真夜中の、マンションの一室の中の、ダイニング。恐ろしいほどに静かな部屋。
私はそこで、1人の男と会っていた。否、それでは正しくないだろう。
目の前に座るその男性は、サラサラの黒い髪に、切れ長の目に、闇夜を彷彿とさせる、暗い青の瞳を持っている。彼の顔は、幼い日の面影を残しながらも、立派な男性の顔だ。身長は私が顔を見るために見上げなければならないくらい、高かった。まぁ、今は座っているのだが。
一方私は、ロングの黒い髪を1つに結っていた。私の目は彼に比べて丸みを帯びているが、そこまで可愛らしい容姿ではない。瞳は彼の瞳よりは明るいであろう、青色だ。
彼は、スーツの上着を脱ぎ、椅子にかけ、私に微笑みかけた。
「ただいま。」と言う言葉とともに。私も笑顔を浮かべ、
「おかえり」と返す。いつもの会話。毎日毎日繰り返される、日常の一部分。
「じゃあ、いつものを。」彼は薄い笑みとともに、言った。下品ではない、優しい笑みで。
無論、私は「ええ、そうしよっか。」そして、彼は2人の間にあるテーブルの上に置いてあった赤紫の液体で満たされた瓶を手に取り、コルクを抜く。その間に私は、切られたチーズを取り出し、また席に着く。すると彼は、そんな私の姿を見て、ワイングラスのような形状の、美しい装飾が施されたグラスにその液体を注ぐ。グラスの数は、人数分。私と、彼の。
「じゃあ、始めるか。俺たちの夜を。」そう言うと、私たちはグラスをぶつけ、チャリン、と鳴らし、示し合わせたように、同じタイミングで口をつける。その液体の深い味わいが口の中に広がる。
「ねぇ、今日は何人の女の子と話したの?」不安になりながら、私は彼に聞く。彼は、薄く笑い、
「今日は…10人だ。」と、私の質問に答える。少し悲しくなって、じっと見ると「もちろん俺はお前のものだ。」と言ってくれた。そして、彼は真面目な顔をして
「歌恋こそ、今日は何人の男と話したんだ。」不安そうに、焦燥感を感じさせる顔で、私に聞いてくる彼。
そんな彼が嬉しくて私は、「今日はね、7人だよ。」素直に答えた。すると彼は、
「歌恋は、俺から離れていかないよな?」不安と、寂しさと、愛いろいろなものが込められた目で、私を見ながら聞いてくる。
「もちろん…私は翔から離れたりしないよ。」精一杯の思いをこめ、答える。
そして、二杯目を飲み終わると、彼は席を立ち、ダイニングをでて、どこかへ向かう。少しすると、水が落ちて行き、床に当たる音が聞こえる。その間も私は、それを飲み進める。少し飲みすぎたのか、頭がくらくらする。
「戻ったぞ。」彼がそう言うと、今度は私が席を立つ。ダイニングをでて、戻って来る頃にはあの瓶はきっと空だろうと考えながら、扉を開け、中に入り、身につけていたものを脱ぎ、蛇口をひねる。熱い湯が、私の髪から滴り、身体を伝って落ちて行く。十分に身体を洗うと、用意していたふわふわのタオルで体から余計な水分を落とし、着ていた服をまた身につける。
「戻ったよ。」私がそう言いながらダイニングに戻ると、私の予想どうり瓶は空になっていた。彼は、素面の時と変わらない顔色で、
「そろそろ行く。」なんてことを微笑みながら行ってきた。無論私は、ええ。と頷いて、彼が立ち上がる。ダイニングの電気を落とし、向かいの扉を開け、中に入る。
その部屋には、大きな窓と、2人は余裕でー否、2人以上でも大丈夫だろうー寝れる、寝台が置いてある。大きな窓はカーテンが閉められておらず、私たちが住む街の夜景が見えた。結構高い階層の部屋なので、圧巻の眺めだ。一通り外を眺めると、私は彼の方を見て、彼も私の方を見る。彼は私を抱き寄せ
「寂しかった」と、低い、優しい声で耳元で呟く。
「私も、寂しかったよ」これは私の本心で、私の瞳には涙がたまっているのだろう。彼は優しく私の目元を拭うと、頰に手を置き、私に上を向かせる
「俺は、歌恋の物だ。」じっと私の目を見つめながら。
「私は、翔のものだよ。」そう私が言うと、彼の瞳が、顔が近くにきて、唇が触れ合う。熱く激しい、1度目の口付け。そして、私たちは寝台に移動する。私は、たどたどしい手つきで、自分のシャツのボタンを外し、スカートのチャックを下ろす。一方彼は、ボタンを1つ外し、ネクタイを緩める。
すると彼は私の後ろに座り、露わになった背中についた傷を撫でる。安心したように。彼が、私につけた印。彼はそれを優しくなぞると、口付けをしていく。
思わず、声がもれる。「ん…あ、ん…」
彼は私の前に回ると、私を押し倒し、そのまま接吻を交わした。甘く、長く、貪るような。酸素を取り入れようと開けた口に、彼の柔らかい舌が入ってくる、舌が絡み合い、唾液が混ざり合う。まるで、2人は境界線など最初から存在しなかったかのように、お互いを、貪りあい、その度に流れ込むお互いに酔っていた。
銀の糸を引き、口を離すと、彼は私の胸を弄ぶ。なめ、噛み、揺さぶる。私のナカはびしょびしょになっていた。そのあと、彼の自身が差し出される。私はその先を優しく舐め、そして一気に口に含む。彼の自身は溢れんばかりの大きさだ。すると、苦いものが、口の中に溢れる。
「ん…苦い…」
「歌恋…エロい…」そう言って、彼は、私の蜜壺を舐め、じゅるじゅると音を立て、吸う。
「んっ、あっ、まっ…」久しぶりの快感に、体を仰け反らせる。
そして、今度はまた1つとなる。大きく膨らみ、本能と欲望の塊となった彼の自身は、あまりにもすんなり私に侵入してきた。
「ん、あ、翔…あんっ、んっ」
「か、れん…可愛いよ…」彼の余裕のない声。彼はまた、私の口を、彼の唇で塞いできた。唾液が混ざり、1つになる。私たちは快楽の濁流に飲まれ、息をつく間もなく、快楽に溺れ、愛し合った。
暁の淡い光の中、私と彼の吐息だけが響く部屋。世界には2人しかいないような、彼と私の音しか存在しない場所。私たちは、何度も、何度も果てた。
「ねぇ、翔。翔は私を捨てないよね?翔には私しかいないし、私には翔しかいないもんね。」私はそうあなたに語りかける。あなたは
「ああ、俺は歌恋のもので、歌恋は俺だけのものだ。俺には歌恋しかいないし、歌恋には俺しかいないからな」と、答えてくれて、嬉しかった。
「私を満たしてくれるのは、翔だけだから…」私は、そう呟く
「俺を認めて、大切にしてくれるのは歌恋だけだ…」そんな、彼のつぶやきが聞こえた。
彼のぬくもりを、隣に感じるだけで、幸せだ。甘いものほど溶ける。それが恋だっけ?でも、甘い以外の感情も、あるのかもしれない。
「私は、翔がいないと生きていけない…」震える声で、言った
「歌恋を置いて逝ったりしないさ。」そういう彼は、私の頭を撫でる。
「死ぬときは、一緒に行こうね。」きっと、2人とも、天国にはいけない。
「ああ。」でも、きっと、彼と行けるのなら…どこだって天国だ。
日が昇る。私と彼の時間が終わってしまう。そんなことを考えたとき、私の唇がふさがれ、2人が絡み合う。とても、長い時間に感じられたが、短かったのかもしれない。
お互いの味を口に残したまま、私たちは、日常に戻る。
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