りながらやがて本気で俺のために涙流すほどに打ち込んでくれていることに感動した。私は人妻・・といった女が今こうして涙を見せて抱き付いていることに心を揺すられた。

あとはお互いに夢中になっていく二人がいるだけだった。須貝は京都の夜に戻り典子を抱いた。典子が初めて強烈なオルガスムスを知った夜に戻った。

そして典子にあの夜の世界が現れた。靄の世界が見えてきたと典子は喘ぐ。健吾の妻の中から徐々に須貝を愛する女が現れた。典子は須貝に翻弄されることに悦びを感じる女に変身していった。

すごいの・・・源二。
いいだろう・・俺の女になれ・・。
典子は源二のものよ・・。
俺たちの天国だ・・ここは。
源二・・。

やがて赤い靄がかかり始めたと典子はいう。もうすぐ溶岩が噴きだすようになるか・・・そうよ・・私の中に源二のものを注ぎこんで・・。そういったあと典子は口をとがらせて頭を左右に振った。

あぁ爆発する・・源二・・と典子は叫んだ。その瞬間に股間から子宮を通って脊髄に抜ける快感が典子を貫いた。こんなこと・・・あぁ源二・・・といってあとは言葉にはならなかった。溶岩が盛り上がり爆発して・・押し流されて典子は悶えた。初めて典子が知った性の爆発の時と同じだった。

悶えている典子の腰を抱えて須貝はなおも抽送を続けた。典子は須貝が抑え込み執拗に攻撃を加えているように感じたが、その攻撃を素直に受けた。蜜を含んだ攻撃で典子は唸り、震え、須貝に縋り付いて腰を振った。源二・・・源二・・あぁ・・たまらない・・うわあ・・と訳のわからない声をあげてまた爆発した。須貝が攻撃の手を緩めた。

腰の筋肉がビクビクと動いている典子を抱いて須貝は去年の夜と同じだ、いやそれ以上だと思った。やがて典子はぼんやり眼を開けて須貝を見て、源二・・と一度声を出してまた目を閉じた。その後何度かビクッと震えたあと典子はようやく須貝に抱き付く力が戻ってきた。顔を須貝に胸に押し付けて、源二・・夢みたいといって抱き付いていた。

黙って抱き合ったまま時間が過ぎた。動きたくないというより動けなかった。喉が渇いたかと須貝が聞くと黙ってうなずいた。

須貝は典子から離れて備え付けの冷蔵庫からミネラルウオーターを取り出しコップに注いだ。典子は手を伸ばし、起こしてという。引き起こされて起き上がり、コップを須貝から受け取り、しばらく放心したような時間があったが、一口飲んでおいしいといい、それからゆっくりとコップの水を空けた。典子は須貝の顔をまともに見るまでに回復してきた時に・・・去年に戻ってしまったという。

俺も京都に戻っていたな・・。
こんなになるとは思っていなかった。
確かに・・・・素敵な典子だ。

もう健吾に戻れないかもしれない・・・・。
朝になれば・・戻れるよ。
源二を愛していると意識したらこんなになるなんて想像もしなかった。
俺もさ・・。
もう源二から離れられない・・。

それにしても典子の自己暗示の能力は凄いな。
源二が好きだったのよ・・・自己暗示じゃないわ。
うん・・俺も典子が好きだ・・。

源二・・・・抱いて。
まだ続けられるか・・・?
源二が抱いてくれたら・・何度でも・・。
もう十分じゃないのか?
源二はまだでしょう?
・・・・・。
典子だけいったなんていやよ・・。
男も五十を超えるとイクことは重要なことではない。典子を抱いていることがうれしいのだ。しばらく俺の自由にさせてくれないか。
いいよ・・源二の好きなだけ抱いて・・。

そこから源二の愛撫が始まった。須貝は典子の体が好きだった。去年の夏に完璧だと思った体は少し肉がついたとはいえ、かえって脂がのり抱きしめるとその弾力がたまらなく、何とも言えない気持ちになった。嵐に翻弄された体は再び須貝の愛撫に反応しはじめた。乳房に唇を当てると胸を押し出すように体をそらし、頸に唇を当てると典子は須貝の肩を噛み、唇を合わせると舌を絡めてきた。再び体が桃色に色づき、須貝に愛撫に反応してくる典子がいた。

典子にはもう呪文の言葉は必要なかった・・・。キスされて呻き、触られて体をうねらせ、須貝に翻弄される自分がうれしかった。健吾はもうどこにもいなかった・・・ただ源二とだけの世界があった。

激しく愛撫する時もあったが、静かに絡み合う時もあった。須はゆっくり時間をかけていつまでも慈しんだ。典子はやがて須貝のものが自分の体を満たしてくれる時が来ると期待して待っていた。須貝が自分の体を貫き、須貝の精が自分の中にほとばしることを待っていた。もしこのままずっと抱かれているだけでも夢のような時間だと思っていた。

どれくらい時間があったか定かではないが須貝の動きが変り、須貝が典子の中に侵入してきた。その時典子は須貝のものが体の奥深く子宮に抜けて来るように感じた。須貝は典子を楽しませるために専念した。須貝にとっては到達することではなく到達までの道のりが楽しかった。典子もそれを知っているからもう自分で走ることはしなかった。源二に抱かれている幸せと悦びをかみしめながらすべてを任せた。

空が明るくなりはじめ典子の姿が窓ガラスの中に微かにちらついていた。白い脚が須貝の背中で交差している。典子は須貝の背に両手を巻いて抱き付き、須貝の腰だけが典子の中心を突いて動いていた。くぐもった声を典子は発し続けていた。いままで経験したことのない穏やかな快感が典子の体をずっと揺すっていた。両脚を須貝の背中で交差させてしがみつき、たかまって来ると声にならない声を出して震え、須貝の肩に噛みつくこともあった。

寝室から見える西空の雲に朝の光りが到達したころ、典子に限界が来た。もう来て・・といったようだった。須貝の腰の動きが変り、須貝に絡みついていた典子の両脚が伸ばされた。その脚の指がモロー反射のように曲がったとき須貝は腰を数度大きく打ち付けた。そして典子の腰を抱き、自分の腰をくねらせて気を遣った。須貝の抱擁に抗するように典子の裸体がうねり、大きな口を開けて・・源二・・・あぁ光が爆発する・・と叫んで意識の外に投げ出された。

〈広子の帰宅〉
朝日が高く昇り、部屋の温度は少しずつ上がってきた。昼近く広子が帰宅した時、須貝と典子はまだ眠っていた。須貝は仰臥して典子に腕を貸し、典子は横向きに体を縮めて須貝の胸に顔をうずめるように眠っていた。

広子は車があるので典子がまだ帰っていないと分かった。台所へ入ると夕食のあとが片づけられていない。まあ・・・片づける間もなくベッドに行ったのね・・・あら・・朝食も取った様子はないわね。まだベッドだわ・・源二も元気ね。

どうしよう・・私が帰っていることを知るとびっくりするわね・・でも帰ってくる時間は知らせていたはずよ・・ここから出て行くのもわざとらしいしどうしようかな。でも二人が私に隠れてセックスした訳じゃない・・起きるまで待っていようか・・と椅子に座った。

でも何時まで待たせるのかしら・・。朝のセックスをしている様子でもないわね・・寝ているのかしら・・。

待つ間に片付けようと食器を流しに運び簡単に水洗いをして食器を洗浄器に入れた。ちらっと二階の方角を見て、寝ているならもう起こそうかと思った。部屋に入っても怒られることはないだろう・・。

どんな姿で寝ているのよ。独り言を言いながら二階に上がって寝室の扉を開けた。そこにはタオルケットをかけて正体もなく眠る二人の姿があった。源二は仰臥し、典子は源二の胸に頭をつけ、両手を源二の胸に置いて寝ている。

あら、典子さん・・かわいい。源二・・・起きていればいい男だけど眠るとまるでだめね・・・。起こそうかと思ったが源二の体がぴくりと動いた。もうそろそろ起きるだろう・・よくがんばったものだと笑いながら扉を後ろ手に閉め、ちょっと立ち止まって中の様子を窺った。

二人が起きたらしい気配がした。立ち聞きしていると二人の話が聞こえた。

起きた・・?
うん・・・・・。

昨夜のこと覚えているか・・・?
覚えているわ・・。
去年の夏の典子に帰ってくれた・・。
源二・・・。
うれしかった・・というより信じられなかった。
典子も・・・・。

須貝が典子を抱きしめた。典子は胸に頭をつけて抱かれるまま、冷たい水あるかしら・・・喉が渇いたという。

うん・・・だけどもう昼・・広子が帰ってくる時間・・・・・。
えっ・・・・。
12時をまわっているよ・・。
あっ・・。

そうよ・・と扉の外で広子が答えた。

いやだ・・・広子さんそこに居たの・・。
いま帰ってきたところよ・・・。
開けないで・・お願い。
あら、またはじめるの・・?
・・・開けないで・・。
じゃあ下で待っているから・・。

広子は階下に降りて行った。足音が消えてから典子が言った。

やだ・・・恥ずかしい・・。
広子の公認だから恥ずかしいこともないだろう。
だって台所も片付けないでこんな時間まで寝てしまって・・。それにわたし脱いだものを全部浴室に置いてきて来た・・。朝片付けようと思っていたのに・・。それにキャリーバッグも・・。何も着るものがない・・お願い・・キャリーバッグを取ってきて・・それからスカートも・・。

紐のショーツならここにあるけど・・といいながら、源二はパジャマを着て一階に下り、浴室にあったキャリーバッグとスカートを持ってあがってきた。脱いだものはそのままにしておいたと言う。

ありがとう・・・ああいやだわ。
不倫現場を押さえられたわけじゃないだろう。
失敗したわ・・。

いそいで服装を整えて典子は悪戯をして見つかった子供のように広子の前に現れた。

ごめんなさいね・・。
あら、何か悪いことしたの・・?
・・・・・・。
日が昇るまでしていたの・・?
いわないで・・・でもあの・・。
ああ、食卓のこと・・?片づけておいたよ。
ごめんなさい・・。

広子・・典子さんを困らせるな・・。
源二も元気ね、相手が典子さんだったら・・。
そう言うな・・。

広子さん・・お願い・・。
なに・・?
健吾に電話かけて・・。もう少ししたら帰ると・・。
面白いこというのね・・自分の亭主に電話がかけられないの・・?
だって・・・。

ああ・・わたしが引きとめたことにすればいいのか・・。
お願い・・。
かわいいこと頼むのね。

そういって広子は健吾に携帯で電話した。昼ごはんを一緒に食べて帰るからと伝えた。

ゆっくりしていいそうよ。いま健吾さんは家にいないの。天気がいいから健一くんと箱根の山に行っているそうなの。
ああ・・よかった。

〈広子と典子の話〉
よくないわよ。
・・・・?
あなたの体・・・源二と抱き合ったままの体よ。唾液の匂いをつけて帰るの?健吾さんぎょっとするわよ。シャワーを浴びなさい・・・出来たらお風に・・源二も一緒にはいってきて。

典子はうろたえた。須貝が何か言おうとしたが、広子は昼食の準備する間に入りなさい・・時間の節約だという。問答無用の雰囲気にのまれて結局二人で風呂に入ることになった。

服を脱ぎながら典子はああ失敗した・・でも広子さんは私を困らせて楽しんでいるみたいねというと、ああいう性格だと源二は気にしていなかった。

昨日の風呂とはだいぶ感じが違うな。
これから裁判を受けるみたいな気持ち・・。
いや、あれ以上は何もいわないよ。
そう・・・?

広子は用件を言えばそれで終わりだから。
私だったら気が付いていてもいえないわ。・・唾液の匂いだなんて・・。
言いようだろうけれどね・・。

俺が典子にのぼせたから失敗したよ・・・。
最後は訳が分からなくなって・・・。
最後は二人とも力尽きていた・・・寝坊するはずさ。

人の家に泊まって、旦那さんと寝て、奥さんに食事を用意させて、朝はその旦那さんとお風呂なんて・・想像を絶することよね。
こんな話はどこにもないだろうな。

湯船を上がったら須貝がボディーシャンプーをつけて後ろから洗ってくれた。肩からウエストへ、脇腹、オッパイから下腹部へ、両方の脇の下、両脚を大きな手で丁寧に洗ってくれた。須貝の手が動いてもさすがもう官能は刺激されなかった。あとは自分でするからあなたも自分で洗ってといい、須貝の手の届いていない部分をきちんと洗い、シャワーで流した。

髪を洗うからと須貝には先に出てもらった。姿見に映る自分を見た。輪郭がぼんやりしていた。健吾には気づかれるだろう・・・鼻の孔の形で気付く人だから・・。髪と顔を洗いもう一度鏡を見た。化粧をしていないから輪郭が朦朧としている・・どうしようかと思ったが、もうこうなればこれで失礼して昼食のあとにしようと思う。

ブローしてダイニングキッチンに戻ると、簡単だけどこれで昼食にして・・と広子が言う。化粧のないことはいわれなかった。

昨夜からのことも話題にしなかった。山に行った話や健一の健康状態などが話題になった。食事のあと須貝は仕事をするからと書斎に消えた。

一時間ほどいいでしょうと広子がいう。
ええ・・でも早く帰らないと・・・
じゃあ3時まで・・紅茶を淹れるわね。
ごめん・・ちょっとお化粧してくるから・・。

そう言って典子は浴室に戻り、洗い篭のものをビニールの袋に入れ、簡単に顔を整えた。ああ失敗した・・と思いながら戻った。

はじめて昨夜からのことが話題になった。

楽しかった・・? でもこれは愚問ね・・。
本当に・・なにからなにまでごめんなさい。
気にしなくていいのよ。でも若いわね。
久し振りだったから・・。

健吾さんとは・・?
健吾とは普通。
なんで源二とこんなに・・?
贅沢な時間にしたかった・・。
贅沢・・? 
説明しにくいけど・・そんな気持ち。

何時頃まで・・だった?
・・4時だったかしら。

どんなことすれば夕方から朝の4時ごろまで過ごせるの?
聞かないで・・・。
はずかしい・・?
いま説明するとバカみたいなことだから・・。

そうよね、人に見られたらはずかしいことを当人たちは必死でしているからね・・。
ええ・・変な説明にしかならないわ。
でも教えてよ・・・。今度健吾さんとするから。
源二さんがお話すると思うけど・・。

何か変わったことあった・・?
変ったこと・・?
源二がまた口説いたとか・・・。
うん・・・。
それでどうしたの・・・?
嬉しかったわ・・・。

あら、寝取ったの?
ええ・・。
説明して・・。源二は私の亭主だから私にも一応聞く権利はあるわね。

一晩だけのつもりだったけど・・・。
今朝は・・。
まだ続いている感じ・・。
終わらないのね・・・。
広子さんごめんなさいね。

私はいいのよ・・それより典子さんは大丈夫なの・・?
健吾とこれからどうなるのかわからないけど・・。
そうよね。・・でどうするの?
源二さんも・・健吾も二人とも好きなの・・。

だったら大変ね・・・・。
ええ・・・?
よく健吾さんとお話しなさいよ。
どう話してよいかわからない・・。
それはあなたの問題だから・・私は手助けできないわね。
・・・でも・・。
それだけはあなたの問題よ・・・いい?

突き放すように言われて典子は自分の置かれている位置が急に不安になって来た。もちろん自分がそういう状況を作ってしまったことの自覚はある。家に帰らなければならないことはわかっている。また典子は去年の夏と同じ精神状態になっていた。
                     第5話    完


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