牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城
-
ホームページ
戻る
25-11-05 10:25
|
『あなた、お帰りなさい。契約はどうだった?』 帰宅するなり、妻の由貴が心配そうな顔で聞いてきた。いつもニコニコと笑っている由貴がそんな表情をしていると、僕が何かしでかしたわけでもないのに申し訳ない気持ちになってしまう。 上手くいったよと答えると、彼女はすぐに笑顔になった。そして、由貴は安心したように、 『良かった。お疲れ様。お腹すいてるでしょ? ご飯食べよっか』 と言いながら、僕のカバンを受け取ってくれた。 若草色のプリーツスカートに、白のブラウス。清楚でおしゃれな感じの姿に、今日はパートの日だったんだなと思った。由貴は、週に3日ほどカフェでパートをしている。河川敷のサイクリングコースにほとんど隣接しているような立地で、サイクルカフェのような感じのお店だ。 マスターの手作りのケーキやパスタが人気の、おしゃれな感じのするカフェだ。2度ほど行ったことがあるが、僕にはちょっと居心地が悪いと感じてしまう、意識の高そうなお店だ。 先に歩いて行く由貴を見て、相変わらず可愛らしいなと思った。結婚して2年ほど経つが、僕はまだ新婚の気分が抜けていない。 由貴は身長160cm、体重はおそらく50kgちょっと。少しぽっちゃりしているかもしれない。ただ、身体は少しぽっちゃりしているかもしれないが、顔には出ないタイプだ。顔はシュッとしている。 ぱっちりした二重まぶたの大きな目が、彼女のルックスの上での最大の長所だと思う。それに引き換え、僕はどこにでもいるようなごくごく平凡な男だ。取り立てて女性にモテたこともないが、キモいと言われたこともない。標準とか普通という言葉が似合うと言われたことならある。 食事を始めると、由貴は色々と質問してくる。毎日そんなに変わった出来事なんて起きないのに、由貴は色々と僕の一日を聞いてくる。いつもと同じような話になってしまうなと思いながらも、僕は今日一日の出来事を話していく。 由貴は、本当に熱心に聞いてくれる。こんな風に興味を持ってもらえると言うことが、こんなにも嬉しいことなんだなと改めて実感した。 僕は、不動産会社で働いていて、今日は2億ほどのそこそこ大きな契約が出来た。不動産の営業職は、歩合給のところが多い。ウチの会社も同じで、基本給が低めな代わりに歩合給はかなり良い。 2億の契約をしたので、今月は歩合給だけでも100万円を超える収入が約束された状況だ。契約が取れているときの不動産業は、本当に楽しい。 『そういえば、今日も浜田さんお店に来てくれたよ』 由貴が、思い出したように報告をしてきた。浜田さんは、僕の上客だ。年に数件利回り物件を買っていただいているお客さんだ。元々、相続で賃貸マンションを何棟か持っている地主さんで、いわゆる上級市民だ。飲食店なんかも経営していて、結構繁盛しているみたいだ。お金持ちがさらにお金持ちになっていく……。なんとなく、悔しいというか理不尽だなと思ってしまうこともある。 浜田さんは、48歳で****も二人いる。二人とも大学生だとか言っていたと思う。お金もあって子宝にも恵まれていて、奥さんも美人という、なに不自由ない人生を送っているような人だ。でも、お金を持っている人の常というか、女好きで浪費家だ。そして、あまり性格が良いとは言いがたい人柄だ。 正直、僕は彼のことを好きではない。でも、なぜか僕は気に入られていて、不動産購入の窓口に僕を使ってくれる。不動産の物件は、今時はネットで簡単に探せる。そして、物件を出している不動産業者に直接話をするのが普通なのに、いつも僕を買い側の不動産業者として使ってくれる。 正直、僕の年収の半分くらいは彼のおかげと言うこともあり、むげには出来ない感じだ。そして、一番僕がイヤだと思っているのが、彼が由貴を気に入っていると言うことだ。 今日も、わざわざ由貴のパートしているカフェに行ったみたいだ。自転車に乗らない彼が、わざわざ行くようなカフェでもない。それなのに、結構頻繁に顔を出しているみたいだ。 小さな店なので、平日はピーク時を外せば結構ヒマな感じらしい。そんな時間を狙って、彼は訪れるようだ。そして、由貴との会話を楽しんでいる……と言うことだと思う。 由貴は、迷惑しているともなんとも言わない。そもそも、由貴は人のことを悪く言わないタイプだ。なので、浜田さんのことも嫌がっているような感じは見せない。でも、あの性格で女好きの彼が、セクハラまがいのことをしないはずがない。 僕の仕事のために、我慢してくれているんだろうなと思う……。僕は、イヤなことされてない? と聞いた。でも、質問しながら、イヤなことをされていても内緒にするんだろうなと思った。 案の定、由貴は笑顔で、 『そんなことないよ! ヒマなときに遊びに来てくれて、良い退屈しのぎになったよ』 と、言った。僕は、本当かな? 大丈夫かな? と、心配しながらも、今彼がいなくなったら、収入にかなり響いてしまうなと思っている。 自分の嫁がイヤな目に遭っているかもしれないのに、収入のことを考えて目をつぶる……そんなのは、最低な夫だと思う。でも、僕はそれなら良かったと言ってしまった。 『うん。大丈夫だよ。心配しすぎだよ。浜田さん、いい人だと思うよ』 笑顔で言う由貴。僕は、曖昧に微笑んだ。 そんなある日、浜田さんに食事に誘われた。彼の知り合いのお店がリニューアルオープンしたとのことで、様子を見がてらだそうだ。由貴も誘われた。もちろん、申し訳ないのでと言って遠慮したが、強引に押し切られてしまった。 平日の昼間だけど、僕の上司も浜田さんのことはよくわかっていて、何の文句も言わずに休ませてくれた。休ませたくれたと言うよりも、出勤扱いにしてくれた。 「恵比寿のあのビル、はめ込めるんじゃない?」 上司は、ニコニコしながら僕に提案してきた。確かに、恵比寿のビルにしては3億は安いと思う。ちょっと駅から歩くのと、築年数が古いのがネックだと思うが、面白い物件だと思う。僕は、任せてくださいと言った。 こんな感じで、浜田さんがらみのことになると、上司も協力的だ。今までも、ゴルフや旅行を有休を使うことなく行かせてもらっている。でも、僕にとっては浜田さんと遊びに行っても、それは仕事でしかない。正直、全然楽しくない……。 『え? 嬉しいよ。だって、高いお店なんでしょ? いっぱい食べちゃおうよ』 由貴は、嬉しそうに言ってくれる。でも、夫の僕には、それほど喜んでいないのは伝わってくる。申し訳ない気持ちになりながらも、恵比寿の物件を買ってもらうためと思って割り切ろうと思った。 待ち合わせの場所に、浜田さんはいつものマセラティでやってきた。由貴は、 『すご~い。なんて車? フェラーリ? スーパーカー?』 と、目を輝かせながら聞いてきた。僕は、マセラティだよと言ったが、案の定、由貴は知らなかった。 「おまたせ~。じゃあ、奥さん前に座って。後ろ、乗り心地悪いから」 相変わらずのギラついた顔で話しかけてくる彼。僕は、助手席に由貴が座るのがイヤだなと思いながらも、わかりましたと言って後部座席に乗り込んだ。 由貴は、失礼しますと言って助手席に座る。キョロキョロと、車内を物珍しそうに眺めている。 『この前は、お店に来てくれてありがとうございました』 由貴は、丁寧にお礼を言う。 「由貴ちゃんの顔見たくなったから行っちゃったよ。ホント、可愛いよね~」 彼は、そんなことを言いながら車を走り出させる。やたらと女慣れしていることが鼻につくが、彼のキャラクターにはマッチしているなと思ってしまう。 身長は、175cmくらいだろうか? 高くも低くもない。体型は、スリムだ。もうすぐ50歳にしては、自己管理が出来ているんだなと思う。サイドを大胆に刈上げた短髪で、それをオールバックにしているので、サスペンダーとかカフスボタンが似合いそうな感じのイマドキな風貌だ。 車を走らせると、彼はとにかくよくしゃべる。自慢が7割という感じで、やたらと由貴のことも褒める。 「お店で見るのと、かなり感じが変わるね。そんなミニスカートも穿くんだね」 そんなことを言う彼。言われてみれば、今日の由貴はいつもの清楚系の格好ではなく、少し短めのスカートを穿いている。上も、ニットだけど胸元が少しルーズっぽい感じだ。 僕は、ちょっとドキドキしてしまった。こんな姿の由貴を、ジロジロと見られている……。そう思うと、危機感も感じる。 どうしてこんな格好なんだろう? もしかして、彼の機嫌を取るために? 僕は、由貴の気持ちがわからずに、申し訳ないような気持ちになっていた。 『はい。今日は、浜田さんにご招待してもらったから、ちょっと気合い入れちゃいました』 由貴は、笑顔で言う。内心はどう思っているかわからないが、無邪気に楽しんでいるように見える。 「嬉しいねぇ~。疲れたら、いつでも脚拡げて良いからね」 下ネタっぽいことを言う彼。彼は、女性にはいつもこんな感じのセクハラ体質だ。でも、由貴は笑いながら、わかりましたと言う。 たぶん、彼がセクハラっぽいことをしても、誰も注意が出来ないんだと思う。そして、イヤなドライブが続く。由貴は、表面上は楽しそうにしている。浜田さんのことを持ち上げるような発言も目立つ。そして、彼のセクハラまがいの発言も繰り返される。 「由貴ちゃんって、色白だよね。ホント、太ももたまんないね」 もう、セクハラっぽいではなく、セクハラになってきている。 『ありがとうございます。色が白いと、色々ごまかせるんでありがたいんです』 そんな感じで会話を続ける二人。僕は、正直存在を忘れられているような状態だ。 そして、お店に着いた。そこは、飲食店ではなく料理旅館だった。 『旅館なんですか?』 驚いて聞く由貴に、浜田さんは、 「そうだよ。温泉付きの部屋で食べられるから、ゆっくりしたら良いよ」 と、優しげな顔で言う。でも、それって彼の前でお風呂に入ると言うことなんだろうか? と、ドキッとしてしまう。でも、由貴はそこにはまだ考えが言ったっていないようで、無邪気に喜んでいる。たぶん、この喜び方は本物なんだと思う。 そして、車を正面に回すと、すぐに係の人が飛んできた。いつもありがとうございますと言いながら、荷物なんかを受け取る。 「よろしく~」 と言って、車の鍵を渡す浜田さん。本当に、こんな行動がナチュラルで様になっているなと思う。そして、部屋に通された。たぶん、宿泊する部屋なんだと思う。とにかく広い。旅館なのに和室ではなくフローリングだ。大きなローテーブルにソファがある。そして、ベランダ? それともバルコニーというのだろうか? 窓の外にかなり広いスペースがあり、温泉がついている。 それは、温泉付きの部屋という感じの狭い風呂ではなく、スーパー銭湯の露天風呂の狭い方と言うくらいの大きさがある。 『こんなに大きいんですね! びっくり!』 由貴は、はしゃいでいる。でも、こんな造では、どう考えても見られてしまうなと思った。 「先に入ろうか。冷えちゃったし。内風呂もあるから、そこで流して湯浴み着てきなよ」 彼は、テキパキと考える間を与えない感じで指示をする。僕は、なんとなく彼の意図がわかった気がして嫌な気持ちになってしまった。
|
Copyright © ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)All rights reserved.
コメント